全滅した冒険者たちの日記
6月1日
俺は、同じ冒険者仲間であるリーゼとシャルロットと共に、吸血鬼が住み着いているといわれる廃城へと来た。
本当に山奥で、雲が厚く昼間だというのに薄暗い。
それに悪趣味に、木の枝に骸骨を何体も飾っていやがった。
おかげでリーゼがすげービビってたぜ。
全く吸血鬼にはもってこいの場所だな。
しかし俺達に狙われた以上、もう奴の命運もつきたというもの。
なにせ俺達はSランク冒険者だからな。
すでに多くの討伐隊が殺られてるそうだが、俺達は一味違うぞ。
6月2日
クソ、吊り橋が落とされた。
吸血鬼の仕業だ! チクショーめ!
あの吊り橋は、廃城と下界をつなぐ唯一のルートだったのに。
でもな、慌てる事はねぇんだよ。
俺は王国国立魔法学校を首席で卒業したエリートだ。こんな断崖絶壁くらい、俺の飛行魔法を使えば下山なんて簡単に出来るんだからな。
6月3日
今日、ゾンビ五体をやった。
おいおい俺達はあんな雑魚どもを狩るために、こんな薄気味悪い山奥まで来たんじゃないんだぞ。
しかもあろう事か、この俺とシャルロットに傷をつけやがった。
だから木っ端微塵にしてやったぜ。
それにしても吸血鬼の野郎が出てこねぇ。
まさか俺達が来たから、吸血鬼の奴め、ビビって逃げ出したんじゃないだろうな?
6月4日
シャルロットとはぐれちまった。
アイツの事だから、くたばるわけは無いと思いたいが。
おかげでリーゼは、ずっと泣きわめいてうるさい。
あーイライラする。
こんなクエストやるんじゃなかった!
6月5日
リーゼが奇妙な娘と一緒にいやがった。
よく見たらそいつは吸血鬼だったから、急いで光魔法をぶっぱなしてやった。
リーゼは優秀なんだけど、まだ幼いからどれが敵でどれか安全かの区別がつかねーんだ。
6月6日
熱が出た。
とてもじゃないが今日は動けなかった。
夜になった治まったから書いてるけど、いやマジで化け物どもに襲われなくてよかったぜ。
6月7日
朝起きたら、あの吸血鬼がいやがった。
マジでビビった。
そいつはオプトゼチと名乗って、俺に血を寄越せって言いやがった。
だから光魔法で追っ払ってやったぜ。
6月8日
熱がひどくなった走る事もできねぇ。
魔法も使えねー。
ゾンビが襲ってきやがったが、オレには攻撃せずリーゼばかり追いやがった。
どうなってやがる。
6月9日
腹へった、喉が渇いた。
リーゼ、シャルロット、どこいったんだ?
6月10日
またオプトゼチってやろうがでてきた。
もうておくれだから、らくにしてやろう、とかほざきやがった。
ざっけんな、だからまほうつかった。
6月11日
このへやにリーゼがかくれてる。
きっとシャルロットもいるはずだ。
とっとこのドアあけてふたりを
6月1日
今日私たちは、吸血鬼をやっつけるために魔法使いのエミリーさんと、弓使いのシャルロットさんと一緒に壊れたお城に来ました。
山奥にあって、途中ガイコツがたくさんあったけど、私は怖くありません。もう子どもじゃないんだから。
6月2日
吊り橋が壊されてしまいました。でも大丈夫です。エミリーさんの箒に乗ればふもとまで降りられるのです。
だから私は大丈夫です。
6月3日
今日はゾンビに襲われました。私たちは強いのでやっつけましたよ。
ただエミリーさんとシャルロットさんが怪我をしてしまいました。かすり傷だからすぐに手当てをしました。エミリーさんは攻撃魔法が得意なんですが、回復魔法はあまり使えないそうなので私がやったんです。
それにしても、目的である吸血鬼は出てきてくれません。
最近、ふもとの村が襲われたそうなのです。犯人は吸血鬼だそうで、倒すとたくさんのお金が貰えます。
これでお父さんとお母さんの暮らしも楽になりますね。
6月4日
今日もゾンビをたくさん倒しました。
ところがシャルロットさんが、いなくなってしまったのです。
もしかしたら、やられちゃった何て考えたら私泣いてしまいました。
エミリーさんにすごく叱られました。
6月5日
金髪の女の子の出会いました。その子の名前はオプトゼチちゃんて言います。
彼女は言ったのです。
私の血を少し分けてくれたら、みんなをふもとまで下ろしてあげるって。
だから私、ナイフで自分の指を切ろうとしたんです。
そしたらエミリーさんがすごく怒って、魔法でオプトゼチちゃんに攻撃したのです。
エミリーさんが言うには、彼女は吸血鬼なんだそうです。
確かに私たちとは見た目が違っていました。
真っ白な身体に、尖った耳、赤い目で瞳孔は猫のように細長かったです。それに口から牙は出ていました。
オプトゼチちゃんは、私を食べるつもりだったのでしょうか?
