弟妹との会話
体に熱が灯るのを感じた。 今までにないほどの勢いで魔力が急速に流れ、そして抜かれていく。
「…っ………!ふぅ。」
俺はあまりの暑さに、一度小さく息を吐く。何かが起こる気がして、レオン達の手をもう一度強く握り直した。
その瞬間だった。目の前が一瞬歪み、突然の浮遊感に襲われたのは。
俺が意識を失いながらも、最後に見たのは、驚きに見開かれた男の金色の瞳だった。
✽✽✽
「………ん……。……ここは?」
目を覚ました俺は、まず初めに周りを見回し、自分が見覚えのない部屋にいることに気付くと首を傾げる。
コンコン
部屋の扉が外から静かに叩かれる音がして、俺は顔をそちらに向けた。
「インシオ、起きていますか?」
「……うん、起きているよ。セイン母さん………。」
俺は扉の外から聞こえてきた声が聞き覚えのあるもので、僅かに緊張していた体から力を抜いた。
「インシオ、目が覚めたのですね。良かったです。何処も痛い所はないですか?」
部屋の中に入って来たセイン母さんは、俺がベットの上に体を起こしている姿を見ると、安堵したように笑い、その後直ぐに心配気な表情に変わった。
「うん。問題ないよ。それよりも、レオンとエミリは?無事?」
俺は母さんの言葉を嬉しく感じながらも、今はそれよりもい優先すべきことがあったと思い出し、話題をかえる。
「ええ。大丈夫ですよ。二人共、怪我も無く無事です。今はエミリオといますよ。」
「そう、か。」
俺は安堵から体に入っていた力を抜くと、ベットへ倒れ込むように寝そべった。
普段なら、行儀が悪い!と怒るセイン母さんも、今回は何も言わない。
「…………で、何があったのか話してくれますか?」
暫くして落ち着いた俺に大丈夫だと判断したのか、今回何が起きたのかの説明を求められた。
勿論俺に拒む理由はなく、柄の悪い男達に追われた事、その男達に奴隷として売られそうになった事、逃げる為に魔法を使った事、それを怪しい二人組の男と女に見られた事など、事のあらましを初めから最後までしっかりと話した。
話を聞いている間、母さんは殆ど表情を変えなかったが、男が空間魔法らしきものを使ったと言った時だけ、僅かに動揺したように目を見開いた。俺はそれにはあえて気付いていない振りをして、話しを続けた。
「………………………………そう、ですか。」
話し終えた後、セイン母さんは長い沈黙の末、その一言だけを呟いてまた黙り込んでしまった。
俺は突然黙り込んでしまったセイン母さんを心配しながらも、次の言葉を待ち続る。
それから暫くして、セイン母さんは何かに気付いたように顔を上げると、「今日は部屋から出ないで下さいね。後でレオン達もこの部屋に連れてきますから。」と言い残して、慌てた様子で部屋を出て行った。何時もお淑やかな母さんが、慌てている、しかも走るなんて珍しく、俺はそれを呆然と見送る事しか出来なかった。
「お兄ちゃん?今大丈夫?」
セイン母さんが出て行ってから暫くすると、部屋の扉が静かに開いて、レオンとエミリが入って来た。
「ああ、大丈夫だ。近くにおいで。」
「「うん!」」
俺が声をかけると、扉のそばで心配気に立っていた二人は、直ぐ近くに走り寄って来た。
二人の元気そうな姿に、俺は二人に気付かれないようにひっそりと安堵の息をもらす。
いや、別にセイン母さんの言葉を信じていなかった訳じゃないんだよ?でもさ、やっぱり自分の目で確かめるのと、人伝に話を聞くのとじゃ何か違うじゃん?ね?お前もそう思うだろ?
