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かつて英雄と呼ばれた男は  作者: 水無月 霊華
帝国への旅
9/23

怪しい二人組 

 この話は、内容が一部おかしくなっていたので修正いたしました。

 

 既にお読みいただいた方、さぞ読みづらかったことでしょう。本当にすみませんでした。

 俺は魔法で創り上げた水の壁に護られながら、この状況を脱出する術を考えていた。

 

 まず、今、俺の目の前には汚い格好をしたチンピラ達がいる。

 だが、ただのチンピラだからといって安心してはいけない。俺達は捕まれば確実に奴隷として売り飛ばされるという状況にあるのだから。

 昔の俺ならこいつら程度、剣を抜くまでもなかったが、今では剣を扱うことすら難しい。・・・というか、今気づいたが、転生してから一度も剣を触っていない。魔法の修行に集中しすぎて剣の存在を今まで忘れていた。昔は傍にないと落ち着かなかったのに。時間の流れとは恐ろしいものだ。


「おい。何を考えてる。」

「・・・・。」

「ハハッ!こいつビビってんじゃねぇの?」

「ああ!そうかもな。……おい、さっきはあんなに威勢よかったのにな?今更自分の状況が分かってビビってんのか?情けねぇな!」

 

 チンピラ達は、俺が何も言わずにいると、何を勘違いしたのか、ゲラゲラ笑いながら馬鹿にした様にそう言った。


「おい!無視とはいい度胸だ。余程痛い目に会いたいようだな?」 

「うるさいな。どうせ俺に触ることすら出来ないのに、そんな大口叩くなよ。」

「ああ"?ふざけんじゃねぇぞ。この程度の魔法如きで俺達から逃げれると思ってんのか?」


 チンピラ達は苛ついたように脅しをかけてきた。

  

 ・・・この程度、か。確かにそう思うのも仕方ないよな。今の俺はどう見てもただのガキで、弱者の側だ。昔の様な強者の側にはいない。

 

 ・・・だが、な


「人を見た目で判断するのは良くない。俺が使えるのが初級魔法だけなんて、誰が言った?」


俺は男達に不敵な微笑みを向けて、手を構えると、心の中で唱えた。中級魔法、『ブリザード』と。  


✽✽✽


「お兄ちゃん………。」

「…………兄ちゃん、これは………。」

「・・・・・。」


 俺は、エミリとレオンの咎めるような視線を受けて、顔ごと明後日の方向を向いた。


「…………これ、どうするんだよ。」


 レオンは、これ以上俺を追求するのを諦めたのか、今、目下の最も重要な案件であるものに視線を移した。

 

「どうするのって言われてもなぁ。」


 俺もレオンと同じ場所に視線を戻すと、一言そう呟いて、あとは押し黙るしかなかった。

 

 


 何故、今、俺たち兄弟が困った様に話しているかというと、事件は数分前に遡る。

 

 俺達兄妹は、身なりの汚い大人達に追い詰められていた。

 俺は、その状況を打破すべく、中級魔法、ブリザードを行使したのだ。

 そう。したのだが、そのブリザードは、何故かかつてないほどの威力が出てしまった。結果、今、俺達の目には一面の雪景色と、余りの寒さに凍ってしまった男達が映っている。

 この魔法は、本来なら視界を悪くする程度の威力しかないし、人を凍らせる程の寒さもない筈なのだが、何故かこんな状況になってしまっている。流石に死んではいないと思うが、これはヤバイ。

 

「それ、俺達がどうにかしてやろうか?」

「…………えっ?」


 目を閉じて、考え込んでいた俺は、突然頭上から聞こえた声に驚いて視線をそちらに向けた。


「貴方方は?」


 視線の先には、大きな建物の屋根に座った怪しい二人組がいた。

 フードを被っている上に、太陽が反射して顔を確認することは出来ないが、声からして、どちらか片方は男だろうと言う事は分かる。


「そんな警戒すんなって。俺達は怪しいもんじゃねぇから。…まぁ、そう言っても信じないんだろうけどな。」

「………当たり前でしょう。あなたもお、私達が襲われている所を見ていたのでしょう?ならば、さっきの今で、いかにも怪しいですっていう人達を信じられる訳がない事ぐらい分かりますよね?」

「まぁ、そうだよなー。」


 男は何が面白いのか、突然くくくと笑いだした。

 俺はそんな男を不審な目で見つめながらも、相手の言葉の続きをジッと待った。


「まぁ、ホントにそんな警戒すんなや。俺達はただ、その魔法の片づけをしてやろうって言ってるだけなんだから。」

「………魔法の片付け…。」


 俺は思考するように呟く。

 男の言うことが本当なら、ありがたい話だが、俺はその言葉を鵜呑みにする程単純じゃない。なんの確証もないのに、そんな甘言に騙される程バカでもない。

 

「無償でしてやるっていうのに納得できないみたいだな?」


 男は俺の表情から考えを読み取ったらしい。全くその通りなので、俺は頷いた。


「そうか。なら、俺と取り引きしないか?」

「?取り引き?」

「ああ、そうだ。取り引きだ。俺の望みを叶える代わりに、お前の犯した失敗の後片付けをしてやる。」


 男は、これなら断らないだろうと言う表情だ。

 まぁ、確かにそういう取り引きなら断る理由もないが、上から見られているというのが気に食わない。それに、こいつの願いというのを聞かなければ、まだこの男の言葉を完全に信用する事は出来ない。


