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【幕間】 嫉妬と葛藤





「あ~~~~~かわゆすなぁ~~かわゆすよぉ~~(* ̄▽ ̄*)~゜」 





 俺は手元の作業を止めて、コットンラビットの柵の前でベッタリ張り付いているフィオに視線を送る。するとフィオは今まで見た事が無いほど、幸せそうな笑顔を浮かべてコットンラビット達を見詰めていた。出産を終えて食事制限を解除したからか、母親のコットンラビットは最近ますます大きくなっている。フィオを乗せて走っても問題無さそうだ。乗り心地は、保障できないが……。





「…………」





 俺は小さく溜息を吐き出し、フィオから目線を外して作業に戻る。

 あれだけ機嫌が良ければ暫くは無茶な事をしでかさないだろうし、この間の様に倒れる様な心配も無いだろう。





「よしよしよし~~ママでしゅよ~~~(* ̄▽ ̄*)~゜」 





 直後に聞こえて来たフィオの声に、視線はそのまま再び手を止める。

 フィオは子うさぎが生まれてから常に機嫌が良い。コットンラビットの出産前に、栄養不足と睡眠不足で倒れた事もあり、無理な食事制限を止め、俺やヴァルド、アレクサンダーの好物を夕飯に催促しても快く作ってくれる。隙あらば行動制限区域の外へ逃走しようと言う事も無くなった。





「はふぅ~~溜まらん!(*´▽`*) わしゃしゃしゃしゃ~~~!」





 目線を上げると、フィオが柵の中に入って子うさぎ達を両腕で捕らえ、頬ずりをしている。その姿を見て再び溜息を吐く。どうにも集中出来ないので小屋の外でレオの爪の手入れでもしようと作業台を立つ。相変わらずうさぎと戯れるフィオを横目に、玄関まで辿り付く。ドアノブに手をかけて、ふと、今フィオを呼べば、あの笑顔のまま振り向いてくれるだろうか? と思い立つ。





「フィ――」





 いや待て。

 これではまるで、親の気を引こうする子供じゃないか。俺は頭を振り、今度こそ外に出る為にドアノブを握る手に力を入れ、玄関の戸を半分ほど開けた。





「あ~~大好きぃ!」





 その言葉に思わず息を飲み、動きを止めてしまった。

 そうか、そんなにうさぎが好きか……。分りきっていた事だが僅かに唖然として、のろのろとフィオを振り返る。フィオは子うさぎ達と共に親うさぎの上に乗り、相変わらず全身でうさぎを愛でていた。……良く考えて見れば、このまま声をかけないで小屋を出るのは、感じが悪い。たかが声をかけるだけで何を意識しているんだ……。妙な感情に揺さぶられながら、動揺を隠すようにフィオに声をかける。





「フィオ、俺は小屋の外でレオの爪の手入れをしているから……用があったら声をかけてくれ」

「はぁ~い、いってらっしゃ~い!」





 ……。

 …………。

 小屋の外に出て馬具を手に、レオの爪の間に挟まった土の塊を掻き出す。レオの爪の手入れに没頭していると、背後から押し殺した笑い声が聞こえる。軽く視線を送るとそこには蟻型の昆虫族、アレクサンダーが居た。





「ぶっ! ぷふっ! フィオひっでーのな! 振り向きもしなかったじゃん!」





 ――ガチャン。





 思わず手にしていた馬具を取り落とす。

 俺は取り落とした馬具をそのままに、アレクを睨みつける。するとアレクは小さな悲鳴を漏らして後ろに飛びのく。





「ちょっ! まじの殺気ぶつけんの止めろよな!? 本当の事じゃん!」





 確かにそうだ、フィオはうさぎに夢中で俺に一瞥もくれなかった。だが、それが何だと言うんだ。別に何かを期待して声をかけたのでは無いのだから、生返事でも、返事があれば問題は無い。そう言って馬具を拾い上げ、爪の手入れに専念する。





「いや、めっちゃ凹んでんじゃんよ;」

「……黙れ」





 何時から見ていたんだ?

 少し所ではない殺気を孕んだ声で問いただす。





「い、いやぁ~……そのぉ、プギーの皮をなめし始めた辺り、かな?」





 最初からじゃないか。

 更に強い殺気を放つと、今まで大人しくしていたレオが首を振って抵抗し、俺の手を逃れて草地へ駆けて行ってしまった。ああなってしまうと暫くは機嫌が悪く、何もさせてもらえない。俺は潔く諦めて、溜息を吐くと馬具を置いた。どうも今日は間が悪い……。





「なぁロゼ、フィオの事、どう思う?」





 突然の問いに僅かに緊張が走る。アレクにはフィオの特殊な事情を何も話していない。あくまで「保護」としか知らないはずだが……フィオの発言から何か感づかれたのか? 俺は動揺をを表に出さない様に気をつけながらアレクに目を向けた。





「……どうって、保護対象以外の何者でもない」

「いや、もう嫁にすれば良いじゃん? 嫌いじゃないんだろ?」





 そっちか……。

 俺は密かに安堵の息を吐くが、嫌いじゃなければ嫁にすると言うズレた発想に、呆れて言葉もで無い。深読みした自分が馬鹿らしくなってくる。





「……もう断られてる」

「は!? 求婚したの!?」

「いや………? して、ない、な……」





 そう言えば、求婚した覚えが無いが……まぁ普段から妙な発言の多いフィオの事だ、いちいち気にしていられない。





「…………求婚してないで断られるって、どんな状況なんだよ? ってか結構仲良さそうなのに嫌われてるんだ?」

「! 嫌われてはっ……」





 ハッキリと否定できずに押し黙る。

 食事制限中は酷かったが、それ以外では声を荒げて錯乱する事も少なくなって、普通に、友人と呼べる関係には、なっている、と、思う……。不意に、以前のヴァルドに言われた一言が脳意を掠めた。






