【第五十六話】 巨大赤芋虫ベット。
私は今、巨大赤芋虫の背に乗り、その触感を楽しみながら森番小屋に向けてゆっくり移動中である。小芋虫も素晴らしいグミ触感だったが大芋虫も良い、実に良い。「大量のグミに塗れたい」などと言う願望を抱く人間にとっては救世主と言えよう。ちなみに実行するのはお勧めしない。アレは人とベットを駄目にする。(←実行済み) それに比べてこの巨大赤芋虫ときたら!! 本物のグミと違って溶けてベタベタ髪に纏わりつく心配も無く、全身を包み込む安心感と満足感、そして実際のグミでは実現出来ないこの重量!!
そもそもグミとは砂糖とゼラチンと水分で構成されている食品である。にもかかわらず生物でその触感を再現するこのスペックッ!! さらに冷蔵庫で程良く冷やしたような心地よい体温。飛びつけば弾むほどの弾力。それでいて硬いくなく程よく体を包み込む。堪らぬ……これは人を駄目にする触感である。全身でこの触感に包まれ、至福の時間を堪能する事に夢中になっていたら何時の間にか巨大赤芋虫の背に乗り小屋の前だった。
「……ふむ。 そう言えば筋肉ダルマとリアルタイプ蟻人間の姿が見えぬな」
もみもみ。
嗚呼、異世界生活で獲たストレスが溶けて行くようだ……。主に筋肉ダルマに放り投げられたりとか、雄たけびを上げられたりだとか、ダルマが思った以上の低スペックだったりとか、私の世界と異世界との常識の違いだったりとかにな!
「ムウウウウ~~~」
「ムゥゥ~~~~~」
小屋の前(恐らくは結界の手前)に着いても背中から下りない私を芋虫親子は咎める事無く受け入れてくれている。森番小屋で飼えないかな? 巨大芋虫は敷布団、小芋虫は枕、うむ良いアイディアだ! 早速ロゼ氏に提案しなければ! ……ん? 親子?
「そうか君達は親子だったのか! だからあんなに怒って――」
「フィオッ!!」
へ?
振り返ると、目の前には鬼気迫る表情のロゼが剣を抜いてこちらを見ている。背後からは息を切らした筋肉ダルマとリアルタイプ蟻人間が追いついて来て素早く臨戦態勢を取った。ん? あれ?
――何故こうなった?
良く考えて見れば一度は距離を取ったはずの巨大赤芋虫に我慢できずにダイブしたあたりから記憶が曖昧だ。……恐るべしグミ触感の魔力。いやいや、ふざけてる場合じゃない! え、どうしよう? どういう状況? ロゼの過保護が爆発寸前だ。いや、もう爆発してるか? と、とにかく何とかしなければ愛しのグミ触感芋虫ズが殺されてしまう!
「フィオッ!
「ち、違うんだ! ロゼ氏! これは、これには深い訳が――」
「にゅぅぅぅ~~~~~!!!!」
「「「!!!」」」
動揺した私の口からは何故か浮気がばれた夫のような発言が飛び出していた。混乱している己に呆れていると、張詰めた空気を破ったのはマショマロボディーのコットンラビットだった。コットンラビットは足に怪我を負っているとは思えないほど素早く巨大赤芋虫の傍まで駆け寄ってきた。
「ムウウウウウッ!!」
「にゅぅっ!?」
「Σ(゜□゜;)おおぉぉぉぉい!?」
な、何と言う事だ! 我が愛しのコットンラビットが巨大赤芋虫の口元付近で消息を絶っただとぉっ!? これは、これは、もしかしなくても食われたのでは!? 私は無我夢中で巨大赤芋虫の触覚を鷲掴みにして立ち上がり、胴を反らせ吐かせようと試みた。巨大赤芋虫の海老反りとは……何ともシュールな。ってそれ所じゃな無かったっ!
「吐けっ! 吐きやがれっ!! いくら絶妙なグミ触感ズでも共食い(?)は容認できん!! 愛玩動物同士の喧嘩はおやめください!!!」
「ムグウッ!」
「……にゅ~~~」
私が巨大赤芋虫を海老反りにして締め上げると、口にくわえていたコットンラビットが唾液まみれでベシャリと地面に転がり出た。うえ。私は巨大赤芋虫の背から降りてコットンラビットに近寄る。……抱き寄せるのは一瞬躊躇する見た目だったが、出来るだけ唾液に触れないように抱き上げた。
「フィオ離れろっ」
一難去って又一難。
私は巨大赤芋虫の唾液でベッタベタのコットンラビットを抱きながら僅かに眩暈を感じた。
「ロゼ氏、大丈夫だ。 この芋虫ズは何故か私に懐いていてなぁ」
「なっ……それは、人食いだぞ……」
反省した様子の巨大赤芋虫を撫でながらロゼに言うと、盛大に顔の筋肉を引きつらせたロゼと目が合う。ロゼは分かりやすくドン引きして巨大赤芋虫の後ろにいた筋肉ダルマとリアルタイプ蟻人間に無言のまま目線を合わせていた。
「……コレは、どういう事だ? 本当、なのか?」
「あぁ、俺も信じられないが、マジだ; 可愛いとか言って背中に飛びつくし、触感が気に入ったのか抱きついたまま離れないし、異常に嬉しそうだしよぉ……ヤヴェエよこの子;」
「さすがは俺の嫁っ!」
ドン引きする二人と嬉しそうな筋肉ダルマを無視して私は芋虫ズに向き合う。
「良いかね二人とも? このうさぎは食ってはならん。 野生動物なのだから弱肉強食なのは理解できる、だが、仲間を得て協力し合う事で狩りの効率を上げるという方法もあるのだよ? 仲良くしようではないか。 そして人は食わん方が良い。 共存できる道を模索すべきだ!」
「……躾けしてるしよぉ; 何なんだよ; あの子怖えぇよ;」
「…………」
後ろから聞こえた失礼な発言にムッとして振り向くとリアルタイプ蟻人間が目を逸らした。彼(?)の中で私は完全に化け物扱いである。ロゼは何か諦めたような表情で剣を仕舞った。この芋虫ズを寝室に設置して芋虫ベットにしたかったのだが……。あの二人の様子から察するに流石に人食い大芋虫を森番小屋で飼う訳にはいかないようだ。私とて空気は読めるのだ、森番小屋と言う人命救助の施設で人命を脅かす存在を置けない事くらい察する事は出来る。私は芋虫ベットを潔く諦めて絶句しているロゼに目を向ける。
「ところでロゼ氏。 君は少々早とちりが過ぎるのでは無いかね? 以前も同じような事が無かったかね? ん?」
「え、いや……」
「これは人食いなのだろう? 私が襲われているのならば咥えられて居るのでは無いかね? 私が芋虫の背に乗っている時点で色々察したまえ」
「……すまん」
「「……すまん」で澄めば騎士団はいらんのだよっ!!!」
そう言えば先生はどうしたんだろう……。
でもまぁ、良いか。何時でも念話で話せるし、それにリアルタイプ蟻人間が居るところで先生と話が出来ないからなぁ。私は異世界における自らの立ち居地が曖昧すぎて、溜息が零れるのを止められなかった。
いかがでしたでしょうか?
こうしてフィオの知らぬうちに従魔がドンドン増えていくのでした!
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