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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
épilogue -エピローグ-
90/92

87 くるみの実を食べるには、殻を割らねばならぬ

「めでたし、めでたし。ですか」


「色々とヒヤヒヤとさせられる場面がありましたがね」


「? そうでしょうか。私は観てるだけでも面白かったですよ。ほんとに純愛はいつの時代にあっても輝きを失せませんね」


そうやって会話しているのはクズハ・ヒイラギとリジニス・イロンデルだ。彼らは色々と自分たちの用事を済ませてきてから、情報共有のためにここに集まった。特にリジニスは多忙だ。今までと変わらず二足わらじのまま、数少ない水属性の魔法マジーが使えるものとして各地を転々としていた。しかしそんな状況も、例の件が終わったことで変わりつつあることをリジニスは感じていた。


「それで、アンディゴ・ソヴァジヌ・ロワイヨム様のことは…」


「アンディゴ様は相変わらずあの島に戻されました。今回の件は色々と良い方向に向かったからかお咎めなしです。ただ…ヴィス・コルボーさんと友人になったことで、彼が度々様子を見にやって来るようで、前よりは快適に暮らせていると思いますよ」


“本人は魔法マジーの制御がまだなっていませんがね” と続く。まだ本格的に何か進むというには遠すぎて、時間が必要なようだった。彼が本格的に君主モナルクとして魚族を率いることになったらそれはそれで側近が大変なことになりそうだ、とクズハは思った。その側近であるリジニスのパートナーはダンマリだ。ここまでビジネスパートナーというか、適度な距離を置き続けてるパターンもそうそうない。こんな関係も一種の契約コントラ関係だと実感する。やはり世界は広い。




「レイアーナさん」


「ああ、クズハ! ちょっとごめんなさいね、立て込んでて…ちょっとそこらで勝手にコーヒーでも飲んでて頂戴! ピッと押せば出るの!」


そんな美女の返事がきた。

リジニスもだが、レイアーナ・ペルーシュはそもそも元々から忙しい。治療師(ソワンシエ)の長でありつつも導師族の一員だ。導師族はここ最近激動のように起きたことを全て記憶し管理しているから、彼のパートナーも忙しいことだろう。

というかそもそも忙しい者しかクズハの知り合いがいないというのもあるが、それだけ友は選べというパートナー達からのお達しなのだ。彼らを怒らせるのも、またややこしくなる。


「ごめんなさいね。で、アレのことかしら?」


「まあそうですね。友人としては鞆絵のことは気になりますが…」


クズハは友人の名前を出した。一番境遇の変わった者の1人である。現在は幻想世界イリュジオンとこちらの世界とを往復しながら忙しい毎日を過ごしているようである。すれ違いになることが多くて、文通や顔が出るめっせーじ? で互いの状況を報告することしかできないのが残念だが(こんな時はクズハの虫の幻妖フェージョンが役に立つ)、こうやって周りに様子を聞きに行くのは良いだろうとは思ったのだ。レイアーナのパートナーとトモエのパートナーは長い付き合いである。幼馴染のようにして過ごしてきたから、仲はいい方だ。あくまでクズハから見ればだったが。


「文通をやっているので、あまり心配していませんよ。ただ体調を気をつけてと。二つの世界の往復は身体に負担がかかるでしょうし」


実際のところ、クズハもそうであった。だが最近その負担が軽くなってきた。原因と言われていることが一つある。もう一人の神族との契約者コントラクターの存在、ヴィス・コルボー・ロワイヨムである。


「ああ、そういえばラバス様、だいぶ身体が治ったの。ずーっと私たちには見せなかったんだけど。急に見せ始めて…本人は “対処法なんてわかるはずもない” って若干怒り気味だったけど、テュー様の影響が強くてね」


ラバス様というのはヘルツバール・ラバス・ロワイヨムのことで、この組織、アルモニーの長であり、契約者コントラクターの中では最強と名高い男のことだ。彼はある理由により、体を魔法マジーで動かさないといけないくらいまで、石化ならぬ木化していたのだが、それがヴィスとギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイロムの再びの契約コントラで、身体が動く範囲にまで戻ったのだ。今はテューことソリテュード・パンの監視の元、元の状態に戻れるようにリハビリ中だという(しかし魔法マジーを使っていれば、いつものような感じで動けるというのだから、彼はある意味人間を超越している)。


「つまりね、契約者コントラクターの数が増えれば増えるほど、ラバス様の負担は軽くなるらしいの。そう本人が言ってたからそうなのだろうけど…まったくいくつ隠し事をしているのやら」