「………というか、失敗って。」

 

 さっきから気になっていたが、こいつは俺の犯した失敗とか言ってたよな。


「何か表現でもおかしかったか?」

「いいえ。特には。」


 そう。別に表現がおかしい訳ではないのだ。ないのだか、何か釈然としない。

 

 俺は首を傾げて一瞬だけ考え込んだが、今は他に大事な事があると思い直して、意識を元の話に戻した。


「で、お前はまだ納得していない様だな?」


 男はタイミングを図ったように、俺へと話しかけてきた。


「ええ、そうですね。納得はしてませんよ。色々と…。」

「ふーん。じゃあ、どうすんだ?お前一人でこれを片付けられるのか?」

「ぐっ!」


 確かにそれは無理だろう。

 痛い所をつかれて、今、俺の表情はさぞ悔しげに歪んでいるはずだ。

 俺は男をジト目で見つめ返して、口を開いた。


「それは無理ですね。ですから、貴方の申し出を完全に拒否するつもりはありません。ですが、貴方の願いとやらを聞くまで、頷く訳にもいきません。」

「願い?………ああ、さっきのか。まぁ、願いというほどでもないんだがな。お前の名が知りたいんだ。勿論本名でなく、愛称でも何でもいい。お前を呼ぶ名が知りたい。」


 男は、さっきまでとは雰囲気を一変させて、囁くようにそう呟いた。

 

 もし、この時、インシオが前世を思い出して直ぐの頃だったなら、違和感に気付けていたかもしれない。

 だが、良くも悪くもインシオは今の生活に馴染んでしまった。だから、気付けなかった。

 男が、インシオが前世で最も嫌った(元)仲間達と似たような状態に陥ってしまっていたことに……。


「それだけで良いのか?俺の名だけで?それも愛称でも?」


 俺はあまりに簡単な要求に拍子抜けして、つい何時もの口調で話してしまっていた。


「ああ、構わない。ついでにお前の両親も見つけてやろうか?」


 どうやら話し方については突っ込まないらしい。その上、両親も探してくれると言う。

 だが、


「それは必要ないです。自分で出来ます。だが、取り引きは受け入れましょう。」


 俺はその申し出をスパッと断ったが、取り引きは受け入れると頷いた。

 男は断る事など予想していたのか、少し口角を上げただけで、それ以外の反応は見せなかった。

 

「そうか。なら時間ももったいないし、そろそろ片付けるか。」


 男はそう言って屋根から飛び降りた。勿論あともう一人のフードを被った人物も一緒にだ。

 男が手をかざすと、またたく間に雪国は消え、男達も氷漬けから開放された。俺はこの魔法に覚えがあった。俺自身が見た事はないが、セイン母さんが言っていた空間魔法と同じ現象が起きていたからだ。

 母さんが言うには、空間魔法は神に選ばれた者のみが使う事のできる凄い魔法なんだそうだ。

 神と言えば、俺はあの青年を真っ先に思い浮かべてしまうが、あれは自称神であって本当の神ではない。……はずだ。俺はそう思いたい。

 まぁ、取り敢えず、それは一旦置いとくとして、この怪しい男はその凄い空間魔法を使ったのだ。それも無詠唱で。

 俺は驚きで暫く固まっていた。

 そんな俺を男は首を傾げて不思議そうに見ている。

 そんな仕草を、男がしてもキモいだけなんだよ!!そういう仕草は女子しかしてはいけないんだ!!マジで止めろ!!


「どうしたんだ?」


 男は俺が内心で暴言を吐いているとは知らずに、首を傾げたまま俺に話しかけてきた。


「いいえ?何でもありませんよ?」


 俺は内心を悟らせないようにさも不思議そうに答えた。


「そうか?」

「そうです。……で、そんな事よりも、貴方の願いですが、私の名前を知りたいんでしたね?」


 俺はこれ以上追求されないように、話題の転換を試みた。


「え、ああ、そうだ。お前の名を教えてくれ。」


 男は、俺の話題転換に乗ってきた。俺はそれに一先ず安心すると共に、凄く悩んでいた。

 

 真名は人間の命。これをイタズラに人に教えたら、呪いをかけられる可能性がある。だから本名を教える気はない。ただ、だからといって自分の愛称を教えるのも何かが嫌だ。まぁ、今はそんな我儘を言っている場合ではないんだがな…。


 俺は暫く悩んだ末、口を開いた。


「私の名前はイオ。ただのイオです。」

「イオ、か。………まぁ、今はそれだけで満足するとしよう。だが、いつか、本名を教えてくれると嬉しい。イオ……。」


 男はそう言って微笑んだ。そう。笑ったのではなく、微笑んだんだ。まるで恋した乙女のように。

 俺はそれを見て悟った。気付きたくなかった事に気付いてしまった。前世で、こういう表情を山のように見てきたから。そう。この微笑み方は、前世で俺を好きだとか言っていた奴らと同じだったのだ。

 俺はそれに気付くと同時に、背中に悪寒が走るのを感じた。 そして反射的にレオンとエミリの手を掴み、聞いた事も見た事もないはずの魔法の詠唱をしていた。





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