表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

#2 奴隷の王子と主人の王女

 フリードがオウカに奴隷として買われてから三日目の朝が来た。

 フリードから見たオウカの性格は、ハッキリ言って最悪だった。


 奴隷生活初日。

 この日は剣闘大会の後だったのに加え、奴隷購入の手続きや、絶対に逆らえないようにと<奴隷の首輪>を最高級の物に付け替えるなどしていた。その後、護送車で何故か宮殿ではなくオウカが所有している別荘へ運ばれた。その時には既に辺りは薄暗くなっていた。


「わたくし小汚い奴隷を敷地内に置きたくはないですわ」


 着いて早々そんなことを言われ、庭にあった池の中に両手両足をロープで縛られた状態で放り込まれた。

 普段ならただのロープくらい軽々と引きちぎることができるのだが、新しい<奴隷の首輪>のせいで力が入らず水没しそのまま意識を失った。

 こうして奴隷生活初日が終了。


 奴隷生活二日目

 連日の疲れから泥のように眠っていると、オウカに叩き起こされた。というか蹴られた。

 オウカ曰く

「奴隷のくせにご主人様より起きるのが遅いとは何様のつもりですの!」

ということだった。

 蹴られた側頭部を押さえながらも周りを見ると、フリードが寝かされていたのは物置部屋だった。昨日気絶した後に放り込まれたようだ。自分の服装を見てみると下着とボロい服上下一式を身にまとった状態で、靴は無く裸足だった。

 もとより剣闘士をしていた時は今着ている物と似たような服装で牢獄暮らしをしていたフリードにとってはどうということは無かったが、明らかに嫌がらせが目的のようだった。

 部屋を観察していると、いつの間にか首輪に繋がれていたリードを引っ張られた。起きたのなら挨拶なさい!と頬を叩かれた。あまりの扱いにフリードはキッ、とオウカを睨む。しかしそれが気にさわったのか再び叩かれた。


 朝食をとりに食堂へ向かう。

 食堂の場所はフリードが居た物置部屋から丁度屋敷の反対側にあって、到着までに5分以上かかった。その事から屋敷の広さが窺えた。しかしその割には使用人の数は少なく、途中でメイド一人とすれ違った程度だった。すれ違った際にフリードは何故か違和感を感じたが結局この時には違和感の正体はわからなかった。


 食堂には、無駄に大きなテーブルの上に、無駄に豪華な料理が準備されていた。食堂には執事が一人だけ控えており、オウカが座る際に椅子を引き、献立の説明をするとそそくさとその場をあとにした。

 テーブルには当然フリードの分は用意されておらず、自分の朝食は無いのかと聞いたところ、オウカは無言で部屋の隅を指差した。見てみるとそこには犬用の皿に水とドッグフードが用意されていた。

 文句の一つでも言いたかったが、考えてみれば剣闘士時代の食事のほうが酷かったと思い直して押し黙った。しかしいざ食べようとしたら<奴隷の首輪>を通して[おあずけ]と命令され、そのままオウカが食事を終えるまでの約20分間[おあずけ]をくらった。

 オウカは食事を終えると、今度は[伏せろ]と命じてフリードを四つん這いにさせてから水の入った皿にフリードの顔を靴底で押し込んだ。


「喉が渇いたでしょう?たっぷりと飲みなさい。そうそう、朝食もちゃんととらなくては駄目ですわよ」


 そして水とドッグフードの皿に交互にフリードの顔を押し込み続けた。

 かなり屈辱的な食べ方だがドッグフードの味は悪く無かった。それが余計に屈辱だったのだが。

 食べ終ったら[溢れた水も舐め取れ]と命令されたが、その命令にはギリギリで抗うことができた。そして意外にもオウカが怒ることは無かった。


「最初から従順なペットよりも反抗的なペットのほうが躾がいがありますわ♪」


 楽しそうに嘲笑うオウカに対してフリードは怒りを募らせるが<奴隷の首輪>をつけているため何もできなかった。


 食事の後はオウカの勉強時間で、勉強部屋には悲愴感ただよう老教師が準備を終えて待機していた。

 そのまま勉強を開始すると思いきや、オウカは徐に椅子を退かすと再び[伏せろ]と命じた。


 抵抗空しくフリードは椅子が置いてあった位置に四つん這いになってしまった。

 その上に飛び乗る様に腰を掛けるオウカ。


「奴隷の分際でわたくしの椅子になれることを喜びなさい!」


 老教師が戸惑うのもなんのその、そのまま勉強を開始する。

 首輪の効果で筋力を抑制されているため、フリードの手足はブルブルと震える。

 一方、オウカの方は開始数分で授業に飽きて話を聞き流していて、老教師に間違いを指摘される度にフリードの脇腹を踵でゴスゴスと叩いている。堪らずフリードが床に肘を付けてしまうと

