【幕間】 小さく芽吹いた恋の花
はじめまして、こんにちは……。
奇人変人ヴァインです。以後お見知りおきを……。
今回はロゼストーリーになりますが、過去については触れていないので
その点はご容赦ください。
歌が終わり、その余韻に浸っていると、不意にフィオが見た事の無い優しげな笑顔を向けて、俺に両手を差し出しながら近づいて来た。その様子はまるで、天使が舞い降りて来たかのようだった。俺はその姿に引き寄せられるように自然と手を伸ばしていた。
「ああぁっ! もふもふ逃げた!!!」
「……もふ、もふ?」
その声で現実に戻された俺は、伸ばしていた手を下ろしてフィオを見つめる。今までに無いほどフィオを近くに感じて、膝に置かれた手が暖かくて、柔らかくて、酷く戸惑う。するとフィオは俺の事を見上げて、眉を寄せ、険しい表情で睨んできた。
「何で、こんなに嫌われたんだ……」
溜息しか出ない。どうやら先ほどの笑顔は、膝の上にいたホーンラビットへ向けていたようで、俺へ向けたのではなかった。当然だ、フィオは動物が好きなようだし、そもそも俺にあんな笑顔を向ける筈が無い。それなのに何故か胸の奥にもやもやとした複雑な感情が渦巻き、僅かに痛みを伴う。俺はそんなに嫌われるような事をフィオにしてしまっただろうか? 美しい歌声に聴入りながら、自分が彼女に何をしたのか真剣に考えていた。
※※※
「キャーーーーーーーー!!! 助けてーー!!! ヘルプミーーーー!!!!」
俺にとって、この一言が全ての始まりだった。長い時を生きる俺は、毎日を死んだように諦めながら生きてきた。そんな俺の日々にフィオが現れた日から、少しずつ何かが変わって行った。嵐のように激しく乱暴に、俺の日常を壊し始めた。長年、俺が悩み続けた事を簡単に壊して捨ててくれた。正直に言えば、初めは戸惑いのほうが大きかったが、今では心がだいぶ軽くなったと感じている。
フィオーレアンジュ。天使の名を有するこの純白の花は、極端に生息数が少なく、未だに全容の解明には至っていない。分かっている事は、天使の翼のような重厚な花びらは、花芯を守るように堅く閉じられていて、完全に咲く事はないとされている。それ故に、「咲かせる事が出来たら、いかなる願いをも叶える」と言う迷信のような話があった。
――願いを叶える花……。
「…………自分らしく、生きたい」
信じていた訳ではない、花も開いてはいなかったが、俺の願いは叶えられた。フィオと話しをするうちに、その裏表の無さ過ぎる態度に振り回されてばかりで、自分を偽っているのが次第に馬鹿らしくなってきた。辛辣な言葉の数々も事実だからか、いっそ清清しかった。久しぶりに他人とまともな会話をしたかもしれない。
「いや嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああっっっっっ!?!?!?!?」
フィオが人の姿になった時、あまりの事態に言葉を失った。疲れたのか椅子の上で眠りに落ちたフィオを、夢見心地で見つめていた。腰まである美しい漆黒の髪、絹のように白く滑らかな肌、細すぎる手足に華奢な体、薄紅色の瞳は閉じられ、薄く開いた赤い唇からは寝息が漏れる。顔は幼い少女なのに、体は成熟した女性そのもので妙に色っぽく、美しい顔立ちをしていた。部屋に運ぶ為に横抱きにして抱えあげれば、花のような甘い香りに包まれた。あまりにも無防備で一瞬、理性を失いかけた。
「……女、だったのか」
この時の俺の感想はその一言に尽きる。花でだったフィオは中性的な声色だったので、声だけで男女を識別することは出来なかった。口調で判断した結果、男だと判断したが……それを告白した時のフィオの静がな怒りを思い出すと、今でもぞっとする。
※※※
再び溜息が漏れる。我ながら酷い扱いをしたものだと頭を抱える。嫌われて当然、自業自得だ。今更後悔したって遅いが、俺は何て馬鹿なんだ……。長年、他人とまともな会話をしてこなかったツケが、こんな所で回って来るとは思わなかった。……フィオと良好な関係を築く方法が分からない。
(救われたのは、俺のほうだったな……)
本当に情け無い限りだが、木の板で頭を殴られてフィオに怒鳴られて、ようやく目が覚めたような気がした。このままではダメなんだと、自分らしく生きて良いのだとフィオに言われた気がした。そんなフィオを観察すれば、まるで子犬のようにコロコロと表情を変えて、目で見る物、手で触れるもの全てに目を輝かせて、怒ったり笑ったり、見ていて飽きない。目を離せば直ぐに居なくなって、厄介な事に巻き込まれて、目が離せない。
しかし、それらは全て自分の一方的な感情なのだと、フィオの態度で気付かされる。最初は俺の過去について聞かないでくれるフィオに感謝していたが、それは俺への配慮ではなく、単純に俺に興味が無いのだと知った。ここまで俺個人の事に興味を示されないと、寂しい気持ちになるのと同時に僅かに怒りがこみ上げる。少しぐらい、興味を示してくれても良さそうなものだが……。
『ふぉふぉふぉ! まだまだ青いのぉ~』
「!?」
俺は辺りを見渡すがフィオ以外は誰も居ない。まさか、と思い腰掛けている古木を見上げる。この木が話しかけてきたのか……?
