石の広場
ドラゴンを迎え撃とうとしている町は、随分と立派な町であることがうかがえた。
石造りで燃えにくい家々が立ち並び、町の至る所に井戸や泉がある。そして壊れた石壁や焼け焦げた倉庫のようなものが目に付いた。
警鐘を鳴らす櫓には、大弓が備え付けられているのが見えた。
この町は、何度もドラゴンの襲撃にあっているのだろう。
城壁とまではいかないものの、町を囲んでいる石壁に門を見つけると、3人は町に入った。
櫓の上で警鐘を鳴らす男がいる他は、誰も見当たらなかった。
キョロキョロと町を見まわしながら広い道を探して走って行くと、広場に出た。石畳が模様を描き出している凝った造りの広場ではあるが、人の姿はない。まるで、闘技場のように石に囲まれた広場の様子に、ジェイはブルっと震えた。
その時、警鐘の音が変わった。今までのようにカンカンと鳴らされるのではなく、速く鳴らしては数拍休み、また速く鳴らされる。
同時に暮れた紺色の空が赤く染まった。ドラゴンがもう町のそばに近づいたに違いない。建物があってよく見えないが、空の色でドラゴンが近くにいることはわかった。
「おいっ、早く隠れろ!」
広場の真ん中で3人が立っていると、建物の陰から兵隊が1人走り出てきた。と思ったら、その兵隊はすぐに棒立ちになった。
「はっ、ひっ」
黒いドラゴンが目に入ったのだろう。暗くなってきているとはいえ、その大きな躰のドラゴンに気づかないはずがない。
兵隊は長槍をゴローの方に向けて構えた。
しかし、その隣に立っているジェイを見て混乱していた。
「大丈夫!このドラゴンは悪いドラゴンじゃないわ」
すぐにモンが叫んだ。
その声は兵隊に聞こえたかどうか定かではない。なぜなら、空にはドラゴンが姿を現していたのだ。
広場には熱風が吹きつけ、櫓から警鐘が鳴り続けている。
「来たっ!早く隠れろ!」
ジェイが叫んだ。
「け、賢者様!」
兵隊がそう叫びながら大急ぎで物陰に姿を消した。
ジェイは空に光るドラゴンを目で追いながら荷物を手探り、縄を取り出した。鳥を獲るものよりもずっと太くて長い縄だ。
それを構えながら、ジッとドラゴンを見つめる。
≪こっちに近づいた時がチャンスだ≫
そんなジェイの気持ちを知ってか知らずか、ドラゴンはジェイのムヴュに魅かれるようにして、急降下を始めた。
≪怖え≫
息苦しく、恐怖で体中がざわつく。血が逆流しているかのようだ。
それでも間合いを取りながらドラゴンを見つめる。そして強張る手に縄を持ち直し、ジェイは空に放った。
「くっつく、縄!」
ヒューと音を立てて、縄はドラゴン目指して飛んだ。そして、その翼にくっついた。
しかし、ドラゴンの翼は大きく力も強い。その翼に縄がくっついたところで、ドラゴンが飛ぶのには何の支障もなかった。
「くそっ」
あの翼に、縄が絡まなければドラゴンの飛ぶのを止めることはできない。
ジェイは両腕をドラゴンに向け
「くっつく、縄!くっ」
と縄をなんとか絡めようと動かした。
「お、も、いー!」
動いているドラゴンの翼に縄を絡めるのは、大変な作業だ。悶えながら魔法を繰り出しているジェイを、ゴローとモンはハラハラしながら見つめるしかなかった。
「ジェイ、頑張れ!」
「絡んできた。もう少し!」
「くぅっうわあ!」
ジェイが両腕を動かすと、縄は翼にグルグルと絡みついた。
急に翼が動かなくなったことに気づいたドラゴンは、空中で暴れだした。
「うわっ、あぶねっ」
炎を吐きながらドラゴンが落下しだすと、炎の先で兵隊たちの声と思われる、低いどよめきがあちこちから聞こえた。
ジェイはもう一つ縄を取り出し、ドラゴンに向けて投げた。
「くっつく、口に縄!」
今度は最初から両手を使って、ドラゴンの口に絡めようとした。
「あっ、くそ!」
炎が強くて縄は焼け焦げてしまった。
すぐにもう一つ縄を出して投げるジェイ。
「くっつく、口に縄!よし、行け!」
今度こそ縄は素早くドラゴンの口にたどり着き、そしてクルクルとその鰐のような長い口を縛り上げた。
金色のドラゴンは大きくうねりながら、みるみるうちに速度を増して轟音をたてて広場に落下した。その時ドラゴンの尻尾が広場を囲む商店をいくつか打ったので、尾の当たった建物はガラガラと大きな音を立てて崩れた。
― ドオオオオン・・・・! ―
鳴りつづける轟音と、もうもうと舞い上がる砂煙の中で、ジェイは両手を出したまま肩で荒い息を続けていた。
ドラゴンは水から上げられた魚のようにグネグネと動き続けていたが、ジェイの投げた縄はしっかりとドラゴンを縛り上げていて身動きはできなかった。
「ゴロー」
「はいっ」
ジェイが呼ぶと、ゴローがすぐに近づいてきた
「話しかけてみるか?」
ジェイの言葉は、金色のドラゴンには伝わらないかもしれない。だけど、ゴローならば、ドラゴン同士、同じ言葉があるかもしれない。
「はい」
ゴローはまだ暴れもがいているドラゴンに少し顔を近づけて、臭いを嗅ぐようなしぐさをした。
「・・・」
言葉や音は発していないように思えた。
金色のドラゴンも、黒いドラゴンに何の反応も示さなかった。
「ありがとうございました」
ゴローはそれだけ言うと、金色のドラゴンから離れた。
金色のドラゴンとは何も、言葉も、心も、通わせることはできなかったのだろう。それがジェイにはわかった。
「もう、殺してあげてください」
ゴローの声はきっぱりとしていた。
「わかった」
ジェイはそう言うと、短剣を手に持った。
それから、決心したような顔をして、広場をぐるりと見渡した。




