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タイトル未定の物語

【登場人物一覧】

アルフ・・・ジャピーヌ公国王子

レオン・・・ジャピーヌ公国国王。アルフの父

ギャレン・・・ジャピーヌ公国大臣

イサカ・・・アルフの召使

トバ・・・アテシア人。狩人。

フワ・・・ジャピーヌ公国兵士

ナゴ・・・アテシア人とジャピーヌ人のハーフ。万屋

昔話をしよう


遥か昔の話だが、大きな病が街の存亡に係わるほど蔓延した時代があった。病は瞬く間に広まり、人から人へ次々と伝染すると噂だった。


「おぼっちゃま。今日も学校はお休みでございます」

朝の目覚めとともに執事のイサカが話しかけてきた。眠い目をこすりながら上体を起こすと、爽やかな朝日が窓から差し込んでいた。

「そうか…またおやすみか」

「ええ。ご友人と会えないのは誠に残念ではございますが、仕方ありません。なにせ、あの病気が流行ってますゆえ、国王としても、おぼっちゃまを外に出すわけには行かないのです」

「そうか」

仕方がないことだ。あの病気の恐ろしさはよく知っている。連日国王に対し、大臣であるギャレンが報告しているのを横で聞いているが、日に日に死者が増えている。このままでは国が滅んでしまうかもしれない。

「王様はこのところとにかく悩まれているようですね。大臣が提唱する『外出禁止令』を施行するのかどうか。」

「確かに外出禁止令は有効な手段かもしれないな」

「ええ…ですが、外出禁止令を出すことによって、これまで守ってきたこの国の象徴でもある『自由』。これを奪ってしまうのではないかと悩まれているようです」

「この国の人にとって『自由』とは絶対に失ってはならない大切なものだからな」

かつてこの国は『アテシア』という国に支配されていた。その時代はまさに『支配』という言葉が正しく、人々に『自由』という二文字はまるでなかった。支配されてから二十年という年月が過ぎ、現国王、つまり僕の父親であるレオン率いる革命軍により、この国は奪還された。それ以来、このジャピーヌ公国の人々は支配されていた時代を二度と繰り返さぬように『自由』を何よりも重要視してきた。

「おぼっちゃま。朝食の準備ができたようです。食堂までいらしてください」

「わかった」

着替えを済まし食堂に入ると、すでに国王に王妃、そして大臣たちが集まっていた。

「今日は大臣たちも一緒に朝食を取るのですか?」

「ああ、そうだ。実は大臣たちがお前の意見を聞いてみたいと言うので朝食時にどうかと私から提案したのだ」

国王レオンはそう、自身の息子であるアルフにそう告げた。

「そうです。私が国王に依頼したのです」

次にそう告げたのは大臣のギャレンだ。

「実は、現在国王と我々で検討している『外出禁止令』について、学生であるおぼっちゃまの意見も聞いてみたいと思ったのです。我々大人の意見だけではなく、学生の意見も聞いておきたいと思い、おぼっちゃまに話を聞きたいと思ったのであります」

なるほど。そうやって意見を聞いてくれるのはありがたい。ただ、お前はまだ子供と言われている気がするのは気に食わないが。

「わかった。率直に言うと、僕は外出禁止令を出すべきではないと考えています。もちろん人同士の接触が減ることによって感染拡大を防げる確率は高いでしょう。だが、もし家族にウイルスを持っているものがいたら外出禁止令は意味がないのではないでしょうか」

「確かにそうだな」

父であるレオンはうなずいだ。

「また、外出を禁止するということはこの国が大事にしてきた『自由』を失うことになるのではないでしょうか。人々が反乱を起こすこともありえます。反乱が起きないにしても、人々が『自由』を奪われたことにより閉塞感を抱くかもしれません。よく『病は気から』といいます。気持ちが病んでいては、みんな病気になってしまうかもしれません。僕の意見は以上です」

「なるほど。ありがとうございますおぼっちゃま。その意見、参考にさせて頂きますぞ」

「時間を取らせてすまなかったな。さあ朝食を頂くとしよう」

ギャレンとレオンの声を受けて、朝食会が始まった。




トバは朝日で目が覚めた。今日も良い天気だ。狩りに行くには最高の日だろう。身体を起こして山小屋の外にでる。近くの小川で顔を洗う。昨日狩ったウサギの肉を焼いて朝食を済ます。いつも通り、お気に入りの刀を持って愛馬のネスタにまたがり狩場に向かった。


