プロローグ
ハラ・ヘッタ・ニジュウニジ──コンビニ行ってきます。
私は動物が好きだ。
けれど、実家では動物を飼うことが出来なかった。
母が猫アレルギー、父が犬アレルギー、妹は鳥嫌いで、弟は爬虫類恐怖症。祖父母はミニブタを食べようとした前科がある。
そう、私以外の家族がパーフェクトにアウトだった。
なので現在に至るまで私は動物を飼ったことがない。外でも身内にアレルギー体質の人間が二人もいるせいで当然毛など付けて帰れないので中々触れ合う事も出来ない。重度なのでちょっとした事でかなり大変なのだ。コロコロで取れるのも限度があるし。
一人暮らしをしようと思った事もあるのだけど、子供の中で一番の年上である事もあり、若干ボケ始めている爺さん婆さんの相手をして欲しいと両親にも言われており、祖父母からもいなくなると寂しいと言われているので正直出ていきにくい。
なので私は自分の仕事──と言っても居酒屋でバイトをしているだけなんだけど、ともかくそこで稼いだお金でVRヘッドギアと呼ばれる物を購入しました。これはあくまでもゲームを行う為の媒体でしかないらしいけど、金額はそこそこ。万単位でお金を消費する恐怖の代物だ。分割払いを提案されたけど、まあ、今回は何とか払える手持ちがあったので一括払いしたけど。
どうしてこれを買ったかというと、最近販売したらしい<EDEN>と呼ばれるゲームで動物を飼育する職業があるらしいからだ。その話を持ち掛けてくれたのは弟だったのだけど、何やら若干微妙そうな顔でこちらを見ていたのは何故だろうか。まあ、後でアイスでも買ってあげよう。妹と違って舌が安いから楽でいい。
早速<EDEN>も購入したのですぐさまやろうとしたのだけど、キャラメイクをする必要があるのですぐには流石に出来ないらしい。職業以外興味がないので正直めんどくさいと思ったものの、弟からかっちょういいのがいいとキラキラした目で言われたので頑張る事にしよう。
──弟の要望を纏めると、バニーちゃんが良いらしい。……思わず絶句して確認すると、どうやら父が後生大事に取っていたアニメに出てくるヒーローみたいなのが良いらしい。……正直よく分からないので父に弄ってもらう事にした。
「……おう、分かった」
……相変わらずこんな時ばかり反応が早い。普段はのんびりと、極悪面を周囲にさらしているというのに。
そして父に頼んで作成されたのは──バニーガールだった。眼を擦り、念のために目薬までしてもう一度見て、──頭を抱えた。まさかの保存までされていた。もう変更できない。
姿かたちは現実の私をベースにしているらしい。相違点は薄桃色の髪と、真っ赤な瞳。頭から伸びたうさ耳から考えるに種族は<獣人/兎>だ。しかも顔立ちが普段通りに父親似なので正直に合わない。なんだこの可愛らしい筈のパーツが台無しになる顔。泣きたい。しかもさりげなくおっぱい大きくされてる。──この巨乳フェチが、死ね。それなりにデカいわクソが。
「いや、……単にお前がバニーガールが良いと言ったからそれっぽいのに」
「私が言ったのはバニーちゃん、アニメの方。バニーガールじゃない」
「マジか。──このゲーム性別変えれないぞ?」
「え? バニーちゃん男なの?」
こうして完成したのが私のアバター<AL>だ。ちなみに<ANIMAL LOVERS>の頭文字から取りました。モフモフ求むは伊達じゃない。トカゲのさらりとした鱗も素敵、鳥の嘴でツンツンされるのも好きだし、哺乳類はサイズとか変わらず可愛いです。……ただし昆虫、お前は駄目だ。蝶とか鱗粉気持ち悪い。ただしクモはちょっとキュートだと思う。あのぷっくりしたお腹とか愛らしい。
まあ、外見とか名前はおまけです。私にとってメインは職業、動物を飼える職業になるのが目的だから。
職業一覧の中からそれらしいのを見付けようと必死に探すが、おかしいな。飼育員とか、ブリーダーとか、そういう職業がない。
一端パソコンから離れて弟に確認する。すると呆れた視線とセットでこう返された。
「なんでぱせこんでしらべないの?」
言われて見ればそうだ。なんで弟にわざわざ聞きに来たのか。……あとパセコンじゃなくてパソコンね。お祖母ちゃんの影響だな、これ。
パソコンで調べた結果、それらしいのは三つ存在している。一つは動物、というよりもモンスターを捕まえ調教するテイマー。一つはモンスターを召喚して戦うサモナー。一つは一匹の獣と契約して使役するチェイサー。
テイマーの特徴は牧場と契約する事で所持可能なモンスター総数がずば抜けて多くなる事だろう。課金なしでも最大で100、課金すればユニーク個体やボスも含めたあらゆるモンスターを所有可能に出来るらしい。ただし、本人が覚える事が出来るのは調教に関するスキルが中心で、戦闘に関わるスキルは総数四つくらいらしい。最も、開始したばかりなのであまり情報がないので今後はどうかは分からないらしい。ただサモナーの最大契約数は6体まで、チェイサーの契約数が1体までと考えるとかなりお得に感じる。モフ天を作れる可能性があるのは本当に素晴らしい。本体であるプレイヤーが装備可能なのは鞭や短剣などの軽い物が中心なのでモンスターを戦わせながらけん制する事が主な動き方らしい。難点上げるならモンスターをテイムするには一対一(テイムモンスターは武器扱い)で勝利する必要がある事かな。
