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かつて英雄と呼ばれた男は  作者: 水無月 霊華
第一魔法学院 
19/23

受け入れがたい寮

 周りを高い塀で囲まれた両開きの黒い門。首を限界まで上げなければ上が見えない大きさのそれの前で、俺達は足を止めた。


「ここが第一高等魔法学院……」


 俺は弟妹に聞こえないぐらいの声で、しみじみとそう呟く。


 七歳で前世を思い出し、十歳で自称創造神サマに真実を教えられてから早五年。色々な事があったが、俺の生きる目的は全く変わっていない。

『前世の(元)仲間達から逃げ切る!』

 それだけだ。

 

 その為の準備もしてきたし、嫌な事も受け入れてきた。本当にここにあいつらがいるのなら、この先は気を抜ける時間は少なくなるだろう。

 だが俺は今更逃げる気はない。弟妹が一緒なのだ。

 情けない姿は見せられない。


 ――ギィィィ

 

 俺がそんなことを考えていると、巨大な門がゆっくりと開き始めた。

 突然の事で唖然とその様子を見守っていると、中から一人の青年が進み出てくる。濃い青髪を顎の辺りで切りそろえ、瞳の色も髪と同じ。

 俺は女と見紛うほどの美貌を持つその青年に、ついつい見惚れてしまう。横では俺と同じように固まるレオンと、何故か頬を赤らめるエミリも見えた。


 だが青年はそんな事を気にした様子もなく、無表情のまま一度頭を下げる。

 

「インシオ・フレンシー様、エミリ・フレンシー様、レオン・フレンシー様でございますね?第一魔法学院へのご入学誠におめでとうございます。私は今後ご卒業までの六年間、皆様のお世話をいせて頂きますルカリオと申します。」


 一息でそこまで話し終えた青年―ルカリオの声に、何処か不機嫌さを感じ取った俺は、はっと現実に引き戻される。


「あ、はい。よろしくお願いします。」


 危ない危ない。危うく優等生の顔が剥がれ落ちるところだった。


「ではご案内致します。」


 ほっと内心胸を撫でおろした俺の事など眼中にもないというように、ルカリオはそのまま門の中に戻って行く。俺は今度こそ、その愛想のなさに呆気にとられて暫し固まる。

 

 だがそれでついて行き損ねるなんてことは起こらず、そんな俺と未だに頬を赤らめて動こうとしないエミリの手を取って、早々に復活していたレオンが門の中に入っていくのだった。



✽✽✽



 第一高等魔法学院の学生寮はニつに分かれている。

 正式入学者―所謂、黒い封筒が届いた学生の為の天人寮と、二次入学者―親のコネで入学した学生の地人寮。


 俺達が住むのは天人寮。そして前を歩いているルカリオは、地人寮の学生。

 何故知っているかというと、ルカリオ本人が寮への道すがらに話してくれたからだ。


 正式入学者の制服には心臓の位置に紫のアネモネの花がマークされているが、二次入学者にはそれがなく、それが二つの学生達を見分ける唯一の指標になっている。そしてこれにより、正式入学者はジェム。二次入学者はカブルと呼ばれて若干の差別を受けている。


「ここが皆様の住む天人寮でございます。」


 と、どうやら話はここまでらしい。考え込んでいる間にいつの間にか寮に到着してしまっていた。

 俺は言われるままに天人寮を見上げる。

 

(でかいな。)


 最初の感想はそれだけだった。

 俺は建物の見た目とか気にしない派なので、それ以外に感想が浮かばなかったのだ。


 まあ敢えて見たままを説明するとしたら、窓が無駄に多い。四階までは階がいらないと思う。真っ白で目が痛い。

 こんな所だろうか?


「さあ中へどうぞ。」 

「え?入っていいんですか?」 

 

 ルカリオの言葉に、レオンが驚いたように声を上げる。

 確かにここに入るのは少しハードルが高いだろう。見る人がみれば高級宿だし。

 

「はい、構いません。ここは皆様の寮でございますので。」


(そう言われても…)


 俺はそう思ったし、他の皆もそう思っただろう。いきなり今日からここが家だと言われても、今まで田舎の家に住んでいた身としては受け入れがたい。

 前世王宮に住んでいたのだから大丈夫だろうと言われればそれまでだが、うまく言えないが前世と今世は違うのである。


「さあ、この後他の方もいらっしゃいます。お早くお入りに。」 

「は、はあ。」

 

 仕方がない。俺は悟りを開くような心地で寮に足を踏み入れる。

 あのままあそこに留まって、他の生徒と遭遇するよりも遥かにましだ。

 もし遭遇したのがアイツらだったかもしれないと思うと……。いくら見た目が変わっていようとも怖気が走る。


「え、部屋?」


 俺が心の中で嫌な想像を膨らませて、それに虫唾を走らせていると、同じく寮に入ったエミリから戸惑いの声が上がる。

 それにはっと現実に引き戻されて顔を上げると、そこは確かに部屋、であった。


「はあ?どういうことだあ?」


 俺は予想外の光景に、小さい声ながらも思わず素が出てしまうくらいに驚いたのだった。


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