あんまり悪い子には見えなかったのですが。
6月6日
エミリーさんが酷い高熱を出してしまいました。
私はずっと剣を抜いて、敵が襲ってくるのを待ち構えていました。でも誰も来ませんでした。
その夜、オプトゼチちゃんがやって来ました。身体が、透明というか透き通っていたのです。血を分けてくれたらエミリーさんを治してあげると言ってきました。
私は断りました。きっと今は力が出せないのでしょう。もし血をあげたら、強くなって私たちを食べてしまうはずです。やっぱり悪い吸血鬼だったんですね。
6月7日
朝起きたら、オプトゼチちゃんがエミリーさんを食べようとしていました。私が大声を出すと、エミリーも起きて魔法で追い払いました。
オプトゼチちゃんはどうしても今すぐ血が欲しいと言っています。怖いです。
6月8日
エミリーの容態が急変しました。
目が白くなって、顔色は黒っぽい紫、歯は抜けて口や鼻から血がだらだら流れているのです。これってゾンビになる兆候でしょうか?
私は一生懸命回復魔法を使ったんですがダメでした。
そしたらゾンビたちが、たくさん襲ってきました。
エミリーさんはもう仲間だと思われているみたいで、私だけを追っかけてくるんです。
6月9日
地下室に隠れました。
ここなら大丈夫です、たぶん。
部屋の中にガイコツがありました。
思わず悲鳴を上げそうになったけど我慢しました。
気付かれたらお仕舞いですからね。
そのガイコツの近くに弓が落ちていました。シャルロットさんの物です。
ああ、何て事でしょう。
私は変わり果てた彼女を、部屋にあった棺桶に入れました。
6月10日
またオプトゼチちゃんが現れました。
この前よりも、すごく透明です。
血が欲しいそうだけどあげません。
剣で刺しましたけど、すり抜けてすまいました。幽霊なのかなあの子?