『あんまり過保護が過ぎると嫌われるぞ? たまには散歩程度の外出を認めてやれ』






 ヴァルドのその言葉に僅かに苛立つ。

 ヴァルドに言われるまでも無く、俺だってそれくらい分かっている。ただ、フィオは特殊な身の上で、予想の遥か上を行く行動を取るので目が離せないだけだ。他意は無い。それに最近は、挽回している、はずだ、たぶん……。その好感度の大半がうさぎ関係の事だと言うのが情け無いが……。





「……まぁ、なんだ、フィオは可愛いけど、ちょっと性格が特殊だから……お前の良さがまだ分からないんだよ。 大丈夫! そのうちロゼの魅力に気が付くって! だから元気出せ、な?」





 俺が黙っているとアレクは変な方向へ勘違いをしたようだ。本当の事を説明する訳には行かないので、勘違いさせたままにして置こうと思ったが、聞き捨てなら無い内容だったので、フィオの為にも否定しておこう。こいつは昔から思い込みが激しすぎる。





「違う。 フィオは……俺は、別にフィオの事なんて――」





 否定するはずの言葉が喉の奥に痞えて出て来ない。同時に胸の奥に冷たい何かが突き刺さるような、鋭い痛みが走る。以前よりも強い痛みに僅かに眉を寄せ、誤魔化す様にアレクから目を逸らす。





「――あくまで、保護対象であって邪な感情など微塵も無い」

「保護ねぇ~? 何時もならとっとと町の自衛団か何かに送り届けて終わりだろう? 森番としての仕事の範囲を超えている気がするけどぉ~?」





 アレクの言葉に固まる。

 フィオを自衛団に引き渡すなど、考えもしなかった。当然と言えば当然だ、何故なら彼女は、植物だったのだから……。元気になれば元の位置に植え替える予定だった『フィオ』は、突如喋り出し、人に姿を変えた。それからは驚きの連続で、正直それ頃ではなかった。





 今から、フィオを他者に託す? ダメダ。そんな事認められない。

 それは、何故? ……分からない。だが非常に不愉快だ。

 この感情は、何だ? 俺が本当にフィオを好いているとでも?





 ――違う。





 そんなんじゃない。否定する様に頭を振れば、胸が強い痛みを訴える。無言の俺に気にした様子も無く、アレクが話を続ける。





「森番として守ってる森の中じゃなければ、何処の出身だろうが、どんな事情があろうが、売られようが、のたれ死のうが関係無いじゃん? 俺にはロゼがフィオに執着しているようにしか見えないんだけど?」

「――違う」





 そんな訳が無い。

 そう思うも俺はこの感情に名前を付ける事すら出来ていなかった。未だに強い痛みを訴える胸を強く掻き毟り、不快感を吐き出す様に、溜息を吐く。そんな俺の様子に酷く呆れた様にアレクが項垂れる。





「自覚無いんだぁ~……。 そっかぁ~……。 妖精族と巨人族、龍人族って、ほんと恋に疎いよなぁ~。睨み殺すんじゃないか、ってほどウサギの事睨みつけて、殺気飛ばしまくってたくせに、これで自覚無しとか、何言ってんだって感じだ……」





 恋?

 違う。そんなのは錯覚だ。一時期の気の迷い、熱病と同じで何時かは冷めるものだ。そして、長い時を生きる者達には呪いと言っても過言ではない。その時、不意に小屋の扉が開き、フィオがコットンラビットを木箱に詰めて、小屋の外に出て来た。ウサギを抱えたフィオは俺たちに気が付くと朗らかに微笑む。





 ※ ※ ※





『ん、ありがとう』





 フィオの美しい黒髪が、俺の指の間をサラサラと流れ落ちる。草木族だからだろうか、同じ物を使っているはずのフィオの髪からは、甘い花の香りが広がる。俺は常とは異なる弱々しいフィオの微笑みと、潤んだ瞳に誘われる様にそっと額に口付けた。





 ※ ※ ※





 小屋の扉から姿を現したフィオを視界に入れた瞬間に、フィオが倒れた夜の事を鮮烈に思い出した。すると不思議な事に、先ほどまでの胸の痛みが消え、同じ場所に熱が集まる。





「よぉ! フィオ! 何してんだ?」

「ん? ちょっと早いかなって思ったけど、ウサギ達を『ひなたぼっこ』させようと思って連れて来た!」





 ――違う。

 これが、この感情が恋であるはずが無い。例え、恋だとしても、許されない。これは呪いだ、不幸にしかならない。そんな事、あってはならない。フィオはいずれ、元の世界に帰るのだから……。俺は小屋の外でウサギ達と楽しげに戯れるフィオから逃れる様に目を逸らした。




はい、ロゼキュンのウジウジ回でした♪

イケメンのウジウジ、ジメジメ、ムッツリとか誰得なんだって感じだよねぇ!


なお、筋肉ダルマはフィオが関わるとアホの子になるだけで

ロゼやアレクとはまともな会話が行えます。

と、言うかロゼとヴァルドは『第一回フィオ会議』をしっかり行っています。

ガッツリカットしましたが……。どうやらフィオが絡むとアホが移るようです。



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