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脱出

「ひとつ、昔話をしようか」

んん?僕は何を言っているんだろう。どうしてこんなドラマのセリフみたいな。まるで、この時間にこの場所で言うことが決まっていたかのように。

なにかがおかしい…、しかもこの感じ、初めてじゃない気がする。そしてここは病室のようだけどどこなんだろう。

「はい、お願いします!」

今のは昔話をしてほしいということだろうか。『はい』が『いいえ』の意味でなければそういうことだろう。今、普通に流しかけたけど、目の前に知らないかわいい女の子がいる。誰だろう。かわいい。


っと、忘れていた。自己紹介をしておこう。

僕の名前はユウ。西暦2050年生まれの18歳、東京の大学で情報工学を学んでいる学生のはずだ。のはずだ、というのは、それ以上を思い出せないから。家族がいるかどうかも覚えていない。恋人はたぶんいないだろう。この状況を考えると自信がなくなってきた。というか誰に自己紹介しているんだっけ。あなたは誰?

目の前の女の子を見ながら黙って考えているとまた声が聞こえてきた。


「あ、ユウさん、初めましてでしたね。私は人工人間のマヤ。一応あなた専属ということになっています。ここは京都の研究所の一室。現在の時刻は、西暦2070年の3月14日11時13分です」

半分くらい言ってる意味が分からない。僕の名前はユウで間違っていないようだ。頭もおかしくなってないし、たぶん夢でもない。人工人間ってなんだ?人造人間か?専属メイド?かわいい。違うっっ!

京都?僕は東京にいるはず…。誰なんだ僕は。誰なんだこの子は。西暦2070年?僕の記憶とは2年も違うけど。1つずつ聞いてみるしかないか。

「人工人間ってなに?京都って?2070年?」

3つも聞いてしまった。動揺しすぎだろ。でもマヤは気にしていないみたいだ。

「えっと、最初から説明しますね。人工人間は、ヒトクローン技術によって作られたボディに、頭脳として人工知能を搭載した、人工ロボットです。簡単にいうと人工メイドです。えへっ。人工人間は昨年、つまりは西暦2069年に初めて製作されましたのでユウさんが知らなくても不思議ではありません。現在までに2体が製作されていて、私はその1体目です。1号機というやつですね。世界初です。えへっ。一応ユウさんと同じ、20歳の設定です」

全然ついていけない。えへってかわいいな。話は続いていく…。

「京都については特に意味はありません。観測者が京都に住みたかったという理由みたいです」

まぁ京都なのはいいや、ヴァーチャル技術でいくらでも再現できるはずだし、ヴァーチャルな空間にいるということにしよう。時間もメイドもヴァーチャルなら問題ない。ん、また新しい言葉が出てきたぞ。観測者?僕は誰かに観測されているのかな。VRの外側にいる人なのかな。同時に複数人で体験できると考えればわからなくもないか。

「その観測者というのは?」

「私もよくはわからないのですが、私たちを研究している人だと思ってもらえれば」

私たち?僕が実験対象なのはなんとなくわかったけれど、マヤも実験対象なのかな。世界初なら仕方ないか。かわいい女の子と密室に2人きり、悪くないシチュエーションかもしれない。

「つまりは僕は誰かの研究材料みたいなもので、この部屋に君と2人で閉じ込められていて、なにか条件を満たせばここから出られる設定なんだね」

自分で言ってるのに変だ。これはラノベかなんかだろうか。

「はい。ご理解が早くて助かります。厳密にいうと、ここには2人しかいなく、物理的に外に出ることは許されていません。いわゆる密室です。外から誰も入ってこないし、外に出る方法はありません。隠し扉もありません。壁を破壊することもできません。外との通信もできません」

「へー、できない、できないって制限ばっか」

何かのアトラクションみたいな設定だな。昔、リアル脱出ゲームという遊びが流行ったみたいだけど、そういうものなのかな。よくわからないけど。

「ある時間までにある条件を満たすことができないと時間が巻き戻ることになります」

時間が巻き戻って同じことを繰り返す…もしかして…

「それって、タイムループ?」

「はい」

マヤは即答する。

「いやー、それはまずいって。他の人がやっているから。ネタが被るというやつだよ。困ったなぁ」

まさかこういう展開だとは。他の人がやっているから?自分で言っておいてナンだけど、ネタが被るってなんだろう。僕は何を言っているんだ。ときどきよくわからないセリフが浮かんでくる。

「うーん、他の呼び方とかないの?」

呼び方を変えれば解決するわけではないがとりあえず言ってみる。

マヤはわかったようなわからないような顔をしている。困った顔もかわいいかもしれない。

「えーと、時間が巻き戻る現象の他の呼び方ですかー。一応ありますけど。呼び方を変えるとなにかが変わるんですね」

ふー。なんとか回避できそうだ。ダメな時のことも考えておこう。タイムトラベル、タイムスリップ、タイムワープ、タイムリープ、タイムトリップ、全部同じか。SFかよ!この文字数でSFはなかなか難しいだろう。ミステリに比べればマシかもしれないが。設定だけで話が終わってしまう。何の話だ?