6月11日
ゾンビにドアを叩かれています。
もうすぐ壊れて中に入ってくるでしょう。
『うーうー』とうめき声を言っています。それはエミリーさんのものでした。
私はお腹が空いて、もう戦う力がありません。
私はもうすぐ、ゾンビになったエミリーさんに食べられてしまうでしょう。
お父さん、お母さん、私はここまでです。今までありがとうございました。
さようなら。
6月1日
エミリー、リーゼの冒険者を説得して私はこの廃墟と化した城に来た。
目的はただひとつ、吸血鬼の力を得て永遠の美貌、そして太陽をもろともしない究極の吸血鬼になる事だ。
6月2日
夜の間に吊り橋を落とした。これでここは陸の孤島だ。
エミリーは空を飛ぶ事が出来るが、手柄も無しに引き上げるわけがない。その強欲さに感謝だ。
6月3日
私は自分の腕を切って、その血でゾンビを五体召喚した。
たいしたレベルではないから、あのふたりに簡単に倒された。
しかしエミリーに傷を負わす事は出来た。
ゾンビの毒が肉体に入った。
あと数日もすれば彼女はゾンビになる。
6月4日
これ以上、彼女たちと同行していては私まで巻き添えを食らう。
だから別行動を取らせてもらうよ。
6月5日
地下室に行くと、棺桶があった。
もしやと思って開けるも、中は空だった。
すると突然、背後から声をかけられた。
それは金髪の少女。
身体的特徴から吸血鬼と考えて間違いない。
オプトゼチと名乗った彼女は『血をくれたら逃がしてやる』などと言った。
身の程をまきまえろ。
私は即座に十字架を掲げた。
動きが止まったところを、銀のナイフで突き刺す。
次に聖水を取り出したら、吸血鬼の奴め、酷くおびえたのだ。
『私の心臓は、人間には毒だ』などと命乞いをしおった。
うるさいから、聖水を飲ませてやった。
すると吸血鬼は溶けてしまい、突き刺した心臓だけが残った。
私はそれに特殊な薬をかけて食べた。
一時的に肉体は消滅するが、魂は残る。
それにゾンビ召喚の能力も健在だ。
あとはエミリーとリーゼが死ねば、ふたりの魂で私は復活出来るのだ。
これで私も吸血鬼になれたというもの。
私は三冊の日記帳を棺桶の上に置いた。
そして、無惨に食い殺されたリーゼと、胸から下が粉々になったエミリーを撫でてやった。
ふたりを棺桶の中に入れて蓋をした。
次に私は、自分の手についた赤い物をなめる。
それは、さっきまで生きていた幼い女の子と、数日前まで人間だった女性の血だ。
あまり美味しくなかったけど、私の空腹はいくらか良くなった。
だから彼女たちの死は無駄ではない。
そして私は、入り口に突っ立っている少女、シャルロットに言った。
「お友達の命で生き返った気分はどうかしら? 吸血鬼もどきさん」
少女は笑いながら答えた。
「はん。もどきだと? これで私は太陽を克服したのだ。お前のような弱小吸血鬼と一緒にするな」
私は髪を払って腕組みをした。
「そうね。今の貴女は吸血鬼ですらないわ」
「何だと?」
シャルロットは少し怒った。
しかしすぐに笑い出す。
「信じていないようだな。だったら証拠を見せてやる」
そう言って、シャルロットは飛び上がって、天井を殴った。
すると天井は崩れてしまった。
私が瓦礫から這い上がったると、西の空に太陽があった。
だから慌てて瓦礫の影に隠れた。
私とは逆に、シャルロットは太陽の下を歩いている。
私の方を向いて嬉しそうに言った。
「どうだ、お前には絶対出来ない事だろう? うらやましいか?」
「全然。信用してくれた人を犠牲にしてまで手に入れる能力じゃないわ」
「これはおかしい。お前たち吸血鬼も人間を信用させて殺すだろう?」
「それはお互いに利益になる場合よ。私は彼らの血をもらう代わりに、魔物から守ってあげているわ。いわば家畜ね。まあでも吸血鬼に支配されるのは嫌なんでしょうね。私って懸賞金かけられてるみたい」
「安心しろ。私はいずれこの世界を征服する。全ての生き物が私にひれ伏すのだ」
「いいえ、貴女はもう終わりよ」
「負け惜しみを――」
シャルロットの背後にあった太陽が沈んでいった。
と同時に彼女の身体が溶け出した。
「な? こ、これは? そんなバカな?」
「貴女のやった方法はね。確かに太陽の光を浴びても平気だけど、逆に光がない生きていけないの。つまり夜になったら死ぬのよ」
「や、やだ、助けて」
「警告を無視するからよ。貴女たちって、どうして私の言葉を信じてくれないのかしら」
シャルロットは完全に溶けてしまった。
彼女の衣類だけが寂しく地面に落ちている。
私はしばらくそれを見ていたが、やがて街に向かって歩き出す。
そこで新たな住居を探すために。
お読みいただいて、ありがとうございます。
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どうぞ何卒よろしくお願いします。