第二十一話 勇者のイメージ
「よう! 坊主! お前のおかげで航海がずいぶん楽になったよ」
かなりな拾い物だな。船長。というか、これでよく出航したな。
「あ、いや」
「まあ、勇者だもんな。魔物と魔王じゃ比べられないもんな。魔王はこんなもんじゃないもんな」
そう言って船長は去って行く。勇者伝説には何が書いてるかは知らないが、俺はそれを想像できないぞ! こんなもんじゃないのか!?
やっぱり魔王倒すの無理だって。
やはり厳しい戦いになったが、地雷切り……まだ馴染めない、が役に立っている。何せ海中の魔物を一気にやっつける。俺のイメージしてた魔法使いと一緒だ!! ただ残念なのは……海だけってこと。つまりあと二日でこのワザも終了ってこと。地雷切りって言葉に馴染む前に船がつきそうだな。
朝だ! 平和な朝だ……といいいんだが。昨日のサメの襲来やエビの軍団には参ったからな。
何事もなく交代してご飯を食べる。交代の時、何か言いたそうなリン。なんだろう聞くの怖いのでこのままにしておこう、とそのまま触れずに気をつけてなどと言葉を交わして交代した。
ベットへ入る。明日はリンの買った服着ないとむくれるだろうな。あれをまだマシに着ないと。
*
夕方に目を覚ます。服のこと考えてたらすっかりそのまま寝ていた。起き上がり諦めてリンが買ってくれた服を出す。そして、思い出した。
リンは蘭に少し似ている。向こうで唯一俺と仲がいいと言えたのは速水蘭である。
家が隣同士で同い年だったために小さい頃から母親同士が仲が良くて、ずっと家族での付き合いだった。俺も小さい頃にはよく蘭と遊んだ。小学生になり学年が上がるにつれて俺は蘭を避けるようになった。中学生になると、話もしないしワザと避けた。高校も同じになったが相変わらず俺は蘭を避けた。理由はただ一つ。蘭が好きだったからだ。
蘭は華やかで人気もあった。性格も明るくて……つまり俺は蘭に嫌われてるか確認するのが怖かったんだ。だから、避けた。
高校二年になって同じクラスになった途端、蘭はやたらと俺に構い出した。
家が隣なのをいいことに母親に言って休みの度に買い物に連れ出されたり、あちこち連れまわされた。
なぜ、突然そんな事をはじめたのか全くわからないし、もう知りようがないが、蘭がついでだと言って俺に服を買ってくれた事を思い出した。あの服は着ないまま俺の部屋にある。いや、家で試着はした。でも、蘭に今度蘭と出かける時に着て来てと言われいていたんで、おいて置いたんだ。
結局その日が来る前に事故にあったんだけどな。
あー! 湿っぽい、湿っぽいぞ、俺。前の自分の事は今はもう関係ない! 今はこの服をどうするかだよ。
とりあえず袖はボタンを外して肘までまくる。ネクタイは外してとる。胸のボタンも外せるとこまで外そう。ズボンはどうしようも無いな。黒の長ズボン。動きにくい。戦闘してるって意識はあるのか、リンは? 何を勇者にイメージしたかはわからないが着崩し過ぎで怒られそうだ。が、これを着崩さないで甲板に行く勇気はない!
とりあえずこれで甲板に出て行こう。ダメだしされたらやり直し出来るように。が、やり直ししたくないなあ。
「あ! トオル。着てくれたの! あれ? ネクタイは?」
「戦ってる最中危険だから」
「ああ、そうだね。うん」
残念そうなリンだけど、納得してくれたみたいだ。でも、ここまで着崩しても戦いに向いてないんだけどな! って言いたいが堪えよう。すでに不服そうなリンには触れないでおこう。
「じゃあ、ご飯食べてくるから!」
とっとと、その場を去る。みんな服を見て安全確認したしな。まあ、ツバキのはわかりにくいが。
ご飯も無事に食べ終えた。あの辺りが魔物の巣ばっかりだったんだろうか、あれ以来魔物の大量襲撃はない。まあ、全体的に魔物の数は増えてきているが。