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レジェンド・オブ・ピーチボーイ

『ひとつ、昔話をいたしましょう』



 こういう時は、まず書き出してみることが何よりも大事なのです。文章というものは頭のなかであれこれとこねくり回してみてもうまく組みあがってくれません。ところが、幾分気を抜いた気持ちで適当に書きつけてみるとあら不思議、思いのほか名文ができあがったりするものなのです。大切なのは、心をひたすら平らかにしてとりあえず書いてみるという行動そのもの――

 そう思いながら冒頭部を書きだした途端にお供の三匹が騒ぎ出しました。

 イヌが言いました。

「おいおいおい(笑) これから壮大な物語が始まるってのにまったく冴えない冒頭部だぜ(笑)」

 キジが言いました。

「文才がないのよねぇ」

 サルが言いました。

「儂らの活躍を後世に残すンだろう? しっかり書いてくれないと儂らが迷惑するンだぞ」

 まったく、口が減らない奴らです。誰もが認めるベストセラーを書いてみせますから黙ってみていなさい。


●執筆者:太郎

 自己紹介が遅くなったようで恐縮です。拙者は桃井太郎という者で、先日、お供のイヌ・サル・キジとともに鬼ヶ島の制圧を成功させました。まあ、簡単に言うと、英雄ってことです。存分に尊敬してくれて構いませんよ。

 今、拙者は鬼ヶ島本社ビルの会議室でパソコンに向かっているところです。なんでパソコンに向かっているのかって? フッ、知れたことではないですか。拙者たちの武勇伝を後世に語り継ぐために英雄譚を執筆しているのです!

 英雄譚は自分で書くものじゃない? バカ言っちゃいけません。他の奴らなんか信用できませんね。英雄というのはとかく嫉妬の対象になりやすいもの。凡庸な書き手に執筆させて、妬み嫉みその他余計な感情が入り混じらないとも限らないでしょう? この世知辛いご時世、おべんちゃらの中にこっそり毒針が仕込まれているなんてことは、それこそ枚挙にいとまがないわけです。そういうことが拙者の英雄譚にあってはならない。それに、自分の英雄的行動は、自分が一番よく知っているもの。つまるところ、本物の英雄譚というのは、英雄本人にしか書けないということです! フッ、柄にもなく熱くなってしまいました。さて、続きを執筆するとしましょうか。



『とある村にお爺さんとお婆さんが住んでいました。その日、お爺さんとお婆さんは日常のタスクをしっかりとこなしました。つまり、お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯に行ったのです』



「はいはぁい、スト~ップ!」

 さっそく、キジがイチャモンをつけてきました。予想の範囲内です。この女は他人にケチをつけることで自分の存在意義を再確認し、どうにか心の均衡を保っているようなところがあります。凡俗の徒ならいざ知らず、拙者は天才ですから適当にあしらっていなすことが可能です。ブチぎれちゃダメ。大丈夫、拙者ならできる。

「太郎氏。貴方、ジェンダーフリーって概念、理解してる? お爺さんは山に芝刈り。お婆さんは川に洗濯。こういうところにね、性別による固定的な役割分担を半ば強制的に押し付けているような窮屈なテイストを感じるわけ。わかる? その少ない脳みそで。山に芝刈りに行くのがお爺さんなのはなぜ? 川で洗濯をするのがお爺さんでないのはなぜ? 少しでもこういうことを考えてみたのかしら? その少ない脳みそで。今の時代、読者はこういうところに目ざといわよぉ。間違いなく社会的問題になるわね。もう少し推敲を重ねてみてはどうかしら。はい、やり直し」

 まったくピーチクパーチクうるせえな、このトリ! 豆鉄砲でも食らわせてやろうか! ・・・わかったよ! 書き直せばいいんだろ! ・・・おっと、拙者ともあろう者が取り乱してしまいました。ブチぎれちゃダメ。大丈夫、拙者ならできる。



『とある村にお爺さんとお婆さんが住んでいました。その日、お婆さんとお爺さんは日常のタスクをしっかりとこなしました。つまり、二人一緒に山に芝刈りに行き、それが終わるとその足で二人連れだって川に洗濯に行ったのです』