サモナーはテイマーと比べると育成に力を入れた職業ともいえる。召喚するモンスターはRANK1のモンスターのみ。それを育てる事で強化していくのだが、その際のステータスの分配は召喚者であるサモナーが選択できる。調教をする必要がないので召喚したモンスターを補助するスキルを複数覚えるので戦闘の凡庸性はサモナーの方が上だろう。更にある意味でこれが最大の特徴なのだけど、サモナーが召還したモンスターは実態をもつ魔法として認識される。つまり物理が効かない相手に対しても普通に攻撃が食らわせられるのだ。ちょっと優遇され過ぎてませんかね? まあ、武器は杖のみで防具はロープ系の身らしいので本体の性能はお察しらしいけど。
チェイサーは上記二つと比べるとかなり地味だ。選んだ際に卵を一つガチャで回し、それをプレイヤーが抱えた状態で暫くするとモンスターが生まれ、それを育てるところから始まるらしい。孵化するモンスターは完全ランダム。ただ、不思議と苦手とするモンスターは現れないらしい。契約したモンスターはなんらかの索敵能力を有しており、それを駆使して索敵やアイテム収集が基本となる職業だ。また、上記二つの職業と違い完全な補助系、もしくは妨害スキルしか覚えない。ただ、パートナーモンスターは例外なくチェイサー専用スキルを所有するので非常に強力な味方になってくれる。また、上記の職業と違い、モンスターがパーティ枠を埋めない仕様なので一応はパーティが組みやすい。ただ、経験値は割られるので若干断られやすい。ちなみに一般的な武器は全て装備可能だ、けれど魔法の適正は低いし、物理攻撃もそこまで得意ではない。どっちつかずの中途半端な印象だ。
どれにするか悩み、悩んで私が選んだのはチェイサーだった。
自分だけのパートナー、そんなフレーズに胸が躍った。沢山のモフモフに囲まれるのも確かにいいだろう。けれど一度くらいは兄弟の様な相棒を育ててみたいと思う。──何より、ガチャ、好きだし。
職業を決めた後は初期ステータスの分配だ。初期値1状態に手持ちの+値×50を好きなように分配する事で初期ステータスが決定する。このゲームは最初に分配した+値によってレベルアップ時にステータスにボーナスが発生するので、その初期ステータスが非常に重要になってくるらしい。
分かり易く言うならステータスは五項目と、それらに影響される二項目が存在する。
力の強さである<筋力>体の頑丈さを意味する<強靭>行動の巧さそのものの<技量>知識の理解度を示す<知性>信仰の深さを数値化した<信仰>が基本ステータス。
<筋力><強靭><技量>の合計数÷2で計算される<生命力>/<技量><知性><信仰>の数値の合計数÷2で計算される<精神力>が更に重要なステータスとなる。
一応、このゲームはレベルが1上がる毎にステータスポイントが1は手に入るようになっているので初期のステータスだけが全てではない。けれど、ポイントの割り振りを考えてやらないと中途半端なキャラクターが出来上がってしまう。
割り振りは1項目に+10した場合、レベルアップ時にその項目が+1される。20なら+2、30なら3、──そして50で+6される。これは極振りボーナスと呼ばれているらしい。
そして<生命力>と<精神力>の項目は+値が存在しない。正確に言うと、この二つの項目はHPとMPの上昇値に関係する。最大値である25以上にはならない。ちなみに<生命力><精神力>共々5で+1扱いだ。こっちは極振りボーナスがない。
そこまで考えれば何に極振りするのかなんて考えるまでもない。──<技量>一択である。
HPもMPも上がるし、相棒となる魔物の為に料理だって覚えなければならないのだから必須だ。何よりブラッシングとかやるのに技量がないと駄目じゃないか。力や耐久性なんて何の役に立つのやら。
最後は職業と関係なく、最初に一つだけ習得できるスキルの選択だ。
職業によっては魔法が使えなくても、最初のギフトスキルで習得しておくことでツリーが解放される。
なので最初のギフトスキルはプレイの幅を広げたり、もしくはより先鋭化させることに使うのが一般的だろう。
ただ、私は既に現状で満足しているので何を選ぶもあったものではない。
と言う訳で、可愛い弟に選んでもらったのがこちら。──<瞑想>。
ちなみに、選んだ弟はまったく何か理解していない。なんとなく漢字二文字でかっちょういいとか。知らないからだろうね。効果としては座って意識を集中する事で流れを理解出来る様になるスキルらしい。……意味が分からない。
「姉ちゃんかっちょういい」
「……そう、まあ、いいけど」
色々と弟の未来が不安になりながらも、まあ、一応、これでキャラメイクは終了した。
さて、それじゃあログインしますか。……どんな子が来てくれるのか楽しみだ。