「まあ、このような世界ですもの。人や幻妖フェージョンに隠し事が何個もあっても私は驚きませんわ」


「やはり肝が据わっていらっしゃる。さすがは “蟲姫こき様” 」


「そうではなくて?」


確かにレイアーナにもいえないことがあった。が今のところ公表はするつもりはないが、このクズハなんかはわかっているような気がする。

レイアーナとその契約コントラしている幻妖フェージョン、導師族の次の君主モナルクであるクロード・グルーが恋人関係にあることくらいは。

でも残念ながらまだできないのだ。彼らたちが幸せにならない限り、自分たちはそのままでいようと二人で決めていたのだから。


「でもまだ時間がかかるでしょうね。結婚式の封書が手に届くまでは」


ギネフェルディーナと結婚するということはすべての神族の上に必然的に立つことになる。それを若輩者が簡単に務まるかと言ったら、NOである。


「私としては、本人の意志があればいいとは思うんだけどもね。あ、そんなこと言ったらダメだ。今のは立場的にまずいから、お心の中にとめておいてちょうだい」


「はい」


「ギネフェルディーナ様を今までよりも自由にさせる、それがコルボーの最終目標みたいね。壁は高いみたいだけど」


今まで折り重なってきた風習を変えるということは難しい。がそこに新しい風が入り込もうとしていた。ヴィスとトモエである。二人は神族の契約者コントラクターであることを公表した。これからは契約者も増えるだろうし、幻想世界イリュジオンとここの世界の関係性がさらに近くなる。契約者にとっては肌身が狭かったことが多かったが、これからはいいことづくし、である可能性が高まってきた。これからがどうなるかはその二人が鍵を握っている。






+++






「リョク、これ大変だよ。どうにかならないの!?」


「どうにかならん。諦めろ」


と少女が叫ぶ。目の前にあるのは勉強のための本、本、本。


「私、こんなに勉強していかないといけないなんて知らなかったよ。学生に戻った気分」


「向こうでは学生やってたんだろう、その延長線上だと思え。日々勉強だ」


学生とは違って期限が設けられていないところが利点なのか。鞆絵は頭をかきむしりそうになる。

ヴィスを助けたのはいいが、憧れの彼とは会えないまま、だった(メッセージは何かと返してくれる)。ただ一回だけ、彼らの主に面会をさせてもらったことはある。なんのかんの文句を言ってやるつもりだった。あなたのせいでヴィスは先を進めないなどうんぬん。しかし、話を聞いているうちにそのような苛立ちは消えていった。彼女のことーーギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムのことをただ護られるだけのお姫様的な存在だと鞆絵は誤解していたのだ。そうではなかった。彼女は、まだなんと鞆絵の中で言い表せばいいのかわからないが、純粋で、可憐でありながらも、気高かった。誇りを持っていたのだ。そのためならば、何でもやってしまうようなあやふやさも持ち得ていた。それでいて妙なカリスマもあるせいかみんながついてくる。不思議な魅力のある女性だった。透明だと思っていた彼女の横顔は、実はいろんな顔を持ち合わせていたのだ。彼女の兄だというテューと同じく、だ。


『あなたがアベルの契約者コントラクター? 始めまして。私はギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨム。よろしくね!』


そう言って、鞆絵に対しても頭を下げてくれた。それには鞆絵は唖然として、固まってしまった。リョクがいれば、必死になってこの行動を止めたと思うけれども。


結局のところ本心は言えずじまいで終わってしまった、けれども。また、会える機会はある。だって同じ場所に住んでるんだから、だから、きっと。


(いつか本音も…)


なぜヴィスが好きなのかを聞いていない。なりそめも知らない、知らないことばかりだ。だからこそ勉強しなければならない。知識は相手になめられないための武器だ。鞆絵はわかっていた。勉強しようとするにしろ、膨大な量に時折、気圧けおされそうになるけれども。


「ヴィスさん、どこにいるか知らない?」


「知るか、あんなやつ」


「でもさ、リョクって一応立場上はヴィスさんの直属の部下って立ち位置になるんだよね」


「ちっ、人がいちいち気にしているところをーー」


うだうだ、うだうだと話し続け、悪態をつきまくり(リョクは機嫌が悪くなると極端に口癖が悪くなる)、その一連の動作を終えた後、こういった。


「主君とお話し中だ。俺は追い出された」


「やっぱり、気を使ったの?」


「ふん。万が一のことがここにはありはしない。ここは精霊エスプリの力が最も強い場所だ、主君が一番強くあらせられる場所だから、本来ならば護る必要もない」


鞆絵は初期の初期である主君の才能のことについて、自分の説明を述べる。


「こちら側の世界の精霊エスプリがギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨム様と非常に仲が良いから、自動的に守ってくれるんだったよね? 精霊はそこらじゅうにいる隣人なのに正体は神様なんて、感覚が薄いけれど…」


「それも当然だ。精霊エスプリはこことロワンモンドではかなり異なる。これも主君とあの男とのの方針が違うせいだろうが」


「テューのことだよね? 実感が湧かない」


「俺だって疑問に残る。他のものは知らないものも多いしな。主君はあの男を兄だと認めているから本当だろうが…」


鞆絵は神族の仕事どころか、テューに強引に誘われて(もはや拉致みたいなものだ)、ヘルツバールの仕事を手伝わされることもあった。彼がいうに、自分が次代のアルモニーのトップだというが実感が湧かない。本当に実感が湧かないことばかりなのだ。頼れることといえば勉強することと、リョクのことと、ヴィスのことだけだった。そんなあやふやな状態で、本当はよくないとは思いながらも誰も答えは教えてくれない。こういうのは自分で答えを掴み取っていくものなのだろう。それだけはわかってしまった。






もう一話で完結の予定。どうしてもまた書きたくなったら短編集で戻ってきます。

ヘルツバール主役の外伝はやる予定。

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