【第五十二話】 赤い芋虫捕獲包囲網。
「いたか?」
「いねーなぁ」
昼食後、私は口煩いロゼを黙らせて自室に追いやり、筋肉ダルマと共に森の中を歩いている。目的地は勿論古木先生の所であるが、道すがら赤い芋虫を捕らえたとて何の問題も無かろう。(邪笑) と、言う訳で赤い芋虫を捜索しつつ先生に所へ向かうので途中である。
「イモコ~出ておいで~~!」
「イモコ?」
私は赤い芋虫こと、セッチャ芋虫に親しみを込めて愛称で呼べば出てくるかと思ったのだ。
「おぉ! いい考えだな! さ――」
「嫁になった覚えは無いぞ!」
「ハッハッハー! フィオは恥ずかしがりやだなっ!!」
どんだけポジティブなんだ。
言葉の通じない獣とはこいつの為の言葉なのだろう。そして思う、私の望んだ異世界ハーレムはこんなんでは無いと。異世界で初めて経験したモテ期が……そして相手がこんな珍獣であってたまるか。
怒りのままに地面を踏み鳴らし森を進む。
しかしふと周囲を見渡すと、見慣れない景色が広がっていた。と言っても目に見える景色は木だけだが……。
「おい筋肉。 道は合っているのか?」
「ん? 先生とやらの場所は俺は知らんぞ?」
……
…………は?
つまりこの馬鹿は、道が分からないのに浮かれに浮かれて「こっちだ!!!」と言いながら堂々と森を先導して来たと言うのに、知らん? 私は筋肉ダルマに両膝を折って座るように静かに指示を出した。
「ふざけろクズッ!!!! 何で場所も分からないのに自信満々に道案内なんかしてんだよっ!!! そしてココは何処なんだ!!!」
私は筋肉ダルマの頬に拳を叩き込みながら周囲を見渡す。見渡す限りの木、木、木、木、木。目印になりそうな目立った物は何も無い。過保護な保護者の元を離れて直ぐにこんな状況に陥るとは……。私は眉根に皺を寄せ、腕を組み目を瞑る。こんな事をロゼに知られれば、ますます私の事を子ども扱いして何処にも行かれなくされそうだ。助けれたのも、世話になっているのも、迷惑をかけている自覚もある、感謝もしている。引きこもるのも慣れている。しかし、ゲームも漫画もない世界にはいい加減飽き飽きしているのだ。娯楽がない、楽しくない、外に出たい! ロゼに私の人権を認めさせる為には、何とかこの状況を私だけの力で何とかするしかないだろう。私は筋肉製のダルマに戦力外通知を叩きつけると行動を開始した。
※※※
私たちは元来た道をひたすら戻った。
何事も慎重派な私(?)は、小屋からさらに離れるような馬鹿な真似はしないのである。迷子の時は冷静に、慎重に行動すべし! まずは分かる所まで引き返し、そこから先生の所へ向かう事にしたのである。……私らしくないと言うな、私とて「いつものノリ」で突っ走りたい衝動に駆らつつも必死に絶えて苦渋の決断(?)をしたのだ。ロゼに私の人権を認めさせるためには仕方がない。安全運転の何が悪い!!
「おいフィオ!!!」
「何だクズ! くだらない事だったら殺すぞっ!!」
私はありったけの殺意を込めた目を筋肉製のダルマに向けると、ダルマの指差す先に派手派手しい真っ赤な芋虫が悠然と歩いていた。
「探してたろ!!」
「……お、おぉう、良くやった;」
私は戸惑いつつも探していた赤い芋虫へ目を向ける。頭から生える二本の黄色い角、背中には派手なヒラヒラのヒレが付いていて全体が鮮やかなスカーレッド、胴体は成人男性の腕ほどの太さがあり無数の丸い足が生えている。思っていたより遥かにグロテスクな見た目に思わず引いた。と、言うかこんな見た目で真昼間からウロウロして敵に襲われないんだろうか?