「だいぶ美しくなったわねぇ。ラブラブ度も二割増しかしら。いいわいいわぁ。私のお陰ね」

「お、おい! 非効率的になってンぞ! それに事実と変わってンぞ! 山に行ったのは本当はお爺さんだけなンだろ!? 事実を曲げてもいいのかよ!」

 キジには好評のようですが、サルの反応はイマイチですね・・・。難しいものです。確かに事実と違うことを書くのは多少なり気が引けるところがあります。このあたりのさじ加減が悩みどころ・・・。でも大丈夫、拙者ならできる。

「虚構は常に事実を凌駕するわ。私たちが狙うのはベストセラーなのよ。おサルさん、わかってる? 些事にこだわって大局を見誤るのは愚か者のすることよ」

「お前、儂に喧嘩売ってンのか? 虚構が常に事実を凌駕するなんて保証はないだろうが!」

「大声出さないでよ、うるさいわねぇ。大した度胸もないくせに、口だけは達者。サルっていうのはこれだからピーチクパーチクポーチク」

「おい、ふたりともよせ(笑) いまは執筆に集中するときだ(笑)」

 イヌの制止もあって、どうにかその場は収まりました。それにしても、この三匹はいつもこうです。目を離せばすぐケンカ。ホント、頭が痛くなります。でも、ブチぎれちゃダメ。大丈夫、拙者ならできる。さて、執筆執筆。



『二人が洗濯をしていると、なんと川の上流から巨大な桃がドンブラコ、ドンブラコと流れてくるではありませんか』



 パソコンデスクに座る拙者の右にはイヌが、左にはサルが、そして頭の上にはキジが陣取っています。物語上の瑕疵を片言隻句も見逃すまいと、目を皿のようにしてパソコンモニターを凝視していた三人衆は、ここが攻めどころと見たのか、それぞれ歓喜抃舞、欣喜雀躍、狂喜乱舞といった表情で生き生きと攻撃してきます。

「ドンブラコってなンだよ。馬鹿かよ」

「ちょっとちょっとぉ、変な効果音を勝手に創作しないでくれる?」

「桃が流れてくる専用の(笑) 効果音(笑) 汎用性なさすぎ(笑) 笑いが止まらねえ(笑)」

 本当に許せないのは、こういう状況なのです。先ほどまでケンカをしていた三匹が、拙者の落ち度を発見するとたちどころに協力体制をとる。この浅ましさには反吐が出ますね。でも、ブチぎれちゃダメ。大丈夫、拙者ならできる。

 それにしてもこの発明的なオノマトペのすばらしさが分からないとは、所詮鳥獣の理解力など高が知れたものということですね! この箇所は、川のさざなみが繰り返し桃のボディに当たる様子を「ドン」、重量感のある桃が波に揺れる様子を「ブラコ」と表現したつもりです。天才的な表現力だと思いませんか? この風流さ、端正さを愚劣なる三匹のしもべに言葉を尽くして説明してやらねばなりません。はぁ、つかれる。しかし、愚昧な畜生どもを正しい道に導いてやるのも英雄的行動の一つです。では、説明してやるとしますか。


「・・・」

「・・・」

「・・・」

 三匹とも、鳩が豆鉄砲喰らったような表情をしていやがります。いい気味です。

「・・・説明されると、これ以上にしっくりくる表現はないって感じがするわねぇ。ま、光るものは感じていたのだけれど」

「インパクトはあるかもしれンな。言っておくが、儂は最初から否定も馬鹿にもしとらンぞ。単純に意味を聞いただけだ。な? そうだったろ?」

「俺は最初からいいと思ってたぜ(笑) 良すぎて笑いが止まらなかったもん(笑)」

 うぜえええ。揃いも揃ってめんどくさい奴ばかり。こんな奴らと鬼退治とかよくやったよ拙者・・・。拙者の人生、マジ呪われてる。この怒りをキーボードに込めて続きを執筆、執筆! 目指すは印税生活! 大丈夫、拙者ならできる。