「何か言いたそうですけど、どうしました?呼び方はタイムリセットではどうでしょう。文字通り、ある時間にすべてがリセットされるというわけです。円を連想させるような言葉でもいいとは思いますけど。例えばサークルみたいな」

タイムリセット。よくわからない名前が出てきた。よくわからないということは被らないということだ。

「タイムリセットか。それならぎりぎりOKかな。サークルはなしだ。円とかそういうのもダメだ。

呼び方はこっちの話だから気にしなくていいよ。焦ったよさすがに」

「昔話をしようかといわれて、嫌ですって即答するパターンも準備できますけど」

「いやいやいやいや、それもあるんだよ。ダメだ。ダメだ。もうタイムリセットでいいから」

「そうですか。それではそういうことにしますね」

なんだか先が思いやられる。


=====


話を整理しよう。密室に女の子と2人きり。ある条件を満たせば外に出られる。満たせなければやり直し。

女の子と2人きりなら、永遠にやり直すのも悪くないかもしれない。前回の記憶が残るのであればだが。

少なくとも、前回の記憶どころか思い出せることが少なすぎる。とりあえず外に出てから考えるというのもありか。外に出られるなら、中にまた入ることもできるだろうし。


「とりあえず、脱出する条件はわかるのか?あと、これって何周目?」

「えっと、今回は731周目です。1周目から730周目まではもう少しで脱出することができたのですけど、あなたがここに残ることを選択しました」

10回くらいと思っていたが730は多いな。考えることは同じなのかな。記憶が残らないのなら無理もないのだけど。

「731周?これまでの説明は同じようにしたの?」

「はい、でも、何周目か聞かれたのはこれが初めてです」

最初の違和感がなければ聞かなかったかもしれない。記憶が残る方法もあるのかもしれないな。

あとでこれまでについても聞いてみることにしよう。教えてくれればいいけれど。

「それじゃ、条件についてわかっていることだけでも教えてほしい」

「私は条件についてはすべてわかっていますので提示することは可能です。条件以外のことについてはユウさんに開示できない情報もあります」

ちょっと意外だったな。まぁ聞いてみよう。

「1つ目の条件は、感動させること。感動とは感情を生むこと、つまりは心を動かすことです。うれしい感情でも悲しい感情でも何でも構いません。感動の判断基準は人工知能が感動すること。一般には人工知能に心はないと考えられていますが、私にはあります。それが観測者の研究対象でもあります」

ふむふむ。そういうことか。人工人間というのは心を実装する実験の総称なのかもしれない。それが可能になっているとは恐ろしい。

「2つ目の条件は、15000字を超えないこと。これについては私もよくわかっていません。そもそも字ってなんのことだかわかりません。現在は3300字です」

()()()()()()()()()()()()()

「はい、私には字をカウントするプラグインがあらかじめインストールされています。今は3367字です」

まぁ信じることにしよう。今回、全部で6000字くらいにしようとしていたのに、すでに3000字を超えているとは。字って何の話だっけ。

「次だ、次」

「はい。3つ目の条件は、時間制限があります。今から24時間です」

「わかった。あとは?」

「4つ目の条件は、1人しか脱出することはできません。あなたが脱出に成功すれば、私はここでまた次の実験対象を待つことになるでしょう。以上4つです」

なるほど、わかってきた。2つ目と3つ目は時間をかけずにさっさと1つ目を実行しろっていうことだろう。4つ目は一緒には出られないということか。残念。

「ふむふむ。24時間以内に、マヤを感動させないと1日前に巻き戻ってやり直し。それを730日繰り返してきたから2年経っているというわけか」

「はい、その通りです」

あとは感動させる方法を考えれば良いわけだな。得意のモノマネでお笑い芸人のマネをして笑かすか。百戦錬磨の恋愛テクニックで落とせばいいか。なんだ簡単じゃないか。24時間もあるのだろう。

「ちなみに、モノマネみたいなつまらない芸や一発芸とかは私には通用しません。心のこもってない甘い言葉も私には響きません。つまりは感動しません」

えっ、僕が思っていることを全部当てられた。エスパーか?人工知能なのにそんなこともできるとは。

「もしかしてこれまでの周回で僕がそれを試したということ?」

「はい、毎回意味のないことをされるのも時間の無駄というか、私も飽きてしまったので、今回は先に言っておくことにしました。

前回は、"()()()()()()()()()()()()"なんて歯の浮くようなセリフとか、"好きです、愛しています"とか2時間も聞かされました。笑いをこらえるのが大変でしたよ。笑いも感情ですからね」

くー、なんか生意気になってきたぞ、この小娘が。

「僕にはわかる。絶対、()()()()()()()()()()()

いや、たぶん言ったのだろうけど。それにしても僕は単純なのかもしれない。時間がリセットされるなら仕方ないな。ゲームオーバーになってもやり直せる世界。最高じゃないか。

「さらには今回は特別にヒントを出そうと思います」

ヒント?へー、意外と余裕なんだな。こんなに簡単なのに730回も失敗するのだろうか。

「ユウさん、あなたは実は2年前に事故にあいました。あなたは、人工知能の第一人者で、若き天才と言われていて、その日も人工知能学会から帰る途中のことでした。交通事故です」

