【第六十話】 絶望と幸せの間。
今日の夕飯は私、ロゼ、アレクの三人で囲む事になっている。献立はミルフィーユカツのチーズソース掛けにしてみた! チーズソースはアレクに作り方を教えたついでだけど、まぁ細かい事は気にしない! 夕食の準備が整うにつれて私はソワソワし始めていた。片手をポケットに入れて、そこにあるイヤーカフの存在を確かめる。半乾きだった魔石はちゃんとくっ付いたようだ。
……。
…………ど、どうする?
どうやって、渡せば良い? と、言うか、こういう物って言うのは、どうやって何て言って、どういうタイミングで渡す物なんだ? さっっぱり分らん。とりあえず今日は、無い。絶対無い。アレク居るし、何かやだ。明日か? でも何て言おう?
……。
…………。
………………。
【クエストが発生しました】
・ロゼの留守中に部屋に侵入し、イヤーカフを置いて素早く去れ。
うむ、これならいける!!! ロゼに直接渡すのが良いのは分っている。しかし、私にそんな勇気は無い! それに、どうせまたロゼの顔を見ると、ついつい言う予定の無かった汚い言葉を吐きかけてしまう気がする……。私は少し自己嫌悪気味に、クエストを受けようと心に決めた。
「ただいま」
「Σ┗(@ロ@;)┛」
私は突然のロゼの帰宅に驚きすぎて、持っていたサラダのボールを落しそうになった。……タイミング良過ぎだろう。わざとか? くっそう! などと考えながらサラダを盛り付けているとロゼの慌てた様な声が聞こえた。
「お、おい! フィオ! フィオ!!」
しかし、私は先ほどまでの不埒なクエストの影響で、動揺して何故か顔が熱いので、冷ますために冷たい水を飲んで誤魔化していた。
「フィオ! コットンラビットが!!」
「なにぃっ!?」
それを早く言え馬鹿者めがっ!!
私は大声でそう叫びながら、キッチンを飛び出した。
「……にゆゆゆ~~~~!!」
「ぬぁっ!?(*゜д゜*)」
「何だ?どおした?」
急いでコットンラビットの柵の前まで行くと、そこには何と、先ほどまでの倍はありそうな巨大なコットンラビットが鎮座していた。その大きさは私が両手いっぱいに手を広げたよりも横幅があり、軽く見上げるほどの高さに急成長していた。
「フィオ、何を食――」
「あれ?そいつ子――」
「キャァ━━━━━━━━━━━(*≧∇≦*)━━━━━━━━━━━☆★」
私は二人の声をまるっと無視して、巨大コットンラビットに飛びついた。嗚呼っ何たる触感!! 今までのサイズは両手に抱き込み、抱き枕にするには最適のサイズだったが、これは全身を優しく包み込む優しい触感、まさにマショマロコットンラビットベット!!! 人を堕落の道へ導く、罪作りな魅惑のボディ!! 堪らぬ! 貯まらぬぞぉぉぉ!!! こいつめ! これ以上私を虜にしてどうしたいと言うのだ?
「……………………長くなりそうだし、先に飯食っとくか?」
「……………………そうだな」
※ ※ ※
一時間後。
「…………ハッ、私はいったい何を!?」
「おぉ? 正気に戻ったか?」
私は巨大コットンラビットの背に乗ったまま、周囲を見渡す。そこには呆れ顔(最近昆虫族の表情が読める様になって来た)のアレクと、作業台で道具の手入れをしていたロゼが近づいて来た。な、何だ、このダメな子を見るような雰囲気は!?
「フィオ、こいつにいったい何を食べさせ――」
「フィオ喜べ! こいつ腹に子が居るぞ!」
「何だとう!!!」
なんと言う事だ、幼いラビットだと思っていた子が実は母親!? 父親は何処だ! 女を身篭らせて捨てるとは何たる悪党!! 女の敵!!! ……いや待て、野生動物にそんな概念ある訳無いか。それよりも身重のコットンラビットに何を食べさせれば良いのだろう? そして産後に食べさせる栄養価の高い草も把握、確保しなくてはならない。あぁ寝床もこのままではまずいか……。私は過去にうさぎ(と言っても普通のホーランドロップ)の妊娠、出産、育児をした経験から、意外と冷静に出産までの手順を頭の中でシュミレーションして必要な物を上げていった。
「おいアレク!」
「良いじゃん、あんなに喜んでんだから」
二人の声で現実に引き戻された私は、勢い良く二人を振り返る。私のその勢いに驚いたのか、二人は一瞬目を見開き、アレクは二歩後退した。
「アレクッ! 後どのくらいで生まれるか分る!?」
「え!? や、……そうだな、1週間前後じゃないか?」
なんと!? そんな急な話なのかっ!?
いや、待て落ち着け、お産などいくらでも予定が変わるものだ。私はアレクにコットンラビットのお産に必要な物と、摂取しなければならない栄養とそれを含んだ草の名前と特徴などの情報を聞き出す。
「――うむうむ。 で、ロゼ氏、さっきは何を言いかけていたんだね?」
「あぁ、「そいつに何を食わせたんだ?」と言おうとしたんだ。 ……食に貪欲なコットンラビットが妊娠して、何か妙な物を大量に食って急激に肥大化するって話は結構あるんだ」
何か妙な物を大量に食べた、とな? つまり、妊娠だけではここまで大きくはならない、という事か。私は昼間のコットンラビット達の様子を思い浮かべる。
「…………あ」
私は情けなく眉を下げ、呆れ顔のロゼを見詰めた。
「昼間、外に積んで置いた先生の葉っぱ、全部食べちゃった……」
草木族の一部を妊娠中のコットンラビットが食したら、何か体に悪影響があるのだろうか? 可笑しな物を食べさせてしまった己の迂闊さと、何も知らなかったとは言え喜んでしまった己のアホさ加減に情けなくて涙が滲む。
「ロゼ氏……先生の葉には、何か母体に悪影響――」
「そうじゃない。 一年中食欲が旺盛なコットンラビットが妊娠すると、食べ過ぎて太りすぎる場合がある。 その結果が――アレだ。 そんなに心配しなくても今後は少し餌を制限すれば大丈夫だ」
食事制限……。
食欲旺盛な、しかも栄養の必要な次期の食事制限とか……何だか非常に、非っ~~~~常に切ない響きを感じるのは私の気のせいだろうか? 生前のダイエット期間で経験のある私は、その味気無さと量の少なさに胃がキュンとなった。……そう言えばまだ夕飯を食べていないな。
「にゆ~~~~~……」
その時、切なげに瞳を潤ませた巨大コットンラビットと目が合った。
「…………分った」
「それじゃ、餌は――」
「私も一緒にダイエットするっ!」
「え?」
「だいえっと、って何だ?」
困惑する二人を無視して、私は巨大コットンラビットに抱きつき、その毛の触感を堪能する。そして、顔を上げるとコットンラビットの瞳を覗き込み、強く硬く決意をする。
「君にだけ辛い思いはさせない! 私も一緒に食事制限をして一緒に頑張って元気な子うさぎを生もう?」
「にゆゆゆ~~~~~~~~~!!!!」
「「…………………………………………」」
私とコットンラビットは、同じ目標掲げて互いに強く抱き合った。苦しい時は互いに励まし合い、ささやかな喜びを分け合い、お互いの動向を探り、抜け駆けをしないように見張りあう。これぞ女の友情である。
「なぁ、ロゼ、何時も思うんだが……大丈夫かな? あの子」
「…………………………………知らん」
呆れる二人の男は軽く目を見合わせ、それぞれの行動に戻っていった。
いかがでしたでしょうか?
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