『お爺さんとお婆さんは流れてくる桃を見て言いました。

「オーマイガッ! ヘイ、マイワイフ! このビッグ・ピーチをアフターディナーのデザートにするとしようぜ!」

「ありよりのありよりのありよりのあり」』



「ちょっとまて! こんなテンションの会話おかしいだろ! ありよりのありよりのありよりのありって文法合ってンのかよ!?」

「うるさいわねぇ、おサルさんは黙ってて。それにしてもこの老夫妻の会話はとてもいいわね。ビビッドなセンスがあふれ出てるわ」

「うむ(笑) 文句なしだな(笑) サルが文法の講釈たれんじゃねーよ(笑)」

 あれっ、なんか褒められてますね。こいつら意外といい奴らじゃないですか。よしよし、きびだんごあげましょうね。ただしサル、お前にはやらん。



『二人は家に帰ってフレンチのフルコースを平らげると、食後のデザートにとさっそく桃を切ってみました。古い諺にも、甘いものは別腹とありますからね。お婆さんは何となくピーンとくるものがあって桃の中心部を避けるように包丁を入れました。すると、中から超絶イケメンかつイケボの赤ん坊が飛び出してきたのです。まさにお婆さんの機転が功を奏した形で、普通に入刀していたら赤ん坊はまっぷたつになっていたことでしょう』



「ツッコミどころが多すぎるわ」

「おいおいおいおい、調子に乗るなよピーチボーイ!!(笑) 誰が超絶イケメンだって?(笑) 笑止笑止(笑)」

「まったくよくも臆面もなく書けたもンだぜ。これは読者の反感を買うンじゃないか? フレンチのフルコース描写は消した方がよかろう。古い諺のくだりもいらンだろうが!」

「桃の中心部がうんぬんかんぬんのくだりも余計だろう(笑) こんなところにリアリティを求めるなって(笑) 昔話ってのはご都合主義の精神で読むものだろ(笑)」

 ちょっとした遊び心でしょ・・・。グスングスン。マジくじけそう。鳥獣というのはユーモアを解する心を持たないのでしょうか・・・。わかりました、書き直します。書き直せばいいんでしょ。



『二人は家に帰って納豆ご飯を平らげると、食後のデザートにとさっそく桃を切ってみました。すると、中からフツメンかつフツボの赤ん坊が飛び出してきたのです』



「納豆ご飯(笑) 健康的だな(笑)」

「納豆に桃っていう取り合わせがすごいわね。いいわいいわぁ。ベストセラーの香りがするわぁ」

「フツメンとわざわざ書くところが謙虚でいいぞ。実際はそれ以下だがな。よし、先に進むンだ」

 こいつらの感性がマジで理解できません。まだ物語上では旅立ってすらいないのに、すでに疲労感がものすごい。ペンを折ることも視野に入れる勢いです。拙者には文筆稼業なんて無理だったんだ・・・。いやいや、諦めちゃダメ・・・。大丈夫、拙者ならできる・・・。



『なぜ川の上流からこの不思議な桃が流れてきたのか!? そして桃から人間が生まれるという奇怪な現象は一体何に由来するものなのか!? 取材班はこの謎を解明しようとする一人の青年と、3匹のお供に密着した!』



「まて、おい、お前! 暴走すンなって!」

「貴方ってば集中力0%なの? 取材班って誰よ? 鬼退治はどうなったのよ」

「なんだよこのクソバラエティ番組(笑) 今すぐ消せ(笑) そして早く旅立て(笑)」

 うるさいうるさーい。



『「これはマイゴッドのくれたギフトだぜ! オーイエー、マイワイフ! ジャンピングハッピー!」

「エッモ! ピーチボーイギャンカワ&鬼カワなんですけどー! エモエモのエモエモのエモ」

子どもがいなかった二人は大喜びで、さっそく赤ん坊に「太郎」と名付け、それはそれは大切に育てました。太郎も二人の想いに応えるようにすくすくと育ち、ついには一騎当千の武芸を身につけたのです』



「ああー、最後! 最後がだめね! 一騎当千! かっこつけちゃったわ! はい、バックスペースバックスペース」

 あっ、バカ! こら、勝手に消すな! こいつハネで器用にバックスペース連打しやがって!

