学院寮内での出来事
寮に入ったら部屋だった。というかリビング?
いや、意味わからないとか言うな!俺も意味わかんないんだから!
「こ、これは何でしょう?」
俺は唯一現状を理解しているだろう相手に説明を求めて振り返る。
だが、そこには誰もいなかった。ルカリオは寮に入ると同時に姿を消していたのだ。
「兄さん、どうする?」
俺と同じようにルカリオの不在に気づいたレオンが聞いてくる。
「……ルカリオが言ってた通りだとすると、ここは俺達の住む場所だろう。まずは、この空間を見て回ろうか。」
「わかった。」
「私も賛成!」
俺は少し考えてから今は外に出て他の生徒と出くわしたくないと、部屋の中を見て回ることに決めた。
レオンとエミリもそれに異存はないようで、頷きで同意を返してくれる。
「まずは広さと部屋の数とか場所を把握しておこうか。」
今俺たちが立っているのは、玄関ぽいっ場所。そこで俺は一言つぶやくと、靴を脱いで部屋の中へ進んだ。靴を脱ぐ習慣は家に生まれた頃からあったので、最初は前世との感覚の違いに戸惑いはしたが今ではもう慣れたものだ。
「……広いな。」
目視でわかっていたが、やはりリビングは広かった。それから暫く部屋の中を歩き回り、確認するとリビングとは別に個室が五つもあった。それぞれにキッチンとかトイレとかシャワールームまで付いている。本当に無駄に金をかけていると思う。
「ならまずは部屋を決めよう。どれか気に入った所はあった?」
「あ、なら僕は森のところがいい。」
「私はピンクの部屋!」
俺が問いかけると、二人からは元気な答えが返ってきた。
森とかピンクの部屋っていうのは、個室の内装の事だろう。五つの個室はそれぞれ森、ピンク色、晴天の空、白色、街と内装が違ったのだ。
「うん、ならそうしようか。俺は空の部屋にするよ。これからは各自好きなように過ごそう。」
俺たちはそれぞれの部屋に別れ、これからは自由時間ということにした。
俺は部屋に入るとまず、荷物の整理から始める。そして一時間程でそれをあらかた終わらせると、取り敢えずはこの学院について詳しく知ろうと、元々部屋においてあった学校案内のような本を手に取って目を通す。
それで分かった事を簡潔にまとめると…
・入学式は明日
・入学式の後は説明会がある?
・詳しい事はカブルに聞け
大体今必要な事はこのぐらいか?特に重要なのは最後のやつだな。
いや、ふざけてる訳じゃなく、こんな風な事が本当に書かれていたのだ。
入学式等の学校行事や設備関係以外は、殆どの文に"詳しい事はカブルに"とあった。分からない事は取り敢えずカブルに聞くのが、この学院での流儀なのだろう。
「と言っても、カブルなぁ。」
俺は先程少しだけ一緒に歩いたルカリオのことを思い出す。
(ああいうのが他にもいるのか。…確かに優秀そうではあったが、あれは完全に俺達の事を嫌ってる奴の目だったぞ。)
ルカリオの青い瞳に初めてあった時、一瞬だけ冷たく細められたのに気づいたのは恐らく俺だけ。
前世のダンテも元は平民で、最初の頃は嫌われ蔑まれる存在だった。功績を上げていく毎にそういう奴はいなくなったが、人を嫌悪で見る目には覚えがある。
(でもなんかあいつは少し違ったような……?)
冷たい目は同じだが、ルカリオの瞳には見下すような色はなかった。俺はそれが少しだけ気になったが、初対面のうちに色々と考えても仕方がないと、これから一緒に過ごす間で見極めようと決める。
コンコン
その時部屋の扉を叩く音がした。俺は思考をやめて返事をする。
「はい。」
「お兄ちゃん、入ってもいい?」
聞こえた声はエミリのものだった。俺はなんだろうと思いながらも、「いいよ」と許可を出す。
「入るねー」
そう言って入ってきたエミリは、何故か制服を着ていた。
「どう?どう?似合ってるかな?」
「うん、似合ってるよ。エミリはいつも可愛いけど、今日は一段と可愛いね。」
俺は笑顔でエミリを褒めた。俺は朴念仁ではないので、こういう時に女性がどういう言葉を期待しているのか知ってる。前世で嫁にも散々言わされたので、セリフも完璧なはずだ。
「やっぱりそうだよね!流石お兄ちゃん!でも聞いてよお兄ちゃん!レオンがね、いつもと変わらないとか言うんだよ?ひどいよね!」
(あ、そういう。)
俺は理解した。今回は俺のセリフは関係ないらしい。少しでも褒めるような言葉を言えば、それで良かったようだ。
「そうなの?レオン。」
「違うよ、兄さん。俺はそんな事言ってないよ。」
俺はエミリが部屋に入ってきた時からずっと外に立っていたレオンにどうなのかと問いかけた。すると、間を置かずにすぐに返事が返ってくる。
その後レオンにも話を聞いた限り、どうやらこういうことらしい。
エミリは俺のところに来る前に、まずはレオンに制服姿を見せに行った。感想を求められたので、レオンは「別に、いつも通りいいと思うよ。」と答えたらしい。すると、エミリが怒り出して、俺の部屋まで突撃したと。
話を聞いた俺は、レオンに呆れた目を向ける。手招いて隣に座らせると、小声で話しかけた。
「レオン、言い方というものがあるだろう?」
「だって思ったことを言っただけだよ。何が悪いの?」
「女性のおしゃれにいつも通りと答えてはダメだよ。村の子達には普通にできてたじゃないか。エミリにも同じように言えばいいんだ。」
「うーん…分かった。兄さんの言うようにするよ。」
レオンは暫し何かに悩み、だがすぐに頷くと、エミリに言った。
「エミリ、さっきはごめん。その制服、似合ってると思うよ。とても美しい。」
俺はその言葉に、思わずずっこけそうになった。いくら妹だとはいえ、俺はともかく、レオンの年齢で美しいとか恥ずかしげもなく言えるのは素直に凄い。
将来を考えると恐ろしい。
俺はそんな事を思いながら、レオンを何とも言えない目で見つめたのだった。




