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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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スカーレット1

スカーレット、周りの人は私をそう呼ぶ。


「大丈夫?」

「えぇ。」

鞭で叩かれた足がまだ痺れている。ここは奴隷を保管している檻の中。周囲の表情を見ても絶望しか浮かんでいなかった。


私の親が誰なのかはわからないが、確かに存在していたという記憶はある。しかしどのような経緯で私がここにいるのかはよくわからなかった。急に目の前が真っ暗になったかと思うと、ここにいたのだ。


「まだ売れないんですかこの娘は。」

「早く処分しちまいたいんだがな。」

そんな声が聞こえてくる。


「この肌の色のせいだろうな。」

「どの客も悪魔付きなんじゃないかって買わないんだよ。」

私はほかの人に比べて、肌の色が白かった。これが病気なのかなんなのか私には知る良しもなかったが、別に体に異常はないので気にすることはなかった。


「私、どうなっちゃうのかな。」

「知らないわ。」

新たにこの檻に入れられた子がそういう。私と同じくらいの、片腕がない子供だった。知らないというよりは答えたくなかった。買われるということは、この場所よりもひどいことされることであると容易に予想がつくからだ。


「血、出てる!」

そういうと自分の着ているぬのを少しやぶって、私の傷口に当てる。


「な、何をやっているの……?」

突然の出来事に戸惑ってしまう。今まで長らくこの場所にいたが、そんなことをする人は誰1人といなかった。皆自分のことで手一杯で、他人を心配するという無駄なことはしない。


「血は、早く止めないと!」

そんなことはわかっている。が、私は他人だろう?なぜそんなに心配ができる。


「このくらい、自分でやるわ。」

当てられている布を払い除けて、自分の服で押さえる。


これが始まりだった。この子は私が怪我をするたびに駆け寄ってきて、大丈夫?何かする?というような言葉を発していた。


「あなた、他人を気にかける余裕なんてないでしょう?こんな非生産的なことやめたら?」

そんなことをいう。

「そんなこと思ってないよ……。でも、嫌だったらやめるよ……」

「そ、そんなことを言いたかったわけでは……」

すごく悲しい顔をさせてしまった。なぜが私までそんな気持ちになってしまう。


--


「この娘は片腕がありませんが、よろしいですかな?」

「ぐへへ、体さえ使えればなんでもいい。」

「かしこまりました。金貨10枚でございますぜ。」

そんな声が聞こえてきた。きっとこの子も買われることだろう。若い娘の使い道など想像に難くない。わたしには知ったことではないが。


「早く出ろ!」

「あっ」

無理矢理に牢屋から連れ出されていた。


「どうぞ確かめてみてください。」

「ほう」

そう言って貴族と思わしきやつが、べたべたと彼女の体を触り始める。


「なかなか良いではないか」

「や、やめっ」

涙を浮かべながらそう叫ぶが、周囲の奴隷たちは目も合わせない。


「どれ、早速試してみるか」

そういうと貴族は彼女の下半身に手を伸ばしはじめる。


「お待ちください。まだ商品ですので。」

「そうだったな。ほれ。」

ポケットから十数枚の金貨を渡す。指定された値段よりも多くを支払ってもらい、奴隷商の男は笑みを浮かべていた。


「ありがとうございます。では味見はこちらで」

そう言って奥の部屋へ連れて行かれる。


「や、やめ」

「大人しくしろ!」

「あぁっ」

支配の魔法の効果で、身動きを封じられる。連れて行かれながら、彼女の絶望に浮かんだ顔はこちらを見つめていた。


私が目をそらしたらそれで終わり。早く目を逸らしてしまおう。しかし、どうしてか心がざわつき始める。何をばかなことを考えている。何度か声をかけてもらっただけではないか。


その考えに反して私の体が動く。


「なはしなさい!」

牢屋の格子を掴むガシャンという音が響き渡った。


「なんだこいつは。」

「すみませんすぐに黙らせます。」

『動くな。』

「ぐっ!」

体中が縛られたかのように締め付けられる。これが契約の力。


「こやつもなかなかいい体をしているではないか。」

「どうです?こちらもいっしょに。」

「冗談を言うでない。悪魔付きなんぞをそばにおいてられるか。」

そんなことを話しながら遠くへといってしまう。……くっ!こんな縛り……。私は体の内側に力をこめる。しかしそれに反応するようにこの縛りの強さは増していく。


「があぁぁっ!」


なぜ私は立ち上がろうとしているのだろうか。なぜ私はあの子を助けようとしているのだろうか。分からない……が、そんなことはどうでもいい。今私が立ち上がらなければ、一生後悔してしまいそうだからだ。


何も考えずに内側から力を出すだけでは痛みが増すだけ。合間を縫うようにゆっくりと、契約に気づかれないように、この力を操作する。……私の内側にある力が微量だが外に出たのを感じる。あとはここからこじ開けるように、この力を外に流し込む!


「はあぁぁぁ!」

それに反応するようにやはり縛りの強さが増していった。しかし外に出るこの力の量も増えている。このままこじ開ける!


ピシッ、

そんな音が聞こえた気がした。


「熱っ!な、なんだ!燃えてる!」

奴隷商のかばんの中から火が出ていた。


「どうしたのだ!」

「け、契約書です!その一枚が燃えています!」

「ば、ばかな!」

私の中から変な力が大量に外に流れ出るのを感じる。すると周囲にいた奴隷たちが次々に倒れていく。が、それを考えることもできないくらい私は目の前のことに集中していた。


「警備兵!早く来い!」

遠くにあるはずの足音が鮮明に聞こえてくる。私は目の前の檻をつかみ、こじ開ける。


「なっ!檻を手づかみで!」

「早く止めろ!」

『とまれ!』

しかしその言葉は私に届くことはない。


「この契約書!」

燃えて地面に落ちた契約書にはスカーレット、そう書かれていた。




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