「言いたいことはわかるが、将来的に鬼退治をする赤ん坊が鬼カワってのは紛らわしいンじゃないか?」

「そもそも一騎当千って言いすぎじゃねーの(笑) 一騎当三くらいにしとけって(笑)」

 拙者、思ったより尊敬されてないみたい・・・。人生くじけそう・・・。



『青年になった太郎は、ある日、お爺さんとお婆さんに言いました。

「お世話になっております。桃井の太郎と申します。拙者このたび鬼ヶ島に赴き暴虐非道の悪鬼どもを退治し、鬼によって奪われた財宝を人の手に取り返したく思います。つきましては、一袋のきびだんごといくばくかの路銀を頂戴いたしたく思います。何卒善処のほど、よろしくお願いいたします」』



「なんでこんなに他人行儀なンだよ」

「いっぱしのビジネスマンを気取りたがるところに、ニートの悲哀を感じるわねぇ。はぁ~、せつな」

「等身大の自分を書けって(笑) 序盤から無理するとあとがもたないぜ(笑)」

 もう(・・)やだ(・・)! 胃が痛いッ! 拙者はもうやめたぞ!


 太郎は疲労困憊してパソコンデスクを蹴るように立ち上がり、イヌに席を譲りました。



●執筆者:イヌ

『太郎氏が執筆を投げたので俺が代わりに書くことになった(笑) よろしく(笑)

俺の名はラミアンという(笑) 鋭い嗅覚と疾風の脚力を持つ村一番の俊英だ(笑)

村人(といっても犬だが(笑))たちは鬼ヶ島の鬼の悪逆ぶりに心身ともに疲れ果てていた(笑)

俺は奴らと刺し違えてでも鬼ヶ島の鬼どもに一泡吹かせてやりたかった(笑)

と、そんなとき(笑) 村に一人の青年が通りかかったのである(笑) 彼は名を太郎といった(笑)』



「まてまて、お前、(笑)を入れないと文章が書けンのか?」

「マジメに書くのが怖いのよ。自分が書いた文章に自信が持てないからふざけることで読み手の反応を見ているのね。もしくは読み手の印象を少しでも和らげようという心理的効果を狙っているわ。そうムキになるなよっていう先手必勝の牽制策、卑屈な自己防衛ね。でもはっきりいってやりすぎ。ウザいだけだわ」

「ワンワン(笑)」

「いまさらワンワンじゃねえよ。それにしても地の文全部に(笑)ってのは狂気の沙汰だぞ。どうにかならンのか」

「だいたい貴方、ポチって名前じゃなかったのぉ? なんでここぞとばかりにラミアンなんてカッコつけてるのよ」

「自分の名前に誇りを持てよな」

「うるさいな(笑) これくらいの脚色はゆるしてくれよ(笑) 後世に残るんだから少しでもカッコよくしたいだろ(笑)」



『ちなみに俺は犬種でいうと柴犬でも秋田犬でもない。ましてやトイプードルなどでは断じてない。地獄の番犬ケルベロスである! 禍々しい三つの首を持ち! おぞましい蛇の尾をくねらせ! 傷口に入れば絶命必至の猛毒の唾液を吐く! その邪悪な姿はのちの鬼ヶ島の決戦の際に鬼たちを残らず恐怖の淵に陥れることになるのだ!!』



「どこまで脚色するンだよ」

「どうしても背伸びしたいらしいわね。貴方は柴犬であることにもう少し誇りを持つべきだわ」

「あれ? イヌ、さっき拙者に等身大の自分を書けって言いませんでしたっけ・・・? いい加減なやつだな」



『まさに冥王の眷属と呼ぶに相応しい威風堂々たる体貌を持つケルベロス・ラミアンは重低音のきいた威厳に満ちた声を響かせながら言った。

「太郎さん、太郎さん。お腰につけたきびだんご。一つ俺にくださいな(笑)」』



「おかしいだろ」

「キャラクター崩壊にも程があるわね」

「どこ目指してるンだ」



『「村人(といっても犬だが(笑))たちを困らせる鬼どもをこれ以上のさばらせるわけにはいかない(笑) お願い(・・・)(笑) 連れていって(・・・・・・)(笑) 俺を鬼退治の旅に(笑)」

