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第3話 そして、ある朝と謎の男

 ふと目が覚めた。かなり、はっきりと意識がある。

 首だけ動かして、小さな窓の外を見ると、まだ暗い。太陽が昇るまでには、しばらく時間があるだろう。

 隣では、同い年5歳の男の子が寝息を立てている。


―――この子の名前はなんだったかな?


 しばらく顔を見ながら考えてみたが、全く出てこない。


―――まあ、いいか。


 大きな部屋に20人くらいの子どもが、5人は寝れる大きなベットを6つおいて、寝ている。もちろん、女の子は別の部屋だ。

 

 そっと誰も起こさないように、身体を起こして、静かにベットから抜け出ようとする。が、古いベットは、少し動いただけでぎしぎしと音が鳴る。だが、ぐっすり夢の中にいるためか、誰も起きてはこない。


 ほっとして、そのまま抜き足差し足でそっと部屋を出る。




 

 外に出ると、ひんやりとした空気がする。冬が近いせいか、朝はすでに寒いくらいだ。

 はーっと息を吐くと少し白くなる。


 早く身体を動かそう。そう思って、裏庭に急いだ。




「あれ?」


 裏庭について、僕は思わず首を傾げる。


―――なんだろう?


 裏庭の端にある鶏小屋の近くで小さな白い光が見えた気がして、駆け寄ってみる。


 だけど、何も変わらない、いつもと同じように三羽の鶏がいるだけだ。


「気のせいかな?」


 裏庭を見渡す。教会の小さな裏庭には、端に鶏小屋と、その隣にイモや野菜を植える畑。暗いので、はっきりとは見えない。


―――光るものなんてないのに…


「まぁ、いいか」


 明るくなると、みんなが起きてくる。そう思って、鶏小屋の裏手に隠してあった、木の棒を手にする。ぎゅっと握って、前に構えて、いつものように振り始める。


 最初はゆっくり、段々と速く、上にあげて、下におろす。何度も同じ動きを繰り返す。

 しばらくすると、じわりと汗をかいてきて、息も切れてくる。それでも、止めずに、木の棒を振り続けた。


 どれくらい時間が経ったのだろうか。空が明るくなってきたことに気付いて、振っていた木の棒を降ろす。


 ふうと息をついて、服の袖で汗を拭う。風が吹くと、汗が冷えて気持ちいい。が、あんまりこのままでいると、風邪をひきそうだ。着替えて、もう起きているだろうシスターたちを手伝おうかと、裏庭の入口に目を向ける。



 と、急に、パンパンと手を叩く音がして、驚いて振り返る。


 そこに男がいた。


 一言で言えば、黒。

 真っ黒な燕尾服に真っ黒な靴、真っ黒な帽子、シャツさえも黒い。そして、腰まである黒く長い髪を顔の横で黒いリボンでまとめている。

 どこから持ってきたのか、黒い高そうな椅子に足を組んで座っていた。こんな椅子は孤児院にはなかった。


「いや、いや。素晴らしい。とてもいいね。少年」


 黒い男は、愉快そうに笑う。


「剣技とも言えない、ただの素振り。だが、その集中力は素晴らしいね」


  男は、更に笑う。僕はその笑顔に、鳥肌が立つ。


―――なんだろう、この人。怖い!!


「おっと、失礼!私としたことが、挨拶もまだだったよ」


 一歩下がった僕に気付いたのか、男は音もなく立ち上がる。

 僕は下がろうとした足を止める。後ろに下がったら、きっと駄目だ。怖い気持ちを押して、ぐっと足に力をいれる。


「こんにちは、少年。いいお天気だね」


  男は、右手を胸に当て、静かに礼をする。さらりと、長い髪が落ちてくる。


「…おはよう、じゃないの?」


 明らかに、こんにちはの時間ではない。少し声が震えてしまう。

 すると、男は顔を上げて、また愉快そうに笑う。


「確かに、その通りだね。朝だと言うことを忘れていたよ!」


「…おじさんは…誰?」

 

 男が「おじさん」という歳ではないことはわかっていた。見た目は二十代前半くらい。にこにこ笑うと、目が糸みたいに細くなる。だけど、この人は見た目通りの歳ではないと感じた。

 「おじさん」と呼ばれたことに、男は気にする風でもなく笑いをこぼす。


「…私は【さがす者】だよ」


 意味が分からず、首を傾げる。


「さがす?なにを?」


「…少年。このあたりで、丸く光るものを見なかったかね?」


 ふと、裏庭に来た時に見た白い光を思いだすが、あれは気のせいだったはず…

 頭を振ると、男は急に真顔になる。


「そうか…やはりそんなに簡単には見つけられないか…」


 ため息交じりに、被っていた帽子を脱ぐ。


「大切なものなの?」


「う~ん、まあ。大切と言えば大切かねぇ」


 苦笑しながら、男は帽子を被りなおした。


「長い人生の中で、ちょっとでも暇を潰せたらと思ってね。それをさがすことに意味なんてないんだよ」


「?ふ~ん」


「ねえ、少年。君はどうして、その棒きれをふるうの?」


 言われて、手の中に持っていた棒に目をやったまま答える。


「…僕は…」


「あら?そこにいたの?テイン」


 ばっと振り返る。シスターが裏庭の入り口から顔を出していた。


「最近、早いわねぇ」


 シスターは鶏小屋に小さなかごを持って、近付いていく。


「あれ?」


 男は、どこにもいなくなっていた。

 

「…なんだったんだろう…。…ゆめ?」


 あんなに重そうな椅子も消えている。


「…だから、あの椅子はどこから持ってきたの?」


 僕は、男を探すことを諦めて、卵をいくつか持って鶏小屋を出てきたシスターといっしょに食堂にむかった。





 



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