グルメレポーターの仕事来る
今日は日曜日。だが半魚人には日曜も祝日もない。何せカレンダーがないのだから曜日を把握しようもない。なので今日も岸辺に上がって、迎えの車を待っていた。しかし中々車が来ない。半魚人は悩んだ。もう撮影がないのかもしれないと思った頃、目新しい、黒いバンが駐車場に着き、中からいつものスタッフが降りてきた。
「半魚人さん、おはようございます。グルメレポーターの仕事、OKが出ました」
「あれハローワークは」半魚人はテレパシーで伝える。
「半魚人さん、残念ですがハローワークは日祝日はお休みです」
「クパァ~」落胆の色を見せた半魚人であった。
「その代わり今日は市内の有名レストランで、半魚人さんが食べたがっていたお肉を堪能してもらうことになります」
「グワパッパ」満面に喜色を浮かべた表情を見せた。
半魚人を乗せたバンはいつもとは違う道を進んでいく、まばらだった建物が、立ち歩く人に合わせるかのように増殖していく。今までとは違う、人口密集状態に少し不安を覚える半魚人。
「駐車場にひとまず車を止めます。半魚人さんはお店まで、スタッフがご案内します」
女性スタッフの説明を受けて、安心する半魚人。初めての市の中心部に降り立ったが戸惑いを隠しきれていない。
重厚なレンガ造りの建物の中に、ステーキハウスが待ち構えていた。
半魚人の体を丁寧に拭いて、席に座らせる。店主は、半魚人が来ても顔色一つ変えずに淡々と肉をさばいて焼いている。
「サラダとスープの後に、よく焼けたステーキがやってきます。鉄板の皿は熱いので、じかに手でさわらないようにしてください。それと半魚人さんは、ナイフとフォークがうまく使えないと思うので、スタッフが切り分けます」
「ナイフとフォーク?」半魚人は聞いたことのない単語に首を傾げた。
スタッフが画用紙にラフスケッチを書くと、半魚人は膝を叩いて納得した。
まず前菜としてサラダとスープが運ばれてきた。半魚人はサラダをフォークで食べるのに苦戦している。
「半魚人さんサラダは、如何でしたか」
「液体は美味いけど、草自体には味がないなあ」とテレパシーで伝える。
スタッフはその言葉をメモした。後でテロップに使うのだろう。
続いてスープだが、多くの量を飲み干して、口の中をやけどしてしまった。
「アギャピギョエー」突然の意味不明な叫び声に、店内の人が驚く。スタッフはすぐに気づき、氷の入った水で、半魚人の口中を冷やす。
前菜だけで、波乱だらけの幕開けになってしまった。
スタッフが、スープの感想を聞くと「しょっぱい熱い」とグルメ番組らしからぬ感想がテレパシーで伝えられた。この場面は取り直しか没になるかもしれないとスタッフは思った。
しかし、意に反してカメラは回り続けている。谷戸に訊いてみると、「そのまま使うかもしれない」
との返事が返ってきた。女性スタッフが、「店のイメージダウンになるのでは?」と疑問を投げかけると谷戸いわく、半魚人側のミスであって、料理の評価には繋がらないと考えているようだった。
十分に口を冷やした後に、ステーキが出てきた。半魚人は、先ほどのトラブルを記憶から消し去り、テーブルに近づきつつある肉塊を注視している。テーブルに手を突き、全身を乗り出したまま固まる半魚人。
ステーキ皿の上の肉を、スタッフが切り分ける姿を見つめ、念願の肉を味わうことに対する期待感で全身が震えていた。