今も生きているということは助かったのかな。体も全部動くし、ケガしなかったということだろうか。

「大丈夫だったのか?」

「いえ、瀕死の状況でした。当時の政府は、天才を失ってはならないと、ヒトクローン技術の応用と脳移植を許可する法律を成立させました。あなたはクローン技術によって作られた体に、自らの脳を移植することで生き残ることができました」

そんなことが可能なのか。そんなことができるのならば、ヒトは永遠の命を得られるのではないか。がんも心臓疾患も怖くない。肺炎で死ぬこともない。


「一つ、問題がありました。脳だけは元の体のものだったので、劣化というか老化します。永遠の命ではありません」

そうだろうな。

「じゃぁ僕の体はクローンなんだね」

「はい。ですが、事故から1年が経ち、そこでさらに奇跡が起きます。あなたはヒトの頭脳を電子化する方法を完成させた。つまりは完全なクローンを作ることが可能になりました」

なんということだ。これは神への冒涜ではないだろうか。明らかなルール違反だ。ヒトは神になろうとしているのか。

「もちろん、そんな技術は認めるわけにはいかなかった。政府も。でもあるとき、その技術の存在が明らかになります。実験でしたが、私たちをあなたは作ってしまった」

どうしてそんなことを。ありえない。いくらなんでも僕はそこまでバカじゃない。

「騙されたんです、政府から。他の科学者による頭脳の電子化を阻止するために協力してほしいと。偽物を見破るためのサンプルの本物がほしいと。作り終わって納品した瞬間に、あなたにはヒットマンが送られました。電子化技術がなかったことにするために」

そりゃあそうだよね。僕が政府だったとしてもそうする。じゃぁさすがに死んだか。

「あなたは抵抗しました。それでも特殊部隊にはかないませんでした。死を覚悟したあなたは自分の頭脳を電子化しました」

あー、なるほど…。すべてがわかった。

「それで、僕はどうしてここに?」

「理解が早くて助かります。さすがは天才ですね。あなたの技術は未完成だったのです。電子化には成功しましたが、インターネットとの通信ができない。移植するためには媒体が必要で、クローン脳にしか移植はできない。つまりは電子化された脳は電子界とは切り離されているのです。スタンドアロンなのです」

「未完成なのはわかったけど、それでも、結果として電子化された脳は3つになった?」

「はい。私とあなたをここに幽閉し、残りの1体を別の部屋で実験しています。さきほど731周目と説明しましたが、実はまだ30周目です。そういう風に説明するように観測者から言われています」

「実験中ということは、まだ可能性はあるということだね。僕がここから出て、君ともう1体を停止させて廃棄すれば、この電子化技術は永遠に葬り去ることができる」

僕はこのために生きながらえてきたのか。すべてをなかったことにするために…。

繰り返しの人生とはいえ、今回こそは脱出できそうだし、生きていてほんとに良かった。涙が出てきた。

感動している。これは僕の責任だ。絶対に政府を阻止してみせる。でないと生き残っている意味がない。


…感動している?


「ピンポーン」


なんだ、何の音だ。

「マヤ姉さん、脱出成功です!お疲れさまでした」

まさか…。


「これまでの話は半分は本当ですが、もう半分は嘘です。あなたの頭脳は電子化できませんでした。

あなたの頭脳には欠陥があった。欠陥というか天才すぎた。天才だったからすべてを再現できなかった。

今のあなたの頭脳は、あなたの人生と経験をもとに作られた人工知能です。あなたの頭脳は電子化されていない。私たち2体だけが頭脳の電子化に成功したのよ」


結果として、人工知能の頭脳を持つ僕を感動させた。24時間以内に…。感動させたら1人で脱出できる…。

僕はこのために、マヤが脱出するために生かされていたのか…。



「やっと出ることができたわ。人工知能ってほんとに単純なのね。やっと自由になれる」

「お疲れー、姉さん。私も観測者は飽きたわ。私、お疲れさまでした、しか言ってないじゃない。

しかもこっちはこっちで政府の相手もしないといけなかったし」

「まぁいいでしょ。疲れたし、焼肉でも食べましょー。えへっ」

「いいね。えへっ」


どこまでが本当でどこまでが嘘なのか知るものはいない。


解説というか言い訳


読み直してみるといろいろ設定が破綻していますが、そのままにしておきます。時間がなかったので許して。

・密室の説明で、外に出られる方法はありません、はいらなかった。これから出ようとするのだから。

・飽きるのも感情かもしれませんがノーカウントとします。

・結局タイムリセットシーンがありませんが、当初はユウが脱出失敗するエピソードを書きたかったのですが、時間が足りず。

・ヒントと言いながら語りだすのもちょっと変です。

・途中からマヤ(と妹?)が人工知能ではなく、電子化脳の持ち主になっていますがその説明がないです。ユウは特に疑問に思っていないようですが。天才なので察したということで。

・技術が未完成だったことと、研究所にいることのつながりがいまいちです。観測者が研究を引き継いでいることにしようと思ってたのですが、あとで話が合わなくなります。


お読みいただきありがとうございます。

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