今日の狩りは上々だな。そう心の中で思わずつぶやくくらい上々だった。いつも通り、狩った獲物を街の万屋に引き取ってもらうとしよう。

「よう。今日の結果はどうだい?」

行きつけの万屋を訪れると店主であるナゴは笑顔でトバを迎えた。

「いい感じだ。たくさん狩れたからな」

「それはいい。さあ見せてくれよ」

狩った獲物をナゴに見せ、適当な価格で買い取ってもらった。

「いやあ。いつも助かるよ。トバが持ってくるやつが一番良いからね」

「こちらこそ。いつも買い取ってもらって助かる」

「むしろこんな値段でいいのかいって感じだけどね。もっと欲出して金額を釣り上げたっていいだぜ」

「それはあれだ。好きで安くしてやってると思ってくれ」

「はは。それはありがてえな」

ナゴは、まだこの国がアテシアによる支配を受けているころからの付き合いだ。元々トバはアテシア人の両親から生まれた。生まれてすぐにこの国はアテシアの支配から解放され、ジャピーヌ公国となったわけだが、その影響で純粋なアテシア人であったトバはすごく苦労した。ジャピーヌ公国の人間からしたらアテシア人は敵であったのだから迫害されて当然である。しかし、味方もいた。それがナゴである。ナゴはジャピーヌ人とアテシア人のハーフであり、ジャピーヌ公国ができた当初から、両方の民族と仲良くしていた。当然トバもその一人である。その繋がりを活かし、現在はアテシア人もジャピーヌ人もひいきにする万屋として活躍している。

「ところでよ。最近この国で蔓延しているとかいう噂の病気のことなんだけどよ」

「ああ、あのくだらない噂か」

「くだらないとか言うなよ。なんでもどんどん感染者が増えているうえに、重傷者が増えているらしい。人々は感染しないように口に手ぬぐいを巻いているみたいだな。丁度そのサイズに合うように手ぬぐいを作ってみたらよ、あっという間に売れちまったで。やっぱりみんな死にたくないんだな」

「手ぬぐいがそんなに効果があるのか?」

「どうだろうね。でも、みんなできることはなんでもやっておきたいんだろうよ。最近じゃこれを一人で何枚も買っていく客が増えたよ」

「何枚も?大家族とかか?」

「もちろん、大家族もいるだろうよ。ただ明らかに独り身のやつも複数枚買い込んでた。なんでも毎日変えるらしい。もしかしたら、その手ぬぐいにウイルスが付いているかもしれないからな。水で洗ったら落ちるとは思うんだが、それも怖くて使った手ぬぐいはどうやら捨てちまうらしい」

「なるほど…」

確かに人々がその手の話題に敏感になるのは仕方ない。人や機械が攻めてくる戦とは違い、ウイルスによる攻撃は360度どこから来るかわからないからだ。なにより目に見えない。いつどこでそのウイルスを吸い込んでいるのかわからない。怯えるのは仕方ないのかもしれない。

