第二話 フェアリーの治癒
それからも休憩出来たと思えば魔物の群れに襲われる。いったい海の中どうなってるんだよ、って思いたくなる。昆布なのかワカメなのかって魔物や、また貝だけど巻いてる奴、貝の頭の下から何かウニャウニャ出てて気持ち悪って思ったらそれが毒を差し込んでくる。俺は毒にやられて、涙目のジュジュに浄化してもらった。見た目で侮ったら怖いぞ、魔物。全身で海老を表現してる魔物から、何でいるんだ一つ目岩! と、海からなぜ出てくるんだと心の中で突っ込みながら叩き切る。
疲れた。予想以上の魔物の襲撃。こんなの毎日続くのか。道理で乗せてくれないよな、他の船。戦力にならないと話にならない。それにしてもここの船長一緒に戦ってるが、よく乗せたな俺たちを。どう見ても貧弱な一団なのに。まあ、おかげで助かったけど。
*
夜ももちろん魔物の襲撃はある。夜警で見張り台には時々交代が入るが、剣士も魔法使いも少ないので半分で一晩中勤務となる。もう勤務だよ、これ。
そして、昼番にはリンとツバキそして、ニタ。
俺は夜番なのでそのまま甲板での待機。ニタとリンとツバキとジュジュは眠りについただろう。
魔法でつけた明かりを灯して周囲を明るくする。どっから魔物が登ってくるかわからないからだけど、これって魔物呼び寄せてない?
「魔物だー! 右側から登ってくる!」
夜警の声が響く。
夜の当番の者が右側に駆け寄る。
おいおい。まじか? これって何かの冗談ですか? 光ってるよイカ。あー向こうの世界のテレビで見たよ、ホタルイカ漁。光に寄ってくるって。
ホタルイカかどうかはわからないが、イカの魔物は光ってる。ただし紫色に。どこまでも紫色だね魔物。イカって怖いなデカイと。
あー。もう足なのか手なのか生えてるウニョウニョで攻撃してくる。危ないよ。昼間の貝を思い出す。ウニョウニョ嫌だ。人数が減ってるから厳しい戦いだ。よくこれで出港したよ船長。その船長も隣で一緒に戦ってるがタフだな、見た目通りに。
うわ! ちょっとした油断で、またウニョウニョに腕をやられた。が、まだイカ、いや魔物はいる。腕は痛いが俺は切り続ける。ああ、だんだんと感覚なくなってきたよ。やられたのは左腕。この剣はデカイから片方の腕じゃ剣を振り回せない。うりゃー! 根性だ! イカに船を乗っ取られてたまるか!
*
気がつくとジュジュもリンもツバキも涙目で俺の周りにいる。どうやら戦闘中に気絶したようだ。最後に目の前にいたイカを切った記憶があるだけだ。
「大丈夫? トオル」
リンが聞いてくる。
「ああ、うん。大丈夫」
ここは甲板だ。まだ真っ暗で灯りを灯している。三人とも起きて来てくれたのか。
「ジュジュが呼ばれたんで、一緒に起きたから来たんだ」
「トオル毒にやられてるのに動き回るから、身体中に回ってたんだよ。毒が」
ジュジュはまだ手当てしてくれている。魔物にやられたのが左腕だったからかジュジュは俺の左腕に手を当てている。フェアリーの治癒は手当ての言葉通り手を当てる。うっすらとピンク色の光がジュジュの手のひらから出てる。昼間には見えなかったけどピンク色の光を放ってたんだ。なんてどうでもいい発見をしてる場合じゃない。
「魔物だー! 後ろから登ってくる!」
「行かなきゃ!」
立ち上がろうとすると三人の腕で押さえられた。
「まだ終わってないからダメ!」
「でも」
さっきも戦闘員の数がギリギリだった。人数が足りない。
「私たちが行くから大丈夫。トオルはしっかりジュジュに治してもらいなさい!」
リンにバシッと言われる。いや、リンとツバキが参加するのも心配なんだけど。でも、ここは甘えるしかない。さっきみんなに抑えられる前に自分が立てないことがわかった。諦めるしかない。
「じゃあ。頼んだ」
「うん」
「行ってくるね」
ツバキとリンは船の後ろへ消えた。
「ジュジュどれくらいかかる? ってか俺どれくらい寝てたの?」
「私が治癒をはじめてから少しだけだよ。すぐに目を開けたからホッとした。トオル、動き回るから時間かかるよ」
「ああ、ごめん」
って事は、この魔物の襲撃はさっきの次だな。良かった。
次の魔物の襲撃までには治癒が終わってくれ。そうじゃないとジュジュもリンもツバキも眠れない。昼間もあれだ。しっかり寝ないと明日戦えない。
船長が夜の当番にリンとツバキを外した意味がよくわかる。夜は過酷だ。
後ろの方では魔物の悲鳴があがってる。海に落ちているんだろう、水の音が続けざまに続いている。頼むもってくれよ。俺には耳を澄ます事しかできない。