初戦闘
十歳になった。
俺はこの頃には簡単なものなら中級魔法も使えるようになっていた。
初級魔法は現在最大で四十メートル、中級魔法も二十メートル先までなら問題なく飛ばせる。
✽✽✽
その日も俺は何時も通り、花畑で魔法の修行をしていた。
『アイスアロー!』
ヒューグサッ
作り出した氷弓は前方の木に突き刺さった。
うん。今日もいい調子だ。本当は無詠唱でも出来るんだけど、司祭様が珍しいって言ってたからあんまり使わないようにしてる。
まぁ、この村じゃ魔法が使えること自体が珍しいんだけどな。はは。
「キャ〜〜〜〜!」
俺が魔法の修行に集中していると、森の中から女の子の悲鳴が聞こえてきた。
俺はそれを聞くなり、無意識の内に駆け出していた。別に何かを意識した訳ではない。ただ、前世と同じ様に体が動いていたのだ。
そうして俺が駆けつけた先にいたのは、小さい男の子と女の子。それと、五匹の狼だった。
狼達は俺が来たのに気づかず、夢中で二人を襲っている。
…急いで来たけど、どうすればいいんだ?これ。俺は魔法で戦ったことなんてないんだが…。
「た、助けて!お兄ちゃん!」
俺が考え込んでいる間に状況は刻々と変化していたらしい。いつの間にか、二人は俺の近くまで来ていて、俺は狼達に認識されていた。
あれ?これって、俺もやばくないか?
…まぁ、でも、うん。狼ならどうにか出来そうだな。どうにも出来なかったら、この子達も俺も死ぬだけだし。
だが、俺はそう考える一方で、こんな危機的状況でも冷静な自分に驚いていた。前世の記憶を持っているからだろうか。俺に恐怖心はなかった。ただ、この二人を守らなくてはいけないという気持ちが大きかった。
俺は狼達を視界の隅におさめたまま、後ろを振り返る。二人ともしっかり立っている。これなら走る事も出来るだろう。
「二人とも、下がって。俺が合図したら、村の方に走ってね。」
俺はこの場で生き残るために、まずは二人を逃がすことにした。
二人がいても足手まといになるだけだし、何よりも、全員で生き残るためにまずは二人の安全を確保しなければならないからだ。
「二人共、準備はいい?」
俺は二人が頷くのを見ると、狼達に一瞬の隙を作るために、無詠唱での魔法発動の準備を始めた。
こいつ等はただの野生の狼だから初級水魔法でもいけるだろうし、アイスアローでいいよな。
…ふぅ。じゃあ、この三年間の修行の成果を見せてやりますか!
(穿て!氷の矢よ!アイスアロー!)
「今だ!走れ!」
俺は心の中で詠唱を唱えながら、二人に合図を送る。二人は俺が言った通りに村の方へと走って行く。俺はそれを気配で感じながらも、狼達からは一切意識をそらさなかった。
狼達は突然空中に現れた氷の矢に反応出来なかったのか、一匹は攻撃を避けようとした姿勢のままで矢に貫かれて絶命し、残りの四匹の内二匹も傷を負わせることが出来た。
だが、無傷な二匹の狼達は仲間を傷付けた俺を完全に敵だと判断したらしい。臨戦態勢に入っている。
やばいな。近接戦相手に魔法じゃ不利だ。逃げるにしても隙がない。背中を向けた途端に後ろから殺られるだろう。クソ!どうすればいいんだよ!
「グルルルッ」
俺が考えている間も狼達は俺を殺そうと徐々に近づいてきていた。
俺は狼達が一歩近づくごとに一歩下がっている。だが、このままでは俺は確実に死ぬだろう。
まだ、こんな所で死にたくない!前世の俺なら狼程度、剣で一瞬にして殺せたのに!クソ!力が足りない!こんな奴らに負けていたら、アイツらから逃げるなんて出来る訳がないのに!強くなりたい!前世の俺よりも、(元)仲間達よりも、強くなりたい!
・・・・・いや、違う。強くなりたい、じゃない。強くなるんだ。自分の力で、強く、なるんだ!だから生きる為に、もうやるしかないよな!
「ああああああっ!俺は!こんな所で!負けられないんだ!いけぇぇぇぇ!ウォーターストーム!」
ドーンッ!
俺は今の自身のありったけの魔力を込めて、上級魔法を放った。そして、くしくもこれは俺が初めて上級魔法を成功させた出来事だった。
魔法は狼達に真っ直ぐ向かって行った。
ただ俺はその後、魔力の使い過ぎによって気絶し、狼達がどうなったかを知ることは出来なかったが。