第三話 勇者は膝枕に納得できない
水の音も魔物の悲鳴もなくなった。終わったのか? リンもツバキも大丈夫かな?
続々と剣士と魔法使いがこちらに戻ってくる。もどかしい、頭をあげるのも出来ないなんて。
って、あれ? おい、俺の頭……ジュジュの膝にある! 膝に俺の頭を乗せて左腕をジュジュの両手で治癒してくれている。膝枕なんてしなくていいのに。俺は動きたくても動けないし。なぜ乗せた。膝に俺の頭をなぜ乗せたんだ! 時間かかるからしびれるよ。いいのか? 何を言っても無力な俺にはどうしょうもないから聞いてはくれないんだろうけどな。
そこにリンとツバキが戻って来た。疲れてるはずなのにツバキが嬉しそうだ。なんならスキップしかねない。
「お疲れ! 大丈夫だったか?」
見たところ二人は大丈夫そうだが、心配なので聞いてみる。
「うん。大丈夫。岩だったよ」
また岩かよ。
「ねえ! 聞いて!」
またツバキにスイッチが入ったらしい。俺に飛びついてきた。
「どうした?」
嬉しそうにしてるし、いい報告なんだろう。ああ、ツバキでも俺を揺さぶらないでよ。俺、結構ヘビーな状態なんだけど。
「魔物をね。かなーり切れるようになったの!!」
かなりをかなり強調してるな。まあ、あれだけ昨日というか昼間に切ったから修行の成果だな。
「よかったな。スッパリ切れるようになりそうだな」
「うん」
嬉しいのはわかる。俺も嬉しい。が、ツバキ! 俺を揺さぶらないでくれ! だいぶ気分は良くなったが体に力が入らない。イカの毒恐るべし。って、ジュジュいなかったら死んでたな、俺。
*
あー。膝枕はやっぱり、しんどいんだろうね。だからって、三人で交代してまで膝枕しなくても。だんだん感覚戻ってきて感触がわかってくると恥ずかしい。柔らかい感じがそれぞれに違ってる。ツバキはやはり鍛えているのか弾力のある感じだし、ジュジュは肉が少ない感じ、リンの膝が一番柔らかくて気持ちいい。って! 俺楽しんでるしこの状況。
四人で会話してるけど、主に女子三人で話してる。なんかこの状況を楽しんでるのか三人とも。すごく楽しそうだけど。
会話の中身は海の魔物について。あー、こっちでもやっぱりあれはツッコミたくなるんだね。異世界からきた俺だけかと思ってたけど。
特に岩はないよね、水陸なんてねー、などと言ってるけど、イカもサメもエビも船の上に登ろうとしてるし。陸でも平気で襲ってくるし。むしろ魔物は何呼吸か知りたい俺。
「魔物だー! 右側から登って来るぞー!」
俺たちのこの場に合わない、ひどくのんびりした会話は夜警の声で遮られた。
ああ、間に合わなかった。俺の体は感覚が戻ってきたものの痺れている。とても、戦えない。
「トオル、じゃあ。見ててね! かなーり切るとこ!」
「行ってくるね」
俺の頭をジュジュの膝に置いてツバキは嬉しげに右側へと向かう。リンも後に続く。
また頭をジュジュの膝に置かれたし。でも、頭をジュジュの膝からどかせば考えたら板の上だ。それはちょっと今は辛いな。
なんて思ってたら戦闘開始だ。次々に切ったり魔法をかけたり。またもや魔物の悲鳴と水の音が聞こえてくる。ツバキはと見ると。おお、本当にかなーりだな。魔物の傷が深くなってる。妖刀、如月が異様な迫力だ。ん?なんか迫力増してないか? ツバキの力で妖刀も力が強くなるのかな? ……妖力……魔力……どう違うんだろう?
そんな本当にどうでもいい俺の疑問をよそに、どんどん魔物を倒している人達。ああ、寝てるのが申し訳ない。ジュジュっていつもこんな気持ちで待っているんだろうな。ジュジュはいつも俺たちの戦闘後には申し訳なさそうにしてるから。
バシャーン
どうやら今のが最後の一匹だったらしいみんな疲れた様子で戻ってくる。
そこに一人浮かれているツバキは俺へと一直線だ。さっきの順番だったからか、ツバキは俺の頭を自分の膝に戻して話をはじめる。
「ね、ね! 見た? 見た?」
ああ、顔が近いよ、必死過ぎるよツバキ。
「見たよ。すごい切れてたな。本当にもうすぐスッパリいきそうだよ。それに如月の覇気もすごい迫力だったぞ。お前の力に反応してるんだろうな」
言い切ったよ俺の感想。ツバキまだ近いよ顔。
「ね、ね! そうでしょ!! 如月も!」
ああ、如月の話になるとうっとりするツバキ。猫耳にうっとりするリンとかぶって見えてきた。
「順番だよ」
なんだか機嫌の悪いリン。今は勘弁してくれ。今の勇者にはご機嫌とりはできない。
そして俺の頭はリンの膝へ。
なんだかリンの機嫌がなおったようだ。よかった。機嫌よく話がはじまった。それにしてもまだ治らないのか!
次の戦闘には参加しないと。このまま三人に徹夜させるわけにいかない。