「そうですね。悪逆非道の鬼どもを根絶やしにしてやりましょう。拙者と貴方の力を合わせれば実現可能です」

「いや、そこまでしなくていい(笑) せいぜい懲らしめるくらいで(笑)」

コンビを結成した太郎とラミアンの二人は、鬼ヶ島への旅路を急ぐのであった』



「フー、つかれた(笑)」

「お疲れ様。貴方、ものすごく満足そうな顔してるわね」

「そりゃまあ、これだけ脚色すればな。おい、キジよ。このあとのハードルが上がった気がせンか?」

「確かにそうねぇ・・・。ケルベロスのあとにキジとサルが仲間になっても釣り合わないわね」

「イヌ。お前、めんどくさいことしてくれたな」

「ワンワン(笑)」


 イヌはスッキリとした表情でパソコンデスクを立ち上がり、サルに席を譲りました。



●執筆者:サル

『イヌのあとを受けて、儂が執筆を続けることになった。よろしく頼むぞ。

儂の名はマルボルドルフ。モンキー王国が誇る文武両道の大将軍だ。

モンキー王国は長い間鬼ヶ島の侵攻にさらされ、荒廃の一途を辿っていた。

モンキー王は起死回生の一手として、王国屈指の猛将である儂に対し、鬼の王の首を取ってくるように命じた。と、そんな時、一人の青年とケルベロスが王国の目抜き通りを歩いているのが見えた。不審者かと思ったので呼び止めてみると、青年は太郎、ケルベロスはラミアンと名乗った』



「人(というか犬だが(笑))のこと言えないくらい脚色がひどい(笑)」

「モンキー王国ってなんですか? 拙者、そんな王国知らない」

「俺もそんな王国の目抜き通りを歩いた覚えがないけど(笑)」

「見損なったわ。まぁ最初から見損なってたけど。それにしても、マルボルドルフって何よ。またご大層な名前をつけたわねぇ」

「いや、今マーボー豆腐が食べたかったンだよな。儂」

「知らないわよ。イヌ、あんたもなんか言ってやってよ」

「いや、俺のラミアンもラーメンから取ってるから(笑)」



『「あー、こらこら、そこの二人。旅人と見受けたが、この辺りは鬼ヶ島も近くてとても物騒だ。ガキはさっさと家に帰るンだな」

「拙者たちは鬼を根絶やしにするために鬼ヶ島に向かっているのです。邪魔だてすると許しませんよ」

「ほー・・・! その細腕で鬼退治とは大きく出たもンだな。無理は言わンから、大怪我する前にやめときな。それに、鬼ヶ島の鬼は儂の獲物だ」

「サルの分際でずいぶんと腕に自信がおありのようです。そうだ、お供にしてあげましょうか?」

「おい、口のきき方に気をつけろよ? 笑えねえぜ」

「ああ、もちろんタダでと言うつもりはありません。きびだんごを一個くれてやりますよ」

「・・・」

 一触即発の険悪な空気が漂い始めると、通りからは人影が全くなくなりました。マルボルドルフ将軍はひとたび怒ると手が付けられない暴れん坊なのです』



「ウソだらけじゃねーか(笑) 本当はきびだんご一個で尻尾振ってついてきたくせによ(笑)」

「尻尾なンぞ振っとらンぜ。お前と一緒にするな。だいたいもとはと言えばお前のせいでこうやって無理して書くはめになったンだからな」

「拙者がただのクソ野郎なのはどういうこと? 地味に精神にダメージが蓄積するわ」



『長い闘いの末、マルボルドルフは地に片膝をついた。

ガキの時分から棒術を習っていた儂はケンカでは負け知らずだった。

孫悟空の生まれ変わり、などともてはやされたこともある。その儂が!

