表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

第7話 そして、アイラの過去2

 テインに会った時、私は天使さまだと思った。


 キラキラ光るうすい金髪は肩で切り揃えられ、さらさらしている。緑の宝石のような瞳はとても大きい。真っ白で、シミのないキレイな肌。まるで、教会にあった天使さまの絵のようだ。

 何も考えたくないと思ったのに、あまりにキレイな天使に思わず見とれた。


「この子はテイン、3歳よ」

 

 隣に立つシスターが教えてくれる。


 

 3歳!?



 歳を聞いた瞬間、思わず、テインに抱きつく。

 急に抱きつかれて、テインは少しふらつく。


 私の手から抜け出そうともがくが、私はぐっと手に力をいれる。


 しばらくすると諦めたのか、動きがなくなる。


 テインの肩に顔をうずめていたが、だんだんテインのシャツが冷たくなる。



 ああ、私、泣いてるんだ。

 まだ私、泣けるんだ。



 会って、まだ話もしていない私が自分の肩で泣いているのに、テインは文句も何も言わなかった。

私は、そんなテインに救われた気がした。





 それから私は孤児院に入り、テインの後をついて歩くようになった。

  

 と、言っても、テインはあまり私を相手にはしない。ううん、誰も相手にしていないように見える。私がついて歩いても全く気にすることはないし、話しかけなければ、誰とも話をしない。

 気がついたら、1人でぼんやりしている。


 いつもいつも1人でいる。

 1人でいても、なにも感じていないようで…

 テインが何を考えているのか、分からなかった。

 

 それでも、私はテインに話し掛け続けた。

 話して、何でもいいから、何かを話してほしかった。


 半年…

 

 テインについて歩くようになって、気付いたことがあった。


 テインは、私の名前を呼んだことがない。


「テインは私の名前を知ってる?」


「…」


 びっくりした。

 半年もいっしょにいるのに、名前を知ってもらってなかったなんて…


 それからは、アイラって呼んで、とよく言っていたが、それから何ヶ月しても、名前で呼ばれることはなかった。


 

 10ヶ月が経つ頃


 テインに名前を呼んでもらえるようになった。


 いや、名前を呼んでくれているのに気付いた。


 そこで、ふと別のことに気づいてしまった。


 テインは…


 誰の名前も呼ばない。


 私だけじゃなかった。


 他の付き合いの長い子どもたちもシスターのこともだ。


 こうなると、名前を覚えているのか知っているのか、どうかも怪しい。


 あまりにも悲しいと思った。


 本当になんにも興味がないし、気にもならない。


 かなしい。


 なにがかなしいのかも分からないけど、とにかくかなしかった。


 

 

 それが変わったのは、あの「『勇者』のものがたり」だった。


 服や食べ物をよく持ってきてくれる、貴族のおじさんは「『勇者』のものがたり」が大好きのようで、よく話をしていた。というか、その話しかしない。


 テインは、そのおじさんの話を聞くことはいままで一度もなかったらしく、いつも来た時はどこかへ行ってしまっていた。


 でも、なんの気まぐれだったんだろう。


 その日、テインは他の子と同じように、おじさんの前に座って、話を聞いていた。


 おじさんの話は、この二年ちょっとで何回も聞いた「ものがたり」だったので、みんなはちょっと飽き気味だ。だけど、『勇者』の話はみんな好きなので、夢中で聞いていた。


気になって、テインを見てみると、テインも他の子と同じように目をキラキラさせていた。

あんな顔、初めてだ。


テインもみんなと同じように『勇者』さまに憧れたんだ。

テインが初めて、強い興味を持ったのが、顔もしらない、大昔の人なんて…

私は少し複雑だった。 




それから、テインは朝、修行みたいなことをするようになった。

まさか、そんなに強い気持ちだと思わなかった。


「アイラ、僕は強くなりたいんだ」


テインの初めての願い。

私は、動かせなかったテインの心。


『勇者』さまは、本当にすごい人だ。

昔の「ものがたり」だけで、人の心を動かすなんて…!


テインが目標を持ったことはうれしいけれど、私は悔しかった。


だから、あんなことを言ってしまった。


「テインは強くなんてならなくていい」


テインを弟の代わりに見ていると言われたら、きっとそうだって思う。


テインに危ないことはしてほしくないし、私が守りたい。


でも、テインは前に進みだしてしまった。


きっと私は置いていかれる。

しかたないと思っても…私はわかりたくないんだ。




「ばか」と怒鳴ったあの日から、私はテインと話をしていない。


やっぱり…と思ってしまう。


やっぱり、テインは私が話しかけないと、自分からは話をしてはくれない。


私はテインにとっては、名前を知っているが、他の子と変わらない人なんだと思う。


それが、どうしようもなく、悲しい…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