第三話 塔の最上階
「開けるぞ!」
みんなに声かけて扉を開ける。
ギー!
なんか入り口の扉より重い。ドキドキするな、これ。すごいボスの魔物が出てきたらどうしようか?
ギーギギ!
扉はすごい音と共に開いた。
「へ?」
「あれ?」
「終わり?」
「緊張したー!」
「終わりだな」
みんなそれぞれの感想をいい終わったが、この塔の攻略も終わった。さっきの牛の群が最終だった。このフロアにはマントしかない。
俺はマントの方に近づき、手に取る。あれ? そういえば船長、お供も何とかって言ってたよな?俺は占い師の言葉の半分も聞いてなかった。お供にも何かあるんじゃないのか? 探すがマントをかけていたポールしか見当たらない。なんだよ船長、あの言葉は何だったんだ? 勘違いか?
「やあ! 良かった、来てくれて、もうダメかと思ったよ」
誰だ? まさかのここでボスか? ていうか魔物もボスだと話すのか? 声のした方を振り返る。
そこには魔術師が立っていた。どういうことなんだ?
「あなた誰?」
年はどう見ても30前ぐらいだし、一応年上なんで敬語使う。が、実際俺は10歳、この世界に来て年が戻ってやり直してるから、同い年ぐらいなんだけどな。
「私はルート。いや、アリストゼンで勇者の到着を待っていたのに、なかなか来ないから見逃したと思ってこの塔まで来たんですよ」
「なんで最上階にいるの?」
すっごく怪しい男なんだが。魔術師なのにあの魔物の群れをどうしたんだ?
「はじめは塔の外で待ってたんですがね。魔物が襲ってくるんで塔の中に入ったら……」
そこ大きく間違ってる! 魔物がいっぱいいる塔の中に入ってどうする?
「すぐに中にいた魔物に見つかって逃げに逃げてたら、気がつけばこの階にいたんです。ここは守られていて魔物は入ってこられないみたいで」
この狭い塔の中を攻撃せずに逃げ切りここまで来たのかよ。ある意味すごい男だけど。
「でも、塔から出れなくなってしまって、もう3日もこの塔にこもってて危ないところでした」
なぜ、3日もここにいて元気なんだ。つくづく不思議な男だよ。
「最初見た時はここにいなかったけど?」
どっから湧いてきたんだ?
「ああ、扉があいたんでついに魔物が来たのかと思って、あの隅の窪みにいました」
男の指差す方には影になって見えにくくなっているが確かに窪みがあった。
この話の途中から、リンもジュジュもツバキも俺の後ろに隠れてる。確かに怪しさ満点の男だ。
こういう時はスルッとかわそう。
「そうですか。じゃあ、下の魔物はもう倒していないから。マント、手に入ったんで俺たちはもう行くから」
男が不信過ぎたんでずっと剣を構えていたが、背中に戻し、振り返ってマントを拾う。危ないと思ってマントを落として剣を手にしてたからだ。
「ツバキ、頼む」
と、マントをツバキに差し出す。ツバキは異次元を作り出して、俺のマントをなおす。なにせこれも一度きりのマントだから魔王の城まではいらないからな。
「おお! 異次元魔法! さすが勇者だ!」
なんか急に褒めてるけど俺の魔法ではないし。ツバキのだし。
「じゃあ、気をつけて」
と男に言って最上階を後にする。この塔の魔物からも逃げれるんだこの男、街までも大丈夫だろう。塔までだって来てるしな。男の横を通り過ぎてさっさと階段を降りて行く。
お供には何もなしかよ今回は。
がっかりがにじみ出る。船長何と間違ったんだ? 腕輪の時か?
塔を出て街へ帰ろうとすると男が俺の腕をつかんでいる。
「何か?」
「勇者を待っていたんです!!」
うん。聞こえてたよ。でもそこはあえて、スルーしたんだけど。男は腕を離す気はなさそうだ。
「で?」
「私は子供の頃から勇者伝説を書くのが夢でして。是非、直接同行して書かせていただきたい!!」
だからこの男、ずっと腰が低いわけだな。こちらにはこの男の怪しさしか伝わってこないけど。
「嫌だ。魔術師だろ? もう治癒できるし」
本当はこの怪しい男と一緒が嫌なんだが。ジュジュは世界樹を目指してて魔王の城に一緒には行かないんだから。
「いえ! 私は勇者伝説を書くんです!!」
余計にタチが悪いだろ。ただの役立たずじゃないかよ。ついてくるだけって。
「嫌だ」
さすがにジュジもリンもツバキもニタでさえ、口を挟まない。
「いえいえ、勇者の腕輪をもらった時のお供の指輪の数を覚えてますか?」
そう一個多かった。だから、船長に期待したのに。あ!! あああ!!! お供の装備って船長は言わなかった。お供が何とかって。そういうこと?塔に行くとお供が増えるって事? 塔にお供がいるってことか。
……勇者伝説……毎回最後はこんな間抜けなお供が増えるのか?
嫌だ、入れて、を俺と魔術師は繰り返し街へと戻る。もちろん魔物に襲われたら戦闘だけど、ルートは魔術師らしくジュジュと一緒に後ろにいる。マジ役立たずだ。魔術師の回復魔法も船で見てきた。ジュジュとは比べられないくらいだ。足でまといにしかならない、ただの夢を忘れられない男の為に許可する気になれない。
でも、街にもうすぐ着く時にリンがそばにやって来た。
「ねえ、トオル。言ったらダメなんだけど。あの魔術師は仲間になるのよね…かなり怪しいんだけど」
リン、やっぱり読んで知ってたな。言ったらダメって、俺に塔のこと船長は言ってたけどな、バッチリ。船長、仲間の件も言って……欲しくはなかったか。やる気がそげるどころじゃなく、行きたくなくなるな。この新メンバー。
「ああ!もうわかった!! ただし! ルートは別の部屋だからな!」
まだ怪しい雰囲気満載の奴と同じ部屋は嫌だった。……が、俺が甘かった。
今日は塔に行っていたので旅は明日からとなるので、アリストゼンにもう一泊となる。
ニタに今後の予定を聞く。俺って無計画な勇者だな。ニタがいなかったらまだ村の周りを歩いてたよ。きっと。
「なあ、ニタこれからどうやって移動するんだ?」
俺の理想は飛行船!! 魔法の飛行船でささっと魔王の城の近くの街まで移動。ゲームにもあるじゃない? そういうの!
「ああ、荷馬車に乗せてもらって街から街へと移動になるね。多分今日みたいに魔物の群れに囲まれて、その度に戦闘になるから、戦えるって言って乗せてもらおう。みんな剣士や魔法使いに魔術師をのせて移動してるから」
俺の安易な発想は打ち破られた。また戦闘に次ぐ戦闘。しかも荷馬車に揺られて。打ち破られただけではすまなかった。
まあ、このまますんなりついても魔王の前になど立てないけど。さらさら勝てる気がしない。塔のボスキャラを想像して冷や汗かいてた勇者じゃ無理だ。
トントン!
ん? 誰かなんかあったのか?
「はい」
ガチャ
って、入ってきたのはルートだった。手には紙の束がある。嫌な予感しかしない。
時折メガネを押し上げ、いままでの俺たちの旅をニタに聞いてるルート。ニタお前の人の良さはわかった。そして、ポジティブなのも。この旅の出だしをそんないい風に取れるっていいよ、それ見習いたいよ。だけどさ、俺もう眠いんだ。疲れたし。一応、塔攻略って緊張するからさ。だから、頼む俺を寝かせてくれ!!