相手は二人がかりとはいえ、こンなガキどもに後れをとるだと・・・!

「昔からケンカでは負け知らずと言いましたね。確かにそうだったのでしょう。その過去は貴方の自信を支える柱となっていたかもしれません。しかし長い時間を経て、その自信は慢心になった。それでは拙者には勝てない。今の貴方の敗因は慢心からくる油断です」

「慢心・・・。確かに王国最強などともてはやされるうちに・・・心に驕りが巣くっていたかもしれンな・・・」』



「いきなり暑苦しくなったわね。おサルさん、こういう熱血系がお好みなのねぇ。いかにも脳筋って感じで笑えるわ」

「もはや昔話的要素がなくなってきたな(笑)」

「イヌ、お前が言うな。何度も言うがお前のせいでこうなったンだぞ」

「イヌのせいだけじゃないでしょ。おサルさんの趣味も濃厚に入ってるわよ、これ」



『「貴方のその自信。私のもとで発揮してみる気はありませんか?」

「・・・鬼ヶ島の鬼を退治するンだったな。仕方ねえ、お供になってやるぜ。儂は強い奴が好きだからな。ただし、一つ条件がある」

「条件? 言ってみてください」

「太郎さん、太郎さん。お腰につけたきびだんご。一つ儂にくださいな」』



「芸術的にひどい(笑)」

「熱血描写からのギャップが最悪ね。吐き気がするわ」

「拙者、急にカッコよくなりましたね。このままいきましょう。あっ、サル、きびだんご食う?」

「よし、食うか」


 サルはきびだんごを食べるためにパソコンデスクを立ち上がり、キジに席を譲りました。



●執筆者:キジ

『下品なおサルさんのあとじゃ格好がつかないけれど、あとを引き受けることになったわ。よろしくねぇ。

ポロロンポロロン♪

「ここは荒くれ者の漁師が集う港町。私は海の男を相手に癒しと寛ぎを提供するピアノバー「フェザント」の片隅で安らぎの調べを奏で続ける美貌のキジ。名前はレイカ」

ポロロンポロロン♪』



「おい、なンか始まったぞ・・・」

「完全に自分の世界に入っちゃってるよォ(笑) 港町なんて行った覚えないけど、きっと俺たちがこの町を訪れる設定なんだろうな(笑)」

「しれっと美貌とか書いてるし、やりたい放題だな・・・。ほれ、名前も見ろよこれ。カレーから取ってるぜ」

「マジ見損なったわ(笑)」

「うるさいわね! 貴方たちなんでここぞとばかりにイヤミ言ってくるわけ?」

「因果応報(笑)」

「だいたい貴方たち、いつからそんなに仲良くなったのよ?」

「サルとイヌの仲の良さを知らンのか? “刎頸の交わり”、“竹馬の友”、“犬猿の仲”ってなもンだぜ」

「貴方ってば本物のバカなのね・・・」



『ポロロンポロロン♪

「場末の酒場で酔っ払い相手にピアノを弾くキジというのも悪くはないけれど、これは世を忍ぶ仮の姿・・・。本当の私は鬼ヶ島の鬼どもに故郷を滅ぼされたフェニックス一族の姫レイカ」

