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食べること、喋ること


 ドラゴンを捕獲するという大役を成功させてしまったジェイは、その緊張の反動から、ふらふらとおぼつかない足取りで林の中へ入り、モンとゴローの待つ洞窟へと戻って行った。

「おかえりなさい!」

 二人が笑顔で迎えてくれて、ジェイはホッとした。

 もうムヴュは光っていない。よっぽど疲れたのだろう。

「さ、早く入って」

 モンに促されて、ジェイは洞窟に入りそして地下へと下って行った。


 地下道に戻ってくると、ジェイはやっとそこに座り、ほーっと長い溜息をついた。

「すごかったじゃない」

「素晴らしい活躍でした」

 モンとゴローがやんやと褒めてくれて、ジェイは嬉しくてたまらなかったが、それよりも疲労感のほうがどうにも強く、うまく応えることができなかった。


「あ、これ、もらったんだ」

 やっとそう言いながら、洗濯のおばさんにもらった包みを見せた。

「良い匂いがしますね」

 ゴローがクンクンと鼻を寄せてきた。ジェイはその包みをゆっくりと開いた。大きな紙を取りのけると、布にくるまれた包みが3つ入っていた。


「これだろ」

 ジェイはその中から、明らかに食べ物だと思われる包みを選んだ。少しホカホカと温かく、脂が染みている生成りの布を持つと、食べ物の匂いがフワリと漂った。包みを開くと、中にはふんわりしたパンと野菜の揚げ物、そして香辛料の付いた大きな肉が入っていた。

 思わずゴクリとつばを飲む。

「どんな味?食べてみて」

 モンが興味深そうに見ている。


「い、いただきます」

 ジェイはまず肉にかぶりついた。南の地域独特のスパイスの味がする。その香りと肉の脂が口に広がると、唾液がものすごい勢いで分泌されるのが分かる。

「うまっ」

 ジェイの額のムヴュがキラリと光った。

 腹が減っていたせいもあって、ジェイは無言で次々と口に運んだ。ここ数日の渇きをゆっくりと満たしながら、食べ物のある幸せを噛みしめた。


「モンも食べない?」

「あたしはいいわ。地中にいる時はお腹が空かないの」

 そういえば、そんなことを言っていたとジェイは思い出した。

「ゴローは?これ、美味しいよ」

 と、今度はゴローに勧めた。誰かがいるのに、1人だけ食べているのもヘンな感じだ。

「良い匂いですね。では一口いただきます」

 そう言って、ゴローはパンを食べた。一口と言っても大きなドラゴンだ。ジェイが食べたらお腹いっぱいになるほどの量をペロリと一口食べた。

「これは美味しいですね」

「だろ?」

 もぐもぐと口を動かしながら、二人は微笑んだ。


「食べないでいても死ぬことはないですが、食べなければ人間に戻れるわけじゃないみたいですから、これからは機会があったら食事をしようかと思います」

 ゴローは久しぶりの食事で、食べることの喜びを思い出したのだろう。

「それって、何を食うんだ?まさか、俺のこと食ったりしないよな」

 冗談のつもりでジェイは笑いながら言った。

「そうですね、気を付けます」

 冗談のつもりが、ゴローは真面目だった。気を付けないとジェイを食べてしまうのだろうか。そんなドラゴンと一緒にいて大丈夫なのか、ジェイ。

「うわっ、頼むよ。マジで」

「大丈夫です。人間を食べた事はないですが、さすがにまだ理性があるので、ちょっと食べようとは思いませんよ。特にジェイは痩せっぽちで筋とか固そうですからね。食欲そそりません」

「そうかよ」

 安心ではあるが、それはそれでどうなんだろうか。


「野原にいる小さな動物を狩るつもりです。ウサギとかですかね。人間が飼っている家畜は襲わないように気を付けます」

「へえ、そうなのか」

「でも肉食なのね。果物とか野菜とかは食べないの?」モンが聞いた。

「果物も好きです。でも、この姿だと食べにくいんです」

「じゃあ、良いのがあったら採ってやるよ」

 そんな会話をして、やっとジェイの緊張はほぐれてきた。やはり食べ物を食べるということは、気持ちを安定させるのだろう。それにこうして、お喋りをすることも、ジェイには久しぶりだった。ずっと一人だったのだから仕方がないが、誰かと一緒に食事をすることはとても幸せなことだと実感していた。


 そして安心したら、とても眠くなってしまった。

「俺、眠くなったから寝ても良いかな」

「勿論、今日はもう休みましょうか」モンが言った。

 こうして、3人はこの地下道で休むことにした。

 ジェイはすぐに眠りについた。ジェイが眠ると、額のムヴュも光りを止め、洞窟内は真っ暗になった。

 とはいえ、モンもゴローも暗闇でも不自由はなかった。もともとモンは土の中で暮らす生き物であるし、ゴローは闇を支配する魔王に魔法をもらっているためか、暗闇でも見ることができるようになっていた。


 その真っ暗闇の中で、ゴローはぼんやりと天井を見ていた。

 これから行く南の地で、果たしてゴローを人間の姿に戻す手がかりがあるのだろうか。それはどんな方法だろうか。それとも、そんな手がかりなど全くないかもしれない。人間に戻ることはできないと決定づけられるかもしれない。そんなとき、自分はどうするのだろうか。

「うおっ、くそぉっ!」

 ジェイが寝言で叫んでいる。

 額のムヴュがチカチカと光っている。

「くすっ、ジェイったら」

「豪快な寝言ですね」

 モンとゴローは顔を見合わせて笑っていた。



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