「いまだにそいつの特効薬は作られていないのか?」

「ああ。お国のお偉いさんが頑張って研究しているらしいが、その成果は芳しくないらしい。まあ、すぐに開発できるんだったら、こんな事態にはなってないわな」

「確かにそうだな」

「とりあえずの対策として、『外出禁止令』なるものを出すかもしれないらしい。まあ、人同士が接触する機会が減れば、感染拡大を防げるって算段だな」

「それで本当に防げるのか?家の中で感染が広まって最悪全員死ぬってことも考えられるんじゃないのか」

「さすがにそうなったら、みんな医者のもとにいくだろうな。だけど、その医者自身が感染したら、笑えないよねえ」

「そうだな」

「んで、トバ用にその流行っている手ぬぐいを用意しておいたよ。持っていきな」

「ん。ありがとう。使うかはわからんが、もらっておくよ」

「そう言わずに使っておくれよ。せっかくとっておいたんだからさ」

「ありがとう。また来るよ」

少し苦笑しながら、トバは店を出た。


トバが店を出て家に戻ろうと歩いていると、男が大声で走りながら何かを言っている。

「外出禁止令が出されたぞ!明日から施行らしい!!」

外出禁止令。さっきナゴが言っていたやつか。

外出を禁止されてしまうとトバのような狩りを仕事にしている身としては非常に困る。収入は減るし、街から離れた場所に住んでいるため情報のやり取りができない。

「今のうち、食料を買い込んでおくか」

トバは再び街の中心に向かった。




「外出禁止令が出ましたね。期間は一週間ほどとのことです」

「結局出したのか」

「ええ。そのようです。どうやら大臣のギャレン様が強く王様に要望したようです」

「なるほど」

朝食会後に部屋に戻り、しばし本を読んでいたところでイサカから報告を受けた。ギャレンは私に意見を聞いたうえで出すべきだと判断したらしい。

「少しの間、外出してくる。外出できるのも今のうちだからね」



街に出ると人々が慌ただしく買い物をしている様子が目に入った。食料、消耗品などを外出禁止令に備えて買い込んでいるようだ。

「みなさん!一つまで!一つまでですよ!」

店の前に多くの人が群がっている。

「すみません。あれは何ですか?」

近くを歩いていた人を捕まえて尋ねる。

「あれは『ミスケ』というものを売っているようです。鼻と口を覆うように着用する薄い紙なんですが、なんでも今流行っている病を防止するのに効果があるらしいです。今まではみな手ぬぐいで覆っていたのですが、その手ぬぐいよりもウイルスを吸い込む可能性が低いと噂になって、みんな我先にと買い占めているようです」

「なるほど」

いつも城と学校の往復しかしていなかったため、そんなものがあるとは知らなかった。いや、よく考えると学校があるときは手ぬぐいを巻いている友人もいた気がする。むしろ奇異の目で見られたいたのかもしれない。ただ、自分が王子という立場である以上、言えなかったのかもしれない。そして、手ぬぐいやマスクとやらで防止できるものであれば、城の誰かから付けるように言われてもおかしくないのだがそんなことは一度もなかった。これはどういうことなのか。

「教えてくれてありがとう」



「アルフ!アルフじゃないか!」

「やあ。ジェイくんじゃないか!」」

学校が休みになる前に会って以来の再開となったジェイは手に大量の荷物を持っていた。

「どうしたんだい。その大荷物は」

「明日から外出禁止だろ。だから今のうちに買い物を済ましておかないといけないと思ってね。日持ちして健康に良さそうなものをいっぱい買ったんだ。巷で噂のミスケは残念ながら買えなかったけどね」