ポロロンポロロン♪』



「ケルベロスと孫悟空に張り合ってきたな(笑)」

「ただのキジでは終わらンと思ってたぜ・・・」

「あえて姫って書いているところがまたプライドの高さを感じさせますね・・・」



『ポロロンポロロン♪

「鬼ヶ島にほど近いこの港町で日々を無為に過ごしているのは、ひとえに鬼退治の勇者様にお会いせんがため。にっくき悪鬼どもに復讐を遂げるまで私は死ぬに死ねないのです」

ポロロンポロロン♪』



「そもそもフェニックスは不死身だから死なないけどな(笑)」

「フェニックス一族ってどうやって滅ぼすンだ。設定に無理がありすぎる」



『ポロロンポロロン♪

「美しいお嬢さん。拙者が鬼退治に一番近い男、太郎です。もしよかったら一緒に鬼ヶ島でもどう?」

「私の美貌と美声で貴方をサポートするわ。でもその前に」

レイカはその美しい声で高らかに歌い始めた。

「太郎さん、太郎さん。お腰につけたきびだんご。一つ私にくださいな♪」

ポロロンポロロンポロロロロン♪♪』



「なんで拙者、こんなバカみたいなナンパ野郎になってんの。拙者、キジのこと好きだなんて(・・・・・・)言ってない(・・・・・)し、むしろ嫌いなんですけど」

「自分で言うのもなんだけど、私の書いた部分だけ文学レベルが高すぎてアンバランスになったわねぇ」

「どこがだよ。バカっぽさのレベルが格段に上がってンぞ」

「貴方にだけは言われたくないわね。それより続きどうするの? 私もう疲れたわよぉ」


 キジは怠惰にパソコンデスクを離れると、オニが代わりに着席しました。



●執筆者:オニ

『こうして、イヌ、サル、キジを従えた太郎は、ついに鬼ヶ島にやってきました。

「それっ、鬼どもを退治してお宝分捕り放題じゃーーーい!!」

太郎は刀をブンブンと振り回して大暴れしています。三匹のお供たちもそれに負けじと大暴れ。イヌは鬼のすねにかみつき、サルは鬼の顔をひっかき、キジは鬼の目をつつきました』



「オニさん、貴方いたんですか。もっと存在感を発揮してください。あと拙者のセリフが最悪なので即刻直して」

「毒の唾液つかえって(笑)」

「儂も如意棒持ってるのに」

「目をつつくって私の攻撃だけ陰険すぎるわ。人気が落ちちゃうから書き直して」



『太郎とそのお供たちはいきなり鬼ヶ島を襲撃してきました。我々は何もしていないにもかかわらずです! 冒頭から読み直してください。我々が一体何をしたというのです? 我々が暴虐だの悪逆だのと言われているのは人間どもの一方的な思い込みだ! 我々は鬼ヶ島で静かに暮らしていただけだッ!』



「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」



『ね? 鬼にそう言われてしまったら貴方たちは反論できますか? できないでしょう。この物語には最初から説得力が皆無なのです。片面からしか物事を見ない勧善懲悪の物語はよほどうまく書かなければこういう薄っぺらさを露呈させてしまうものなのですよ。私なら、まず序盤で鬼の悪逆非道な行いの具体的な例を示します。お爺さんとお婆さんが鬼に食べられるとかね。どうです? 太郎が鬼退治を敢行する強烈な動機となりうるでしょう。復讐譚としての品質も確保できますね。だいたいね、よく考えてみてくださいね。鬼が悪さをして集めた財宝を、太郎さんが人間代表として取り返すというのは百歩譲ってまあいいでしょう。清廉な鬼一族がそんな悪行に手を染めることは通常考えられないのですがね・・・。まぁ、この部分はあとで官憲の調査が及ぶことでしょう・・・。で! その財宝を太郎さんが持ち帰って大喜びっていうのは、これはどうなんですかねぇ・・・? 取られた人に返したりはしないんですか? 泥棒が盗ったものを他の者が分捕り放題。それでこの世の秩序は保たれると思いますか? はっきり言いましょう。ストーリーの作り込みが甘すぎるんですよ! それから・・・』



「えっと・・・。オニさん、貴方、何者ですか・・・?」

「知らないでここまでやってきたのですか? 無知は罪ですね。鬼ヶ島本社ビルは鬼ヶ島唯一の出版社が入っているビル。私は編集部の者です。さあ、最初から書き直しますよ!」

「エエーッ! もう疲れましたよ。ちょっと休憩してから・・・」

「ベストセラーを書くんでしょう? 私もその夢に乗っかりますよ! ええ、諦めてなんて(・・・・・・)あげません(・・・・・)! ほら、デスクにすわって!」

「オニだ・・・」


 太郎はパソコンデスクに強制的に座らされた。



『ひとつ、昔話をいたしましょう』

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