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かつて英雄と呼ばれた男は  作者: 水無月 霊華
第一魔法学院 
21/23

カブルと怒り

「おはようございます。」

「……おはよう、ございます。」


 翌朝、早くに寮から出るとそこにはルカリオがいた。

 思わず驚いて一瞬肩を跳ねさせたが、何でもない風に挨拶を返す。


 いや、というかなんでここに?


 そんな疑問がふと浮かぶ。

 俺は嫌な予感に、まさかと思いながらも恐る恐る問いかけた。

 

「あの、ずっとここにいらしたんですか?」

「いいえ。ここに来たのは2時間程前です。」  

「…そうですか。」


 冷静に返されたそれは、余り喜ばしくないものだった。軽く言っているが、朝寒い中で2時間も待つのは大変だったはず。

 下手をすれば凍傷もあり得た。ここの早朝はそれほどに寒いのだ。

 俺は反応に困って一瞬言葉を詰まらせる。


「…寒かったでしょう?」


 それでも結局ありきたりなセリフしか出てこなかったが、無言よりはマシだろう。

 そう思っていた言葉は、相手の眉間に皺を作っただけだった。


「………」

「………」

 

 無言で見つめ合いの状況に困惑しながらも目はそらさない。前世の性質か、変なところで負けず嫌いな自覚はあった。

 それにしてもルカリオも案外負けず嫌いらしい。全然目をそらす気配がないのだ。

 そして時間が経つと段々とルカリオの視線が鋭くなっていく。

 俺は内心、途方に暮れながら考えた。 


 何か気に触ることを言ったか?この視線、殺気すら感じるが?

 

 若干混乱しながらも、どうすればいいのかと策を巡らせる。こういう時に気のいい言葉が言えない自分が何だかもどかしい。


「あー。…すみません、お待たせしてしまって。」


 それでも何とか探し出した言葉は、またもやありきたりで平凡なもの。

 今世で好青年を演じ出してからは、気の利いたことが言えるようになったと少し喜んでいたのだが、とっさに出てこないなら意味がない。


「あの、今日は何でここに?」

「規則です。」


 あん?

 おっと。思わず素が出てきそうになった。

 俺は慌てて笑顔を浮かべると、どういう意味だと首を傾げる。


「ですから、規則です。」


 また、同じ言葉だ。

 何だか呆れられてるようだし、これは俺が悪いのか?でも規則ですじゃわからない――あっ


「あー。もしかしてカ…二次入学者の規則に、正式入学者の送り迎えが入ってたりするんですか?」


 まさかな、と思いながらもなんとなく思いついたことを聞く。

 すると驚きの肯定が返ってきた。

 

「はい。学則に記載されていたと思うのですが、ご覧になってない?」

「…そうですね。すみません。後で見ておきますね。」

「はい。できればそうしていただけると幸いです。それと、私に敬語は不要です。カブルと読んで頂くのも結構です。では、本日はどちらへ?」


 あー?カブルという呼び方は蔑称だが、本人がいいというのならいいのか?ルカリオ以外には使わないようには、もちろんするが…。

 悩みながらも、本人が言うならと頷く。


「えっと、敬語は、このままで。カブル呼びの方は了解しました。今日は日課の走り込みをちょっと。」

 

 丁寧すぎてやりにくい、と思いながらも笑顔で対応する。

 こうしていると、本心を隠すのは上手くなったな、となんとなく思った。 


「走り込みですか?御兄妹の方々はどちらに?」

「あー、普段は一緒に走るんですけど、初日で疲れてたみたいで起ききなかったので…。」 

「了解いたしました。私は他の方をこちらでお待ちしていても?それともご一緒いたしますか?」

「えっ?」

 

 予想外の言葉に固まる。

 まさか一緒に行くかと言われるとは思わなかった。もちろん断るが、命令されれば走り込みもするなんて。

 何だか思った以上に不遇な立場なのか?カブルって一体?


「どうかいたしましたか?」

「……いや、なんでもないです。走り込みは着いてくるのは無理だと思うので、ここで待機でお願いします。」

「了解しました。ではこちらでお待ちしております。」

「………。」


 即答で帰ってきた返事に、微妙な表情をしてしまう。

 聞かないほうがいいとはわかっているが、何だか聞かずにはいられない。


「…あの……」

「?はい。なんでしょうか?」

「…………カブルの仕事。嫌だとは思わないんですか?…やりたくないなら、やらなくてもいいんじゃ……」


 そこまで言って、口を閉ざす。

 ルカリオの表情に自分の失敗を悟ったのだ。


「あ、あの。……ご、ごめんなさい!なんでもないです!走り込み行ってきます!」


 そう言い残して、ルカリオ背を向けるとそのまま脱兎のごとく駆け出す。



 だからか、背後で呟かれた言葉に気づけなかった。


「…俺だって、やらなくていいならやりたくねぇよ。こんな仕事……」


 悔しさの滲んだ、その苦しみの声に。

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