第十話 占い師
街は賑やかだ。やっぱり村とは大違いだ。なんか見たことない果物や野菜、魚も知らないのがいるし、服も靴もなんか垢抜けてるよな。チラリと一同を見てみる。やっぱり田舎者だな。俺含め。まあ、魔王を倒すのに服はいらないよな……ん? ああ!! こういうのって装備とかで強くなるって……ゲームだよな所詮。鎧着て魔王倒すのに役に立つとは思えないし。
華やぐ街にジュジュもリンも浮かれている。特に服屋はやはり気になるみたいだ。
「ツバキは見なくていいのか?」
二人から少し距離を置いてるが明らかに見たそうにしてるツバキに声をかける。
「いや、私は別に」
「でも、なんか動きやすい服とかあるか見たら?」
「うん。そうだな。それは言えてる。うん。じゃあ」
と嬉しそうに二人の元へ。動きやすい服って、もう持ってるだろ?忍者の服。ツバキもわかりやすい。
ああ、またそんな目で見て。もう一人のわかりやすい奴、ニタ。さっきもツバキに言葉流されてたのに平気みたいだな。ニタは見た目よりずっとタフだな。そう、戦闘も全てニタは参加してる。あっちの俺と同じだと思って申し訳なく思う。俺なんかよりずっとニタは強い。
*
「お前さん達、少しお待ちを、勇者様じゃの?」
街を楽しんでいる時に声をかけられた。チッ! 占い師だ。嫌な記憶が蘇る。偉そうな態度、ああムカつく。俺の村の占い師!
「なんだよ!」
つい、いろいろ思い出し喧嘩口調になる。
「あ、ああ。勇者様この街に伝わる秘宝です。是非魔王を倒すのにお使いください。少々お待ちを」
と言うだけいって、何やら奥に走っていく。勇者ってわかったのはこの剣を見たからだろう。リンも見抜いたんだ、占い師じゃなくてもわかる。イマイチ、いや、全く占い師を信じられない俺。
と占い師が走って戻って来る。魔法とかで取り出すとかはないの? 魔法の世界に矛盾を感じまくるのは俺だけか。
「ハアハア。あ、これ。これをどうぞ。ハアハア」
どうやら全速力だったみたいだ。息、切れ過ぎだ占い師。
「それ何?」
いきなり渡されてもねえ。なんでも受け取れないよ。どうやら腕輪っぽいが。
「体力が、ハアハア体力が大幅に上がると言われている、ハアハア、腕輪です」
体力ねえ。腕輪で? っていうか、占い師、体力なさすぎ。
「勇者様以外が身につけても何の効果もありません。ハアハア、是非お受け取りを」
まあ、いいか。ただの腕輪なら捨てれば。秘宝って言った割にあっさりくれるあたり胡散臭いが。
「ああ、それからこれは勇者様のお供の為のものです」
今度は指輪だ。なんか詐欺師に偽ものをつかまされてる気分になってるのは俺だけだろうか。
って! 指輪5個だよ。俺合わせてここにいるのが5人だよ。
リンに確認する。リンは勇者伝説を読んでる。
「なあ、これ受け取っていいんだよな。お供にって指輪5個だけどいいんだよな?」
「えー? うーん。いいんじゃない」
おいおい、なんだその返事。勇者伝説を勇者が読んだらダメだから? でも、軽い、軽いよ、リン。
「勇者様是非!!」
占い師なんか必死だし。いいか。リンも微妙な返事だけど、うんと言ってるし。
「じゃあ」
みんなもそれぞれの指輪を取る。残り一個。
「あのこれは」
「是非お持ちください」
ああ、はいはい。全部持っていけと。あ! この指輪の性能じゃない効果は?
「この指輪着けるとどうなるんだ?」
「魔力や力が大幅に上がります」
え!? 俺もそっちがよかった。
「ああ、そうそう。これらは一回きりですので。是非とも魔王を倒す時にお使いください」
なんだとお!!
「腕輪も?」
「はい」
そんな笑顔で言われてもこっちは引きつるよ、顔。
一回って! 何だよ。みんな着けた指輪を静かに外してるよ。
「では、勇者様ご健闘をお祈りしております」
なんか占い師せいせいしたって顔してるよ。これらを持て余してたのか!
もう行けってことだよな。渋々その場を去る俺たち勇者一行。
「人生は甘くないってことですね」
ニタ、前向きな奴だよお前は。
これどうしよう。皆それぞれの指輪を見つめている。今度は俺たちが持て余してるよ。
「私が預かっておこうか?」
ツバキの発案にみんな顔をあげる。あれなら安心だしな。
皆の指輪と腕輪をツバキが魔法で異次元へと入れる。
*
さあて、なんだかんだと時間をくった。そろそろ宿屋へ行こう。
やっぱりな。何だよ街め! 物価上がりすぎだ。この分だと有り金で旅が続けられるんだろうか。アルバイトか? 勇者アルバイトする? 世界は甘くなさすぎだろ!