第四話 フェアリーの卵
何か道の向こうの方から声が聞こえる。上り坂を今登ってるとこなんだけど、何か嫌な予感がするな。
上り坂を登りきって向こうをみると、4人の男に取り囲まれた少女が見えた。ああ、見ちゃったよ。また俺がかかわるのかよ?
「トオル! フ、フェアリーが!」
ニタが服の袖を引っ張る。ああ、見えてるよ、バッチリ見えてる。やっぱり勇者って助けるものだよね。この展開。
って!? フェアリー? 妖精? 俺からは女の子にしか見えないし、だいたいここ妖精もいるのかよ!! 村にはいないし、そんな話も聞いてないし!!
「勇者様!」
リンももう片方の袖を引っ張る。いや、そうだけど。
ああ、もうしゃあない。クソっ! 勇者って魔物倒して最後に魔王を倒してってやつじゃないのかよ。これじゃあ、人助けして、あ、妖精まで助けて、旅してるいい人じゃないかあ! まあ、勇者になりたくてなったんじゃないんだけど。
と、心の葛藤していたらニタ飛び出してた。おい、お前の武器あの引っ込む小刀だろ?
「あつっう! なんだこのガキ!」
あっという間にニタは押されて地面に転がってる。しゃあない、俺が行くかと前に出ると横でリンが本広げて呪文を読んでた。
何か出る! と、大きなドラゴンが男たちの上空から降ってきた。男たち完全に驚いて逃げてるよ。最後のボヨーンの着地音聞くまでは。
ボヨーン聞いたらもういくら恐ろしそうなドラゴンでも、ただのオモチャだよな。が、この隙にって俺は男たちに走りよりドラゴンに驚いてるおっさんどもを蹴散らした。
そして、ドラゴンを見つめている呑気な女の子いや、フェアリーの手を掴む。
「おい、二人ともいくぞ! このおっさんどもヤバイ。逃げるぞ!」
と、ドラゴンを触ろうと近くに行こうとしているニケと、ドラゴンを出して得意げなリンに言いながらさっきの道を次の村目指して走る。
やってみればわかる。相手が素人かそうじゃないか。あいつら本物の悪者ってやつらだ。ニケに絡んでた奴らとは格が違った。あのくらいのダメージで引き下がるか、わからなかった。こんな足でまとい三人連れての戦闘は不利だ。逃げるが勝ちである。
そろそろ次の村も見えてきた。ここまでくればいいだろう。みんな息荒く肩で息してるし。
*
歩きながら目の前にある村を目指して歩き出す。みんなは息を整えてる。
「なあ。フェアリーって妖精だよな? 俺にはその子、妖精には見えないんだけど」
その子をもう一度見ながら言う。ファンタジーさ加減なら猫耳つけてるリンのが上だし。
年は15、6歳かな。普通の中学生ぐらいにしか見えないし。
「トオルってフェアリー知らないの!?」
勇者が魔王倒すこと知らなかったニタには言われたくない。
「フェアリーは世界樹に行ってはじめて本来の能力全てと、翼がもらえるんだよ。ほらここが世界樹」
リンが地図を見せて説明してくれた。これも相変わらず大雑把な地図。とにかく世界樹は…おいおい、魔王の城のさらに向こう側にあるじゃないかよ。さらに遠いし。この子、大丈夫かよ。
「なんで見ただけでフェアリーって……あ! ああ!!」
その子の顔をよくみると額のところに星のマークがはいっている。はっきり、くっきり。俺は思わずそれを指差してた。
「そう、これなんです。これでフェアリーの卵だって、生まれた時にわかるんです。さっきは助けてくれてありがとう。この私の力を狙ったやつらに襲われて、捕まりそうだったの。村を出てすぐに見つかっちゃって」
はじめて言葉を発したフェアリー。多分、このフェアリーこいつら大丈夫か?とか思ってたのかも。
「なんで狙われるんだよ」
「フェアリーはね。治癒力に優れてるの。傷も病気もあっという間に直しちゃう。フェアリーの卵だって大きくなればすごい治癒能力を持ってる。フェアリーは世界樹に行くと世界樹に住むから、みんなその恩恵に預かれないからフェアリーの卵が狙われちゃうんじゃない?」
なんでだ! 治癒力ある奴が一箇所に集まって何してんだよ。医者が山ほどそこに集まって誰の治癒もしないってことだろ!なんなんだこの世界は。魔術師やら藥師が怪我や病気を治しているからいいのか。ってかなんの為、誰のためのフェアリーなんだよ!とフェアリーの卵の前で毒ははけないし。
「村でも私の治癒力が大きくなってきて、みんなに頼られるようになったら、両親がみんなかたお金を……だからフェアリーは18歳に世界樹に行くことになってるけど、それよりも早くに家を出てきたんです」
ああ、なんか悲しい話だな。両親ってフェアリーじゃないんだよな。当然突然フェアリーが産まれてってことか。変な世界。
「私たち魔王の城まで行くから、一緒に行こうよ」
リンが勝手に勧誘してる。勇者一行に。
「そう、そうですよ。僕もここまで一緒に行きますし」
ニタも地図を広げて誘ってるんだけど。二人で俺を見る。ああ、もうわかった。フェアリーの卵は危ないんだよな。わかった。
「俺は勇者で魔王を倒しに行くけどそれでもいいならな」
俺はちゃんと全部言ったからな。
「うん!!」
少女らしい答えだ。
*
さあ、村に到着後一番に布地を買いに行った。フェアリー、あ、名前はジュジュだった。ジュジュの額の星を隠すため、応援団のようにハチマキをしてもらう為に。できるだけトラブルは避けたいからな。
ジュジュはリンと長々と相談した挙句に決まらず二枚の布をどうのこうのと揉めている。ああ、もううるさい!
「どっちも交代でつけたらいいだろ」
の一言でやっと買い物終了。女の子って面倒臭い。
三人目です。全くの戦闘能力なしなメンバーです。