俺は誰相手でもない言い訳を心の中で繰り返す。
「お兄ちゃん!あのね、守ってくれてありがと!」
俺はエミリの突然の感謝の言葉に一瞬何のことだか分からず面食らったが、直ぐに今回守った事に対してだと思いいたり、微苦笑を浮かべた。
「別に良いんだよ。弟と妹を守るのは兄の役目だからね。」
「うん!わかってる!でもありがとうって言いたかったの!」
俺はエミリの言葉に今度こそ破顔した。
俺の可愛い妹はとても心の優しい子に育ってくれたようで、お兄ちゃんは大変嬉しいぞ!
心の中でそんな事を思いながら、俺はエミリの頭を撫でる。
隣で何故か拗ねていた弟がいたので、そちらも巻き込んでエミリと一緒に頭を撫でてやったら、直ぐに機嫌も治った。全く、現金な奴だな。
俺は苦笑を浮かべながら、一つ聞いておきたかったことがあったと思い出し、口を開いた。
「そういえば、二人はエミリオ父さんの所にいたんだよな?なら今、エミリオ父さんが何処にいるか知ってるか?少し話したい事があるんだが。」
俺の言葉に二人はほぼ同時に首を振った。どうやら今、エミリオ父さんが何処に居るかは知らないという事らしい。
「父さんは、母さんが話があるって言ってどっかに連れて行ったんだ。その間俺たちは兄さんのところへ行っといてって言われたから、今二人が何処に居るのかは知らないんだ。」
「そうか。母さんが、か。」
俺はレオンの詳しい説明で大体の状況を把握した。おそらくセイン母さんは、あの怪しい二人組についてエミリオ父さんに話しに行ったのだろう。どんな話かは知らないが、俺達に隠すという事はそれなりに重要な内容ということは予想できる。
知りたい気持ちもあるが、そういう事なら今はまだ聞くべきではないだろう。
俺は自分の中でそう結論を出す。
その時、突然エミリが大声を上げた。
「あっ!お兄ちゃん!」
俺はエミリの方へ顔を向ける。
「うん?何だ?エミリ。」
「寝て!」
「……………………はぁ?」
エミリに思いもよらない事を言われて、俺はつい聞き返した。
「だから寝て!」
エミリは同じ言葉を繰り返して、俺を寝かせようとしているのか、ベットへと押してくる。
俺はそれに逆らわずに大人しくされるがままになりながらも、エミリの脈絡のない言葉に、今度は理由を聞く事にした。
「いきなりどうしたんだい?突然寝ろだなんて……。」
「…だって、お母さんがお兄ちゃんは疲れているからここに来ても寝かせてあげなさいって言ってたんだよ。なのにお兄ちゃんと話したくて寝かせるの忘れてたの。ごめんなさい。」
エミリは泣きそうな表情で俺へ謝ってくる。
そんなエミリの様子に、俺は何も悪い事はしていないのに、半端ない罪悪感が湧いてくるのを感じていた。
俺は無言でエミリの頭を撫でると、腕を引いて自分の寝ていた布団に引っ張り込んだ。(この時ついでにレオンも巻き込んだ)
「エミリ、それはお前が気にする必要は無いことだ。それに、俺はさっきまでぐっすり眠っていたからもう疲れてないから大丈夫だ。まぁでも、エミリがそんなに心配なら俺と一緒に寝てくれるか?あ、もちろんレオンもだよ。」
俺はそう言って二人に笑顔を向ける。
「うん!一緒寝る!」
「あ、俺も!」
「うんうん。分かったよ。じゃあ、寝ようか。」
二人は俺の言葉に安心したのか、急に元気になってはいはいと手を挙げながら返事しだした。
俺はその様子に苦笑しながら、目を瞑らせて寝かしつけるように頭を撫でる。
「おやすみ………。」
俺はその言葉を呟くと同時に、自分が思っていたよりも疲れていたのか、直ぐに眠りに落ちていった。
遠くで、エミリとレオンの「「おやすみなさい」」という声が聞こえたような気がした。




