半魚人ギャラをもらう
半魚人は悶々としていた。空想で描いていたオフィシャルな生活の夢が断たれたたからだ。
湖底にいる限り、パソコンはおろか家電製品は使えない。半魚人は、金が稼げる仕事ならなんでもよくなっていた。
次の日、半魚人が失望と欲望がないまぜになったままの気持ちで陸に上がると、昨日会ったばかりの撮影クルーが湖岸に待ち受けていた。
頭を下げる半魚人、スタッフに挨拶をする。
スタッフの中で一番大柄の責任者とも思われる男性が、布でできた巾着袋を渡す。中には五百円玉がぎっしりと詰まっていた。
「これ昨日の出演料。水の中だとお札は濡れるから硬貨にしておいた」
「ありがとう」半魚人はテレパシーを返した。
いくらあるかはわからないが、これでレストランでグルメ三昧できると急に上機嫌になった。
半魚人の考えはスタッフの一人にテレパシーで伝わった。
「半魚人さん、申し訳ないけど、その金額ではグルメ満喫はできません」
「クパッ」驚き落胆する半魚人。
「谷戸さん、半魚人さんのグルメレポート番組は?」女性スタッフがひらめいたことを口に出してみる。
「いいかもしれない」谷戸と呼ばれた男性スタッフは答えた。先ほどの大柄な男性だ。
「テレパシーの部分はテロップで流して、半魚人さんに湖では食べられないものを食べさせたら面白いんじゃないですか」女性レポーターがアイディアを述べる。
「では、企画が決まったら連絡しますね」谷戸が半魚人に伝える。
半魚人は、機嫌が戻り、笑顔になった。
程なくして、車はハローワークに着いた。
いつものように、入り口で全身を拭きドライヤーで乾かす。そしてハローワークのPCの前に座る半魚人とクルー。
職種は事務を諦めて、営業を入力してみた。
『要普免』の文字が続く。半魚人は周囲に「普免とは何だ」と尋ね、自動車免許のことだと教えてもらった。そんなものはもちろん取得してはいなかった。
「自動車免許は簡単に取れますか」とテレパシーで谷戸に訊く半魚人。
「難しいだろうね。学科もあるし」
半魚人はうなだれた。結局半魚人は、資格のいらない仕事を探すことになった。
試しに「労務」と入力してみる。力仕事が多く、細身の半魚人にこなせないことが予想できた。
残念ながら今回も空振りに終わったようだ。
スタッフは半魚人を車に乗せると帰路についた。
「今回は残念だったが、労務を主体にして探せば何かに引っかかるかもしれん」谷戸が慰める。
「そう、職探しは粘りが大切よ」と女性レポーターがアドバイスする。
湖に戻ると、半魚人の頭の中はグルメレポーターのことでいっぱいになった。
雑誌の切れ端で見た料理を、記憶の中で反芻させながら、水海の底へもぐっていった。