「早く捕まえないと逃げられるぞっ!!!」
あんなゆっくり地べたを這い蹲ってんのに、そんな馬鹿な事がある訳が……と、少し目を放した隙に赤い芋虫は、目にも止まらぬ速さで森の奥へと逃げ出していた。
「Σ何アレ早っ!!」
「追うぞっ!!!」
アノ見た目を裏切る速さは何処から出ているんだっ!? あのボディの何処にそんなポテンシャルがあると言うのだ!? 私は色々納得できない思いを心から追い出し、逃げる芋虫を追いかけた。
「待てゴルアッ!!!」
薄暗い森の木々を避けながら走る派手なスカーレッド。ヤツが駆け抜ける木々の間には赤い残像が残させる。さながら某社のマ○オ○ートの如く疾走感である。そして全く追いつけない、肉食芋虫恐るべし。正直私は走るのは苦手かつ遅い。そして体力も無いであろう事は予想がつく。なので早く捕まえないと勝機は無いのだが……。私は隣を走るダルマをチラリと見る。
「ぬっおぉおおぉぉぉおおおっっっ!!!!!!!!!!!」
頼りの筋肉ダルマが鈍足すぎる。
私より足が長くてでかいのに走るスピードが同じって……恐らく付けすぎた筋肉が重いのが原因と思われる。私とダルマの鈍足コンビでは素早い芋虫に追いつく術は無いようで、こうしている間にもどんどん距離が離れていく。私は走りながら何処か諦め気味に芋虫の行く先を見詰める。すると、芋虫の逃走経路上に黒い二足歩行の人、のような影がある。ただ、人にしては手足の線が細すぎる。
「アレクーーーそいつを捕まえてくれぇぇぇぇーーーーー!!!!!」
アレクと呼ばれた人影(?)はこちらを振り向き、赤い芋虫に向かって丸い何かを投げ付けた。芋虫が避けて丸い物が地面に付いて爆ぜる。すると周囲に白い煙が一気に広がる、煙玉である。モ○ハ○でお馴染みの煙玉の存在に私のテンションは上がる。興奮気味に傍観していたがふと我に帰る、もしもアレが毒煙玉だったら大変危険である、と、私は咄嗟に口元を布で覆い、煙の薄い風上へ足を勧めた。
「いいぞ! 捕まえろ!!」
煙の向こう側から声がかけられる。先ほど筋肉ダルマがアレクと呼んだ人物だろう。「何だろう?」と疑問に思っていると突然、煙の中から赤い芋虫が飛び出してきた。
「Σムゥ!?」
「Σぎゃ!?」
私の顔面に向かって飛び込んできたソレを咄嗟に両手でキャッチしてしまった。赤い芋虫ついにお縄である。手の中でふにゃりと形を変える芋虫の胴体は、思ったよりずっと柔らかくて程よい弾力があり、少しヒンヤリしていた。コットンラビットがマショマロなら赤い芋虫はグミだろうか? 癖になりそうな触感だ。……こうして至近距離で見ると、クリリとした目が、意外と可愛らしい。赤い芋虫は最初は震えながらもがいて居たが、私が胴を揉み込むように触っていると、くてんと体の力を抜いてなすがままになっている。
「おー! 良く捕まえたな」
「!?」
私が両手で赤芋虫の触感を楽しんでいると、煙の向こう側からアレクと思われる人物が歩いてきた。どうやら彼は昆虫族だったようである。カカシのような細い手足に大きく肥大した腹と尻、大きな黒い目、身長は私よりも高く、民族衣装のような服を着た蟻が話しかけてきた。デフォルトタイプの蟻人間ならまだ対応出来たが……あまりにリアルにでかい蟻で正直かなり気味が悪い。
「おぉぉぉ!!! やったなフィオ!!!!」
「何だヴァルドじゃないか。 またぶち込まれたらしいじゃないか? 何時出所したんだ?」
ダルマの逮捕に無関係ではない私は気まずくてそっと目を逸らす。決してリアルタイプ蟻人間が気持ち悪かった訳ではない。あぁ、でも昆虫族はゴ○ブ○だけじゃないと分かっただけでも希望が見えた……。このリアルタイプ蟻人間はちょっと受け付けないけど、虫が無条件に嫌いな私でも拒絶反応を出さない昆虫族もきっといるだろう。アレクには悪いけど彼にはこれ以上近づいて欲しくない。そんな事を思っていると、アレクと呼ばれた(恐らく男性と思われる)昆虫族が筋肉ダルマとの話をいったん切り、私に無造作に近づいてくる。
「それにしても、この子やるねぇ! セッチャ芋虫を無傷で捕まえられるなんて! 俺はアレクサンダー。 この森で狩人をしている、よろしくな!」
「あ、フィオです」
何か、異世界来てまともな自己紹介したの始めてかも知れない……。
そう思いながらアレクサンダーの差し出した黒い手を戸惑いながらも握る。やはり人の手とは違っていたが見た目ほど硬くなく、薄っすらと柔らかな毛に覆われていた。その手は人の体温よりは少し低いが僅かに暖かかく、生きている本物の手なのだと今更ながらに少し驚いた。無類の昆虫嫌いの私でも叫びだしてしまわない程度には悪くない感触だった。
すると、アレクサンダーは何かを思いついたように荷物の所へ駆けていくと、大きな麻袋を私に差し出した。
「今日はホーンラビットが大猟でな! 少しだが家に帰ってぜひ食べてくれ!」
「おおおぉぉ悪いなアレク!!!!」
「…………」
私は怯える赤い芋虫を両手で抱き直して、筋肉ダルマとリアルタイプ蟻人間から大きく一歩距離を取った。二人はそんな私の行動を気にした様子も無く、筋肉ダルマが捕まったときの事を楽しげに話している。私は騎士の制服が格好良かったなぁ~と現実と麻袋の中身から目を逸らした。
いかがでしたでしょうか?
お楽しみいただけたなら幸いの極みでございます。
そろそろ前書きに書くことが無くなって来たので
これからは控えめにしようと思います。
ご覧戴き、ありがとうございました。