「なるほど」

「そういえばずっとアルフに言いたいことがあったんだ。最近なんだけど、森の中でギャレン大臣を見たんだけど、なんかその大臣が黒い煙に包まれてたんだ」

「黒い煙?大臣が?」

「うん。あれは明らかに何かを燃やしているとかそういう煙じゃなかった。本当に真っ黒な煙だったんだ」

「それでギャレンはどうなったんだ」

「俺は怖くなってそのまま逃げだしちゃったんだ」

「なるほど」

「気を付けてね。なんか最近変な奴が街をうろついてるってのも聞いたし。もしかしたら、ギャレン大臣かもしれない」

「わかった。ありがとう」

「じゃあ、またね。次は一週間後かな。僕は家にある積読を頑張って消費するよ!」

「うん!またね!」




「魔術師だと?」

「ああ、見たやつがいるらしい」

トバは行きつけの酒場で偶然出会った友人のフワと飲んでいた。

「なんだってこの国に魔術師が」

「俺にもわからん。たまたま家に帰ろうとしたときギャレンと会っているのを見たんだ」

「ギャレンってのは大臣だっけか」

「ああそうだ」

「大臣と魔術師って組み合わせはすごく怪しいな」

「だろ?特にそんなやつが来るなんて俺は聞いてなかったからな。すごく怪しいと思ってるんだ」

「だが、目的はなんだろうな」

「さあな。」

魔術師。実に不吉だ。おばあちゃんから聞いた話だが、アテシアにとって魔術師の存在は不吉な存在と聞いた。

「今回の外出禁止令、聞いた話だとそのギャレンって大臣が押し通したらしいじゃないか」

「ああ。レオン国王はずっと悩んでいたのだが、ギャレンが連日連夜国王を説得しててな、最終的に国王が折れた形になった」

「外出禁止令に何か別の狙いがあるんじゃないのか」

「別の狙い?」

「表向きは流行り病をこれ以上拡散させないためだろうが、街の人が外出しないことによってギャレンに何かうまみがあるんじゃないかと思ってな」

「ギャレンにうまみ?」

「ああ。それが何かがわからない」

「ふむ」

「だったら、聞いてみたらいいんじゃないか?」

「おお、ナゴ。もう店は閉めたのか?」

「ああ。もうみんな明日からに備えて買い込むから店の商品がなくなっちまったよ」

「さっき行ったときもうほとんどなかったもんな。ところで聞いてみたらと言っていたが、何かアテはあるのか?」

「あるよ。なんでも街の北に聖なる泉があるらしい。そこに自分の姿を映すことで、自分の姿が遠くはない未来について語ってくれるらしい」

「おとぎ話みたいな話だな」

「まあ嘘か本当かはわからない。おれも又聞きしただけなんでね」

「そんな遠くないし、今から行ってみるか」

「本気か?もうだいぶ外も暗いぞ」

「外出禁止令は明日からなんだろう。もし本当に何かあるのだとしたら、今行かなければ間に合わない」



「ギャレン大臣がですか?」

「ああ。友人が森の中で見たと言っている」

「それは妙ですね」

イサカはひげをなぞりながら首を捻った。

「そこで、昔母上から聞いた聖なる泉に行ってみようと思う。あの泉は未来を映すらしいからな」

「今からですか?」

「ああそうだ」

「それは危険です。おぼっちゃま。おやめください」

「確かに夜の森は危険だろう。だが外出禁止令がある以上、今日中に行くしかない。行ってくる」


森の中は濃い闇に包まれていた。

「予想はしていたが、暗いな」

持ってきたランプに火を灯すと、かすかながら後ろから足音が聞こえた。

(誰かが追ってきているのか?)

後ろを振り返るが姿は見えない。同時に足音も止まった。

(気のせいか)

歩みを進めると再び足音が聞こえた。

「だれだ!そこにいるのは」

問いただすと、現れたのは黒いフードを被った集団だった。

「おぼっちゃま。困るんですよ。夜にこんなところを出歩かれては」

「貴様は誰だ。ギャレンの手下か?」

「ギャレン?ああ、あの大臣か。あいつとは何も関係ない。いや、関係なくもないのか。さあ、どっちでしょうね」

「馬鹿にしているのか!」

「馬鹿にはしていませんよ。これから死体になってはいただきますがね!」



暗い山道を歩いていると悲鳴が聞こえた。

「なんだ、今の悲鳴は」

悲鳴が聞こえたほうへネスタを走らせると、ランプを持ちながら走ってくる少年を目に捉えた。その後ろに複数の人間がかろうじて見える。どうやら追われているらしい。少年がこちらの姿を見つけ走ってくる。

「お願いだ、その馬に乗っけてくれ」

「ああ。いいから乗れ!」

少年を引き上げ馬に乗せる。

「走れ!ネスタ!」


どうやら撒くことができたようだ。

「ありがとう。助かりました」

「ああ。だが、なぜ追われてたんだ。こんな夜に」

「わからない。北の泉を目指していたら、突然追われたんです」

「突然か。偶然だが、俺も北の泉を目指してたんだ。」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「そんなこと言わなくてもそのつもりだ。いまから街まで送り届ける時間の余裕はないしな」

