第六話 船長は冒険者
「魔物だー! 右側!」
おし! やってやる。剣を持って右側へと向う。
*
さっきジュジュの治癒が終わった。
「はい。これで終わりだよ。トオル」
「ありがとう。ジュジュ」
俺は心からそう思ってるよ。ジュジュじゃなきゃ死んでただろうし、さらにはもう復活できるんだから。
ジュジュ疲れてるみたいだな。ちょっと疲れが顔に出てる。ツバキも治してずっと治癒しっぱなしだったし、寝てないしな。
「ありがとう。リンもツバキも。三人とももう寝てくれよな。そんなに寝れないかもしれないけど」
これでやっと戦える。魔物から逃げていたけど、目の前で戦ってるのに手を出せないのは嫌だ。サメだろうがイカだろうが貝だろうが来い! いや、来ないなら来ないでいいんだけど。
って、なんでまだいるんだよ。ジュジュもリンもツバキも!
「おい。部屋に行けって。明日もあるんだぞ。早く寝ろって」
「うん。わかった」
渋々言うリン。
「また、何かあったら呼んでよ」
「ああ」
ジュジュ何かあったらって嫌な話なんだけど。しかも呼ぶの船乗りが行くんだけど。
「じゃあ、お休み」
と、ツバキも動いてくれた。はあ、これで安全だ。さっきはハラハラ、ドキドキで、さらにはツバキがやられて焦ったけど。エビって下からも攻撃くるんだな。俺も気をつけよう。
*
って、事で俺復活!!
今度は最初のサメだな。登ってくる手ごと切りつけたいが船を傷つけたら船長に怒られそうだ。魔物の体が船より上に出てきたら即斬りつける。あの魔物の牙は最悪な結果を生むこと間違いなしだろう。ああ、勇者の剣ってなんでこんなに重くて大きいんだよ。剣を振り回す度に体が痛い。さっきまで休んでいたけど、昼間の疲労は溜まってる。が、弱音吐いてる場合じゃない。魔物をザックザクと切り裂いて海へと落として行く。
なんとか魔物の群れの襲撃が終わった。
*
息をつき、その場に座る。疲労は並じゃない。あの休憩じゃない、治癒の時間がなかったらどうなってたんだ俺。
と俺の横に船長が座る。今回は乗り込んできた魔物はいなかったので掃除はない。
「お前勇者だったのか」
俺らを誰だか本当に知らずに乗せたのか。冒険者だなこの船長。
「あ、はい」
「その剣、勇者の剣だろ?」
これでわかるんだよな。勇者って。って、伝わり過ぎだろ勇者伝説。なんで俺だけ知らないんだ。
「はい。村を出る時にもらって」
「凄いな。勇者の剣ってのは魔物を真っ二つって。だけど剣が大きいから大振りになるな」
「そうなんです。だから、疲労も凄くて」
言い訳じゃない。本当のことだ。弱音じゃない!
「それって切れ味いいんだろ? そんなに振りかざさなくても十分に切れるんじゃないのか?」
「あ」
確かに。手応えもほとんどなく魔物を切れる。気合入れて振り回してたけど確かにそんなに力いらないかも。もちろんこの重さを振り回すだけでも体力使うけど。
「もう少し小振りに振ってみたらどうだ?」
「はい。やってみます!」
おお! この剣を小振りに振るのは難しそうだが、できるだけ体力を使わずにやってみよう。いいこと聞いた。さすが船長だ。
「しかし、お前、勇者の割に謙虚だな」
「え!?」
「勇者ってかなり乱暴者で書かれてるから、歴代の勇者とお前は違ってるんだな」
歴代の勇者? 俺だけじゃないの? 勇者って今までにもいたのか?
「あの、勇者って今までにもいたんですか?」
「なんだ。知らないのか」
「はい。是非教えてください」
もうめちゃくちゃ無知な俺は下から聞くよ。
「どっちが先かはわからないが、何百年に一度魔王が現れると勇者も現れる。勇者は少年なんで鍛えて10年後に魔王を倒す為に旅立つんだ。魔王も最初は小さな影響しか与えないが、勇者が旅立つ頃には、まあ、今みたいになってるんだ」
なぜだ。もっと早く行けば道のりもいいのに。魔物ももっと少ないはずだ。試練なのか? 修行なのか?
「それがずっと続いてると」
「ああ、歴代の勇者伝説が残っているが、お前の前の勇者は凄いぞ。もう魔王かってぐらいに」
わからない。なぜ勇者が魔王に見えるんだ。それ程の乱暴者、いやそれでは片付けられないんだが。
「凄いですね」
もう言葉が出ないよ。今回は完全な人選ミスだろ! 転生させた奴、間違ってるって。俺の要素に乱暴者は含まれない。
「ああ、だがお前かあ」
ああ、船長も不安に思ってるよ。だろうね。俺でも思うよ。この世界の平和がかかってるんだよな。
「すみません」
勝手に転生されて任命されてるだけだけど、なぜか謝ってしまう俺。
「いや、そういう勇者もいいんじゃないか」
やっぱり、この人冒険者だね。ポジティブだよ。恐れてないね魔王倒すの失敗する俺、勇者を。