ガチャ
吾輩は猫である。名前はにゃんですと──とりあえず改名を希望するぞクソ主人。
そんな感じに猫パンチを食らった今日この頃。付けたの俺じゃないのに。
ログインをする、というのは正直奇妙な感覚だ。
頭に付けたヘッドギアのスイッチを入れて暫くすると眠気のような物を感じて、気が付けば意識だけははっきりと暗闇の中で目を覚ます。
──Now loading.
蛍光緑の文字が視界に映るので、これがゲームの中だとなんとなく気が付ける。
その点滅が消えるまではまるで靄がかったかのような感覚が満ちていて、それが消えると同時に何かに接続されるような音が微かに響き、五感が正常に機能し始める。
言葉にするとそんな感じ。正直、初めての事なので酷く気持ち悪い。
そうして、正常に機能し始めた視界に真っ先に映ったのは巨大なカプセルトイ──の背後で寝転がっている10㌧トラックサイズの巨大な獅子だった。
黄金色と言う言葉がよく似合う赤の混じったような金の毛並み、王者の風格と愛らしさを併せ持つサラサラとした鬣、薄らと開けられた瞳はバスケットボール大の翡翠を嵌め込んだかの様な美麗さ。欠伸した際の除いた牙は鋭く、けれども汚れなどない象牙色。軽く振るうだけで風切り音を鳴らす細いのに力強さを感じさせる尾。──まさしく見惚れる、その言葉以外に何が必要か。
ネコ科──相棒は猫が良いかな。出来ればライオンとか、そういう大きいサイズの。
イヌ科も可愛いけど、ネコ科の気まぐれな所も捨てがたいし。なんと言えばいいんだろう。
ともかく、目の前に巨大ライオンなんて素敵生き物がいるので、今回はネコ科がいいな。
「──いや、何でも来てくれたら最高に可愛がるんだけどさ」
そんな事を呟きながら、私はライオンからカプセルトイへと視線を逸らす。
形状こそデパートの入り口付近に置いてある物と変わらないものの、サイズは私の二倍ほどの大きさで、入っているのは無数の卵。灰色の卵が無数に敷き詰められている中には、他とは違う色の卵が幾つか見て取れる。
その特徴的な卵の中で一番数が多いのが銀色。総数の内2割くらいは銀色だ。
その次に多いのは金色で、銀色の1/4くらいしかない。幾つかには奇妙なマークがあり、……なんだろう。肉球のマークの様な?
後は蒼い稲妻みたいなマークの付いた黒い卵だったり、時計みたいなマークの付いたピンクの卵なんかもある。どういう物か分からないけど、なんというか、やっぱりゲームなんだなと納得する。
こんな卵、現実にあり得るはずないし。……あったら可愛いかもだけど。
まあ、とりあえず引くとしよう。一発限りの人生ゲーム。泣いても笑っても愛でるだけ。
それなら気楽に、いつも通りガチャを気軽に回すとしよう。
──ぐるり。もふぅ。にゃーん。
不思議な効果音と共に排出された卵の色は雪のように白く、翡翠色の縞模様が付いている卵だ。大きさはバランスボール程もあり、抱き上げるのも大変だった。また、碧の縞は宝石のように輝いており、偶に卵の全体が薄らと蒼く輝く事もある。
どういう原理なのか、よく分からないけど。──とりあえず、どんな子なんだろうか。
まあ、可愛い子だろう。だって私のパートナーなんだから。
「……それにしても、どうやって此処から出るんだろう」
卵が排出されたのに一向に街へと移動するそぶりがない。
おかしいな。情報板ではガチャ終了後に拠点となる街を選択する事が出来るらしいのに。
首を傾げていると、不意に足元が光りだす。視線を向ければ肉球マークのみで構成された魔法陣が存在しており、どこの街をスタート地点にするかを質問された。どうやらこの素敵な演出については情報板ではカットされていたらしい。多分、驚かせるためだろう。なんともにくい心遣いだ。
候補は<貿易都市アイゼンフィート><鉄血帝国ガバルリンデ><獣苑><地下王国ロショリタスキー><夢見る樹木の洞>……考えるまでもなく<獸苑>一択だ。更なる出会いを求めるのは私のゲーム目的から考えて当たり前。その中で一番可能性の高そうな選択肢がある時点で考えるまでもない。
指で弾くように触れると他の候補は消え去り、魔法陣は回転式原動機の如く動き出して光の密度を増していく。同時に消えるかのように透けていく足元を見て、私は期待を胸に、卵をより強く抱きしめた。
▼
【獣人/兎】アルLV1(MAX100)
【職業】チェイサーLV1(MAX30)
【スキル】★瞑想LV1/獣心理解LV1
【ステータス】〈筋力〉1〈強靭〉1〈技量〉51〈知性〉1〈信仰〉1
〈生命力〉25〈精神力〉25
【装備】〈頭〉──〈服〉兎人の旅装束〈腕〉──〈足〉兎人の旅装束〈靴〉靴〈他〉???の卵〈他2〉──〈他3〉──
今回はガチャ回なので非常に短いです。