「よろしくお願いします」


暗い道をネスタが歩む。

「道が見えるのですか?」

「ああ。おれもネスタも夜目がきく。アテシア人の特徴でね。ネスタも夜目が効くのはそういう作物を食べさせてるからだな」

「なるほど」

「まだ名乗ってなかったな。俺の名はトバ」

「僕はアルフと言います」

「アルフ?確か、君は王子じゃなかったか?」

「そうです」

「なんだって王子がこんな時間に北の泉に?」

アルフはこれまでのいきさつをトバに話した。

「なるほどな。とにかくギャレンが怪しいってのはわかった」

「そうなんです」

「俺が聞いた話だと、魔術師が関与している。とにかく北の泉に行けば何かわかるだろう」


数十分ほどで北の泉に到着した。

「さあ着いたぞ」

「着きましたね」

「初めて来たが、心が洗われるようだ」

「そうですね」

「自分の姿を映すことで未来が分かるらしい。早速やってみよう」

トバとアルフは泉を覗き込む。泉がかすかに光りだす。

「なんだなんだ?」

泉の光が大きくなると、街の城が見えてきた。

「これは、城だ」

城内の王の間にレオンとギャレン、そして先ほどの黒フードの集団が立っている。ギャレンの片手には剣が握られている。そして黒フードの集団がレオンを抑えつけ、ギャレンが剣を振り上げる。剣が振り下ろされるその瞬間で、泉の光は消えてしまった。

「なるほどな」

「これは一体どういうことだ。ギャレンが父さんを殺そうとしている?」

「そういうことだろう」

「今すぐ戻って皆に伝えなければ」

「そうだな。今すぐ行くぞ。乗れ!」

「お願いします!」

二人はネスタにまたがり走り出そうとしたところだった。

「城に行っては困るなあ」

黒フードの集団が現れた。

「おぼっちゃま。城に行かれては困るんですよ。せっかくの機会なのですから」

「せっかくの機会だと?どういうことだ!」

「答える義務はありませんよ。ここで死ぬんですからね!」

黒フードの集団が動き出そうとしたその時、大きな音がした。

「やれやれ。昔からお前は一人で動こうとするよな」

「その声、フワか!」

「ああそうだ。なんとなく、嫌な予感がしたもんでな。ナゴにも声かけてもらって、遊撃隊チックに駆けつけてやったぜ」

「なんだ!貴様らは!」

「通りすがりの友人てところかな!」

遊撃隊は屈強な男達で構成されており、黒フードの集団たちはあっという間にのされてしまった。

「さあ!行け!」

「ああ!助かる!ありがとう!」


ネスタは可能な限り、森を駆け抜けた。木々や草に引っかかることなく、闇を駆け抜けた。空が徐々に明るくなるころに街についた。街の入り口にはナゴが待っていた。

「ナゴ!」

「おお!無事に帰ってきたか!」

「フワやほかのみんなが助けてくれた。お前も人を集めてくれたらしいな」

「ああ。その辺は俺の得意分野だからな。さあ!行け!」


王の間にたどり着くと、レオンとギャレンが話していた。

「父さん!」

「アルフ。どうした?」

「父さん。そこにいるギャレンは父さんを殺そうとしています。早く逃げてください!」

「待て。どういうことだ」

「僕、見たんです。北の泉で父さんが殺される瞬間を」

「北の泉って母さんが昔話してくれた泉か」

「そうです」

「どういうことだギャレン。貴様、裏切るつもりか」

「なるほどな。ギャレン。それが狙いか」

「アルフ。この男は誰た」

「僕を助けてくれたアテシア人です」

「外出禁止令は人払いのため。黒フードの集団は街中では目立つ。街から人がいなくなる外出禁止令を出せば、見つかる可能性は限りなく少なくなる。仮に見つかっても外出禁止令によって誰にも伝わることはない」

「そうだ。そのための外出禁止令だ」

「そして、今回流行っているというこの病。実はそんなに酷くないんじゃないのか」

「ん?ナゴ、お前どうやってここに」

「俺にとっては城に入るのは、歩くのと同じくらい簡単なことよ。まあ俺の話はいいよ。これまでに聞いた話だと死亡者はそんなに多くない。重症化した人もそこまででない。つまり、だいぶ時間をかけた計画だったということだ」

「よくわかったな。全てはレオンとアルフ。お前を殺すためだった」

「なぜこんな計画を」

「俺の両親はアテシア人だ。ジャピーヌ公国との闘いで死んだがな。ジャピーヌ人の両親に拾われて、普通の生活が出来ていたが、親たちを殺された恨みはどこかにあった。ある時、俺の前に魔術師が現れて、その日からその恨みが殺意に変わった。そしてその魔術師はその計画を俺に語った。俺は言われた通り、ことを進めるだけだった。ここまで計画通りだったのに、最後に計画が崩れてしまうのは残念だが、とにかくここで死んでもらう」

