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#3-3

 弾け飛んだ馬車、その破片が襲撃者達に降りかかるがそれに気を止める者は誰もいなかった。男達の視線はある一点に集まっていた。


「さあ、開放してあげたのだから戦いなさい!」


「っせーな、言われなくても約束は守るさ。人間おまえらとちがってな」


 爆心地には二人の人物がいた。一人は今回のターゲットである第一王女オウカ・シンジョウ・ヒノモト。そしてもう一人、彼等にとって完全に予想外の人物が立っていた。


「ば、馬鹿な……馬車には王女しかいないんじゃなかったのか!?」


「それよりも何であいつがいるんだよ!!」


 男達の隠れた共通点、それは全員が裏闘技場で試合をしたことがあることだった。


「ふう、なんか首がスッキリするな。考えてみりゃ首輪を完全に外したのなんて15年ぶりだもんな」


「なにを呑気な事を言っていますの!?というか考えてみれば馬車を壊す必要なんて無かったのではなくて!?」


「うっせえな、そんなもんノリと気分でついやっちまっただけだ」


「やっぱり必要ないじゃないの!!」


 何故王女と自分達が知っている人物が漫才をしているのかは解らないが、男達はそんな疑問は脇に置いておくことにした。何故なら目の前にいるのはその場の全員が一度は敗北したことのある相手だったからだ。


「なんでこんなとこに無敗の剣闘士グラディエーターがいんだよ!」


 裏闘技場で11年間無敗。つまりその11年の間に裏闘技場で戦ったもの達の9割以上は直接的にしろ間接的にしろフリードに敗北した者なのだ。因みに残りの1割未満の者はタイミング的にフリードが出てない大会で優勝した少人数のもの達だ。


「さてと、てめえ等がどんな理由で襲ってきたかは知らねえが覚悟しろよ」


 フリードは馬車の残骸から車軸だったと思われる鉄の棒を拾い上げた。


「一人残らず叩き潰す!!」


 地面を蹴って一番近い男に肉薄して棒を突く。動揺していた男は避ける間もなく腹を貫かれて串刺しにされた。


「まずは一人……」


 それを皮切りに残りの男達も一斉に襲いかかる。あるものは剣を構えて駆け出し、またあるものは魔法や弓矢で遠距離から狙い打つ。


「くだらねえな!!」


 串刺しにした男から剣を奪ってフリードは迎え撃つ。飛んできた矢を右手の剣で全て弾き、魔法を左手で跳ね返して・・・・・走り寄る男を撃墜した。


「ウギャアア!!」


「馬鹿な!魔法を跳ね返した!?」


「ああ、これ? これは俺の特殊魔法を使っただけだ……こんなふうにな!!」


 そこからフリードはノーモーションで男達との距離を詰め、密集した場所に潜り込み一回転して剣を凪払った。


「アぇ……?」


 その場にいた男四人は何が起こったのか理解する前に息絶えた。


「残りは……弓二人に魔法二人で計四人か。つうかてめえ等、驚くほど手応えねえな。これならこの前の槍使いのほうが断然強いじゃねえか。……ったく、アクビが出るぜ」


 残りの四人は皆呆然としていた。無傷でで仲間が六人も瞬殺されたのだから無理もないだろう。

 やがて我にかえった魔法使いの一人が懐から術式が書き込まれた札をフリードに複数投擲する。


「この、化け物がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 それに続く形で弓使いの二人も矢を放つ。

 投げられた札から稲妻が迸り多方向からフリードを狙う。その間をすり抜けて矢が飛来する。が、フリードが剣を一凪するとそれら全てはあらぬ方向へ弾き飛ばされた。


「その程度の飛び道具じゃ俺には届かねえよ!!」


「嘘だろ!ここまで圧倒的に強くは無かったはずだ!!」


「生憎だが裏闘技場では魔力を制限されてたからな、制限が無くなった今の方が強いに決まってんだろう、が!!」


 再び飛んでくる稲妻を今度は素手で殴り飛ばす。同時に剣を逆手に持って駆け出す。まるで弾かれた様に爆発的に加速してすれ違いざまに弓使いの片割れを切り裂く。


「これで残りは三人……と思ったら一人逃げてるな」


 フリードの視線の先では先程の一斉攻撃に参加しなかった魔法使いの片割れが馬に乗って遠くへ逃げているところだった。


「ありゃあ追い付けねえな……仕方ない。

 おい運の良いそこの二人」


「「は、はひ!!」」


「選ばせてやる。このまま俺に殺されるのと身ぐるみ全部置いていくのとどっちが良い?」


 突然のフリードの提案に男達は一瞬でのっかり、装備と所持品、おまけにインナー以外の服を全てフリードに差し出して走って逃げていった。


 全てを見ていたオウカはただただ唖然とするしかなかった。

 フリードが強いということは知っていた。しかしあまりにも想像以上で規格外な強さを目の当たりにし、一言も発することが出来なかった。


「ほれ、終ったぞ」


「………………」


「おい、返事をしろクソ女」


「だれがクソ女ですって!!」


 いくら呆然としていても悪口にはしっかりと反応をするあたりオウカの人となりがうかがえる。


「と、ところで何故残りを逃がしましたの?」


「誰かが逃げたなら一人も三人も一緒だ。何より作者的に多対一は書きづらいから」


「取り合えず後半は聞かなかった事にしますわ」


 フリードは賊と御者の遺体から使えそうな物を選別することにした。もっとも服はサイズが合わなかったため金目の者と武器、そして食料を拝借した。


「さて、長かったがついに俺は自由だ……」


 こうして魔王の息子フリードは15年ぶりに自由を手にいれた。


「長かった……本当に長かった……俺は、自由だ!!」


 フリードは叫んだ。漸く手にいれた自由を確かめるように、今まで押さえつけていた感情を爆発させるように。

 しかしフリードは知るよしもなかった--













「で?それで三人共のこのこと逃げ帰って来たわけか」


「しかし旦那!いくらなんでも相手が悪かったとしか!」


 日ノ本勇国某所の小屋で仮面を着けた男の前にフリードから逃げてきた賊の男達が正座していた。


「まあ別にいいや、予想と違う結果だったけど目的は果たせたみたいだし」


「そ、それじゃ旦那、俺達は」


「うん、君達はよくやってくれた」


 よくやったと言われたことで安堵する三人、その三人に向かって旦那と呼ばれた男は笑顔で続けた。


「ご褒美だ……苦しまずに死ね」


 -ヒュン-


 言葉の意味を理解する暇もなく三人の頭は床に転がり落ちていった。


「ふ~……一石二鳥だと思ったんだけどな、そう上手くはいかないか」


 パチン、と仮面の男が指を鳴らすと同時に小屋全体が白い炎に包まれた。


「君が来るのを待っているよ、フリード君」


 もう一度指を鳴らすと、男の姿は消えた。後には燃え盛る炎と焼かれる死体だけが残った。





 --フリードは知るよしもなかった。今日この日、自由を掴み取ったことすら仕組まれたことだとは夢にも思わなかった。


・フリード:魔族

 かつて世界を滅ぼそうとしたと言われている魔王の一人息子。魔王以外で勇者カズマに傷をつけた唯一の人物。

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