『そうじゃ。 アレはお主の事を嫌ってはおらんと思うがなぁ?』
……そういえば、フィオが先生は心で思った事を読むと言っていたな。俺は心を無にして古木を見上げ、小声で話かける。
「……あれほど露骨に嫌な顔をしていて、嫌っていない訳がない」
『だからお主は青いと言うに……まぁ良い。 わしがお主に話しかけたのはそんな話をするためではない。 お主、アレをどう思う?』
「……どう、とは?」
俺は歌い続けるフィオに目を向ける。
『分かっておるとは思うが、アレを守る覚悟が無いのなら早めに手を離すんじゃ。 それがお主のためでもあり、アレのためでもある』
フィオの手を、離す? 何を、と問いかけて眉を寄せる。
「例の教会か……」
『うむ、敵は強大じゃ、生半可な気持ちでは守れぬぞ?』
覚悟を問われる質問に俺は言葉を失う。守りたいとは思う、俺に出来ることがあるなら協力したい。だが……フィオの身の安全を最優先に考えるなら、やはり元の世界に返したほうが良いだろう。生前どおりに親族と関われなくとも、ここに居るよりは安全なはずだ。何よりもフィオが帰りたがっているのだから俺に出来ることは、彼女が元の世界に返る方法を探すことぐらいだろう。俺は古木を見上げて問い掛ける。
「あなたは、フィオについて何が知っているか?」
『残念ながらお主が欲しておる事柄は何も分からぬ……』
俺は何も言わずに溜息を漏らす。内容が内容なだけに簡単に情報が手に入るとは思って居なかったが、今日一日で得られた情報は、人族の若者が神界へ召喚されたという確証の無い話だけだった。まだ情報を集め始めて日が浅い、焦っても仕方がないが、こうも手がかりが無いと情報を収集する範囲を広げなければ難しいかも知れない。
『……本当にそれで良いのか?』
「…………ああ」
古木はそれ以上何も言って来なかった。俺は美しい歌を披露するフィオを見つめる。フィオは沢山のホーンラビットに囲まれて、とても嬉しそうに、俺に向けることの無い、無邪気で眩しい笑顔を浮かべていた。
――せめて、元の世界に帰る日までは、俺がフィオを守ろう。
何故か先ほどよりも強く、胸の奥が痛むのを感じる。その痛みの意味を理解できないまま、歌い終わったフィオをレオの背に乗せ、小屋に戻る。
いかがでしたでしょうか?お口に会いましたでしょうか?
この話を書き上げるのに何度ロゼ氏を殺害したか分かりません。
幾度となく書いては消し、書いては消し、叫び声を上げて家族に変顔を見られた挙句、
「誰を殺そうとしているの!?」と聞かれる始末。いや、想像上で既に10回は殺しています(ロゼ氏)
おかしいなぁ以前はもっと・・・甘い系の恋愛小説書いていたのに・・・
もう、何も言うまい・・・。
ご覧戴き、ありがとうございました。
またのお越しを心よりお待ち申し上げております。




