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半魚人、またハロワへ行く

 一度は働く夢をあきらめた半魚人だったが、生魚を食っているうちに、「給料を手に入れてグルメを満喫するんだ」という食欲に根差した欲求に火がついて、再上陸を目指した。


 半魚人が住処である湖底から身をひるがえし、太陽光を反射して光る水面に顔を上げると、勢いよくシャッターが焚かれた。


「あの半魚人が今日もハローワークに行くようです。我々スタッフは同行し行方を見守ります」

というレポーターの声がして撮影クルーは岸辺に近づいた。


「何者だ?」と半魚人が先頭の女性レポーターにテレパシーで話しかけると「きゃっ」という軽い悲鳴の後に「本当に来た!」という甲高い声がした。


半魚人が岸辺に上陸すると、先ほどのクルーが遠巻きに眺めている。その中で屈強な男性がおそるおそる近づいて「半魚人さんどうぞ。お車と衣服も用意してます」と話す。


半魚人は、手渡された海パンをはくと、岸辺の駐車場へ歩いて行った。先ほどのレポーターは、すぐに逃げ出す姿勢を取りながらもマイクを突き付けて、半魚人の実況をしている。

「クパッ」

「半魚人は上機嫌の様です」

「太陽がまぶしい」という言葉が男性スタッフの脳内に飛び込んできた。

「これは失礼しました。おい早くグラサンを用意しろ」

グラサンに海パンという夏の遊び人みたいな風情で、半魚人は撮影スタッフの男が運転する車に乗り込んだ。

車は一路ハローワークを目指す。


 半魚人は女性レポーターと男性スタッフに挟まれて、ハローワーク内に入っていった。

受付の女性が「どういったご用件で」と尋ねるとすぐにテレパシーが返ってきた。

女性は「ウホッ」とゴリラのような驚きの声を上げるとすぐに「体の濡れている方はPCを閲覧できません」

と答える。


「バスタオルで全身をお拭きしろ」という男性スタッフの命令で、半魚人は全身をくまなくぬぐわれ、受付の女性のOKが出たので、閲覧室に入った。半魚人はPCの使い方について、職員から説明を受けたが、いまいちよくわからなかった。なので、スタッフが操作を担当することになった。


「年齢は?」と尋ねられた半魚人はテレパシーで「わかりません」と答えたので、年齢は不問にした。

その他、居住地や希望給与、希望地区などを尋ねられて、テレパシーで答えていった。

最後に職種を訊いたら、半魚人は胸を叩いて「パソコン使うかっこいい仕事」とテレパシーで伝えてきた。

スタッフの男は、一瞬プログラマーかと思ったが、半魚人のスキルを考えた上で一般事務と入力した。


 出てきた求人を見てスタッフは半魚人に残念そうに話した。

「エクセルとワードが必須だって。半魚人さんできますか」

半魚人は、瞼を閉じて悲しそうな顔になり、首を振った。


 こうして半魚人の二回目の就職活動は、エクセル、ワードという未知な物に行く手を阻まれたのであった。半魚人は撮影クルーの車で湖まで帰宅した。帰宅途中の車内で「エクセルとワードは覚えられますか?」とスタッフに訊いてみたが「半魚人さんは、体が濡れているし難しいだろうね」と言われて、半魚人の表情は暗くなった。


 半魚人は車から降りるとそのまま湖にもぐっていった。半魚人は今後の身の振り方を考えていた。


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