第十話 新技
「おう、坊主!」
船長、気に入ってるのか俺に声をかけてくる。ずっと坊主扱いは少し気になるが。
「昨日のヒカリイカには気をつけろよ。あいつら動きが素早いからな」
昨日俺が毒にやられた奴だろう。ヒカリイカ……そのままだ。
「昨日はすみませんでした」
「いいよ、いいよ。普通はやられたら動けなくなるのに、お前倒れるまでやるとはな! さすが勇者だよ」
え? 認めるの勇者って? 昨日はすごいふわっとした認め方だったけど。
「いえ、倒れて迷惑かけて。あの、どうしてジュジュが来たんですか?」
いくら昼間も治癒してたからって、女の子のジュジュを夜に呼ぶんだろうか?と不思議に思ったから聞いてみた。
「え!? 覚えてないのか! お前がジュジュを呼んでくれって言ったんじゃないか」
「全く覚えてないです」
俺は無意識にジュジュに助けを求めてたんだ。
「まあ、でも魔術師にはお前を助けられなかったかもな」
「ええ。はい。え!?」
ヤバイ、バレてる、ジュジュがフェアリーの卵だって。
「あんなに悪かったのに、戦闘に復活できるなんてそれしか考えられないからな。ハチマキもその為なんだろう」
「あの、そのことは……」
「大丈夫。みんな必死だったし。存在を知ってても見たことある奴は少ないからな。ただの、いやすごい魔術師に見えてるよ」
船長はフェアリーという言葉をあえて入れない。気をくばってくれているようだ。周りに聞かれないように。
「なあ。フェアリーは世界樹になぜこもるか知ってるか?」
わざと話を変えてるように船長は俺に話しだした。
「いいえ」
「フェアリーは慈悲深い生き物なんで、この世界にいたら自分の命をすべて使っても人を助けてしまう。だから世界樹にこもってるって話だ」
そうなんだ。フェアリーが世界樹に行きこもる意味があったんだな。ってなんでそんな話を?
「フェアリーにあんまり治癒させ過ぎはフェアリーには毒になるってことだよな?」
ああ、そういうことか。俺に、俺たちにジュジュに頼らず治癒をさせないようになれって。
「はい!」
「坊主! なかなかいい勇者になりそうだな! 伝説期待してるぞ!」
え? あの、勇者ってそんなにすぐに伝説になるの? ていうか俺魔王倒せる気全くしないし。魔王の城にたどり着くかも疑問なんだが。
*
さて、今晩はどんな奴が来ても油断しないぞ!
昼間寝ていたからか、それともこの休憩後にまた戦闘という状況に慣れてきたからなのか、その両方なのかはわからないが昨日よりも体力的にもかなり楽な戦闘が続いた。もう魔物のレパートリーがなくなったから魔物に慣れたのもあるのかも。
勇者の剣でガンガンと魔物を切り倒していくのは爽快にさえなってきた。まあ、紫色の液体が船に着かなかったら、だが。
そろそろ朝方、巻いてない方の貝の群が襲ってきた時。なんか、いけそうな気がしてきた。ちょっとやってみよう。いい感じに4匹同時に登ってくる。俺は真横にさっきまではコンパクトに振っていた剣を大きく一を書く感じで振ってみた。
ブシュ
ブシュ
ブシュ
ブシュ
貝は四匹とも真横に切れて海に沈んでいった。
やれた! 剣は直接は当たっていない。俺は空を切っただけだ。
よし! 次! と船の下を見ると貝は全滅してしまっていた。
ああ、もう一度試したかったのに。あんまり余裕のないところで実験したら悪いので今のがちょうど良かったのに。
「坊主! 今のすごいじゃないか!」
もう俺、船長のお気に入りだな。見てたのかよ。この人余裕あるよな。船長って何者感全開のオーラを発しているよな。
「いや、ちょっとやってみただけで」
「浮かんだんだろ?」
「はい」
そう、浮かんだんだ。頭にさっきの攻撃が。
「それは魔法と同じで剣士も修行を積むといろんな技が使えるんだ。お前のは剣が違うからやっぱり技も違うなあ!」
また、修行って、俺修行してるの今? かなり実戦してる気がするんだけど。