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#3 運命の日

 六日目の朝、オウカの住まう屋敷に一通の手紙が届いた。差出人は彼女の母にして日ノ本勇国第一王妃のアカーシャだった。


「お母様から? 一体何事かしら?」


 手紙には至急王宮へ来られたし。としか書いていなかった。


「そういうわけだからバアヤ! 早速仕度を始めてちょうだい!

 それからジイヤ!厨房へ行ってコックに馬車の中で食べられる弁当を用意するように伝えてちょうだい!」


「かしこまりました」

「弁当でよろしいのですか? 道中の町で召し上がれてはいかがですか?」


「お母様が態々呼び出す程ですのよ。 なるべく早く王宮へ向かう必要があるわ」


 こうして六日目の朝は慌ただしく過ぎていった。




 フリードは夢をみていた。幼い頃の、何も知らない子供だった頃の夢を……


『ごらんフリード、今日は雲一つない快晴だから星がたくさん見えるだろ?』


『フリード、この世界は本当はもっと自由なんだ。 ワタシはね、魔族が自由に暮らせる世界を造りたい』


『お前の名前はね、お前の長い人生が自由であることを祈って母さんと一緒に考えたんだ』


 場面は切り替わる。

 城が白い炎に囲まれている。魔王の下へ騎士団が壊滅したと伝令が入る。


『フリードよく聞くんだ! 父さんと母さんはここに残って人間と戦わなければならない。だから恐いと思うけど一人で隠れていてくれ』

『フリードこれを、これは母さんが昔使ってた短剣よ。きっとお前を守ってくれるわ!

 ごめんね……フリード、側にいられなくてごめんね……』


『父さん! 母さん!』


 幼いフリードは必死になって手を伸ばした、脇目もふらず駆けた。しかしその手が届くことはなかった。フリードに出来たのは遠退いていく二人の背中をただただ見詰める事だけだった。


 やがて辺りは暗闇に包まれる。それでもフリードは必死になって両親をさがした。行く先も解らずに走り回った。

 すると、不意に肩を掴まれた。振り返るとそこには悪魔がいた。


『面白い、実に面白い。光栄に思えクソガキ、お前を暇潰しの道具として生かしておいてやる』


 ギリギリと肩が潰れそうなほど強く掴まれて、思わず呻き声が漏れる。


『この世界は娯楽が少なすぎる。魔王倒してエンディングまではいいけどその後がね、せめて裏ボスくらい欲しいとこだったんだよ』


 悪魔は楽しそうに笑った。


『楽しみにしているよ、早く強くなって僕に殺されにこい』


 そのままフリードは暗闇に引き摺り込まれていった。暗く、深く、出口のない暗闇の奥底へ……





 眼が覚めた、ここはこの数日で見馴れた物置部屋だった。


「親父……自由なんて、何処にもねえじゃねえか……」


 フリードはポツリと呟いた。ついに今日は六日目、遅くとも明日の昼頃には完全に意識を浸食されてしまう。


「何だったんだよ……俺の人生は……何のために12年間も地獄を生き抜いたってんだよ……チクショウ……」


 自然とフリードの目から悔し涙がこぼれ落ちた。

 涙を拭うとフリードは着替えを始めた。臭いのは嫌だとオウカが言ったため、服は毎日着替えが用意されている。もっとも全てボロボロの物なのだが。


 着替えを済ますと同時に部屋のトビラが開かれた。入ってきたのは何時もより少し軽装のオウカだった。


「起きてますわね。さあわたくしに[挨拶なさい]下僕」


 命令によってフリードの身体は自動的に服従する。最早表情以外は命令に逆らえないようになっていた。


「は……い、オウカ……さ…ま」


 フリードは床に正座し手を着くと、その手の甲の上にオウカの右足を乗せ、履いている靴に土下座をする様に唇を押し付けた。


「フフフ、その後は何て言うんだったかしら?」


 オウカは笑みを浮かべながら踵でフリードの手の甲をグリグリと踏みにじる。


「ありがとう、ございます……」


 フリードは抵抗一つすることなくこの数日で言い馴れてしまった台詞を吐いた。唯一表情だけは未だにオウカを睨み付けていたが。


「まだそんな表情が出来るなんて、本当に生意気な下僕ですわね! いい加減に諦めなさいな、貴方は一生わたくしの忠実な下僕として生きるしかないのよ!」

「グッ!」


 オウカはここぞとばかりに鞭でフリードを叩く、言葉とは裏腹にその表情には悦楽が浮かんでいた。


(ああ、時間が無いのに止められないわ! 奴隷に鞭を打つのがこんなに楽しいだなんて、それともこの男が特別なのかしら?)


 意外にもオウカが所有している奴隷はフリードただ一人、普段から使用人にきつく当たっているが鞭で叩いたりしたのはフリードが初めてなのだ。


「姫様! そろそろ仕度をしなければ間に合いませんぞ!」

「あん、もう良いところだったのに……解りましたわ。

 下僕、今日は遠出をするから特別に使用人の制服を着用することを許可しますわ」


 フリードが状況をうまく飲み込めないままバアヤが見ただけでフリードの採寸を把握し、即座にぴったりの制服をチョイスした。


「さあ姫様、奴隷といえど殿方の着替えを覗くのは淑女にあるまじき行為ですぞ。先に食堂で朝食を召し上がってくださいまし」


「解ったわよ「ゲフン!」解りましたわ。

 そういえば下僕、服が汚れるから貴方の朝食は無くってよ」


 そしてオウカは部屋から出ていった。

 フリードは着なれない制服を着ると後を追った。



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