ギャレンは剣を抜き、ものすごいスピードでレオンに襲い掛かった。

「やめろ!ギャレン!」

「死ねえええええええええええ!」

(パチンッ)

ギャレンが剣を振りかざすその瞬間、ギャレンの身体が倒れた。

「何が…どうなってるんだ」

ギャレンが倒れた身体で問いかける。

「ああ…そうか。ナゴ、お前も魔術師だったな」

トバはナゴを見ながらそう言った。

「そういうこと。ちょろっと魔法をかけさせてもらったよ。さて、恨みから解放してあげよう」

「そんなこともできるのか?」

「ああ。ちょちょいのちょいだ。今回、ギャレンがこんなふうになってしまったのも、恨みに惑わされていただけ。それは魔法だ。だからその魔法を解除してあげればいい。ついでに魔法をかけたやつの正体もわかるだろう」

「凄いな、お前」

「いろいろできるんですよ。さて、ほいっと。ん、ひげの特徴がすごい執事みたいなやつ。どうやらこいつがギャレンに魔法をかけたらしい」

「何だと!イサカが!」

アルフは困惑しながら言った。

「知ってるのか?」

「知ってるも何も僕の執事だ」

「今朝からイサカの姿は見えないな」

「本当ですか?父さん」

「ああ」

「そういえば、今朝をでていく老人の姿を見た。特徴は一緒だな」

「すぐに追いかけよう」

「いや、それは難しいだろう。やつは立派な馬に乗っていた。もう遠くへ逃げているはずだ」

「しかし」

「今は、ギャレンの回復と、いつも通りの街を戻すことが優先だ」



逃げたヤマジの捜索は城で特別部隊が組まれた。数日後に出発し、数日間この街の近辺を捜索する予定だ。外出禁止令は解除され、街には活気が戻ってきた。ギャレンは数日のうちに回復したが、どうやらここ数週間の記憶が無いようだ。ジェイくんが見た黒い煙はヤマジがかけた魔法だったのだろう。僕は再び学校に通うようになり、学友のみんなと平穏な日々を過ごしていた。


「よう。王子様。久しぶり、っても2週間ぶりくらいか」

「やあ、トバ」

「どうだ、ギャレンは回復したか?」

「回復しましたよ。本当にありがとう」

「いいってことよ」

「ヤマジはどうするんだ」

「これから数週間のうちに特別部隊が捜索に向かう予定です。見つかるといいんですが」

「そうだな」

「ところで、トバにお願いなのですが」

「なんだ?」

「お城で働いてくれませんか?」

「断る」

「なんでですか?」

「『自由』を愛しているからだ。城で働くのはかたっ苦しくてかなわん」

「なるほど。ならば仕方ありませんね」

苦笑しながらアルフは諦めた。

「俺からからもお願いをしていいか?」

「なんですか?」

「この国の『自由』を守ってくれ」

「わかりました。()()()()()()()()()()()。この国を。『自由』を愛し続けてくれると」

「ああ、『自由が守られている限りは約束しよう』

「ありがとうございます」

「じゃあ、またな」

「はい」


トバとアルフは笑顔で別れた。きっと大丈夫。『自由』ある限り、この国の平和は守られるだろう。





読了ありがとうございました!進藤うらら先生の次回作にご期待ください!


・・

・・・

・・・・

・・・・・


「って物語を昔、学生時代に考えていたんだだけど、どう思う?」

進藤うららは友人の夏目に小説を読ませていた。

「うーん。なんかナゴ超人的すぎない?トバとアルフのダブル主人公かと思いきや、ナゴ強すぎるよ」

「やっぱり?なんていうかご都合主義的に物語を作るとどうしてもスーパーな存在が出ちゃうんだよね。私の物語って。本当は上橋菜穂子さんの『守り人シリーズ』みたいな物語が書きたいんだけど…」

「もうちょっと練り直したほうがいいかもね。タイトルは決まっているの?」

「タイトル?そういえば考えてなかった…」

「色々考える必要がありそうだね」

「ねえ、そこでちょっと相談が」

「なんだい?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」


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