「どうやら椅子の調子が悪いようですわね。ジイヤ、今日の勉強はここまでですわ!」

と言って無理矢理勉強を終了させた。


 勉強が終わったらテラスで外を見ながらティータイム。優雅に紅茶を飲んでいる様に見えるが、下を見るとここでもフリードを椅子にしていた。


 正午になると昼食をとりに再び食堂へ赴く。食堂に居たのは朝廊下ですれ違ったメイドだった。やはり使用人の数が少すぎるとフリードは感じた。

 昼食も豪華な料理ばかりだった。しかしオウカが食べたのは精々三分の一程で、残りはメイドに捨てるように命じてせきを立った。

 捨てるのは勿体ないだろ、とフリードが言うとオウカは呆れた表情で

「御生憎様、この料理はわたくしに出されたものですわ。どうしようがわたくしの勝手よ」

といった。


「捨てるくらいなら使用人の分に回すなりできるだろうが」

「あら、何故わたくしの所有物を使用人ごときに施さなければならないのかしら?わたくしの所有物に触れていいのはわたくしだけよ!」


 フリードの異議をまっこうから否定するオウカ。彼女は独占欲が凄まじく、自分持ち物はたとえ廃棄する物だったとしても絶対に他人に分け与えることは無いのだ。屋敷にいる使用人が少ないのも、オウカの性格に耐えられずに次々と辞めていったのが理由なのだ。

 結局残りの昼食は全て処分されてしまった。フリードの分の昼食は勿論存在しなかったが、つい昨日まで一日一食で過ごしてきたのでとくに思うところはなかった。


 昼食のあとは午後の勉強。場所も教師も朝と一緒、序でに言えばフリードを椅子にするのも一緒だった。違いといえばオウカが乗馬用の鞭を持っていたくらいだった。


「しっかりと椅子にならないと今度は鞭で叩きますわよ」


 オウカの発言に不満そうな顔をすると早速背中を鞭で叩かれた。


 午後の勉強はその後特に問題なく行われた。魔法学で簡単な魔法を習う度にフリードで実験をするという流れだったが何とか耐えきった。


 勉強が終わり自由時間になった。オウカはフリードを庭に引きずって行った。庭に着くとオウカはボールを取り出してニッコリと微笑んだ。


「今からわたくしがボールを投げますので[犬のように拾って来なさい]」


 投げられたボールをフリードの身体は本人の意思とは関係なく勝手に追った、四足歩行で。そしてボールをくわえて・・・・戻ってきた。


「クスクス……貴方なかなか似合っていますわよ♪ どんな気分ですの?自分よりも年下の少女に犬のように振舞った揚げ句に軽蔑されて、とても不様ですわ♪

 あら?なにかしらその目は?な・ま・い・き ですわよ、犬以下の奴隷の分際で!」


 オウカの嘲笑に思わず内心が顔に出る。しかしそれをオウカに見つかって即座に鞭で叩かれた。

 何度かボール投げを繰り返すと日が傾いて来た。オウカはフリードに四つん這いに成るように命令すると、その背に座り込んだ。


「わたくし脚が疲れてしまいましたわ。[食堂まで運びなさい]奴隷」


 抵抗を試みるが結局命令に逆らえずに運ぶはめになった。


 食堂へ着くとやはり夕食が用意されていた。部屋のすみには今朝と同じようにフリードの夕食も用意してあった。ちなみに夕食はキャットフードだった。

 そこからは朝と同じ様に[おあずけ]をくらい、頭を踏みつけられながら水とキャットフードを食べた、そして朝と同じ様に[溢れた水も嘗めとれ]と命令された。そしてフリードは朝と同じ様に抵抗--できなかった。


「クス♪ 驚いているようですわね!何故一度抵抗できた命令に逆らえないか教えて差し上げますわ。貴方に巻かれている<奴隷の首輪>は装着者を時間をかけて蝕んでいく特別製ですの。一週間も身に付けていればどんな奴隷でも心も身体も主人に逆らえなくなるほどですのよ」


 つまり今日の朝から夕方までに、フリードはこの命令に逆らえなくなるほど首輪に浸食されたのだ。


「あと五日、少くともたった五日で貴方はわたくしの従順なペットに生まれ変わるのよ」


 それはフリードにとって最悪な情報だった。あと五日が過ぎると、たとえ首輪を外しても自分は自由になることができないと言われたのだ。12年間毎日死ぬほどのめにあいながらも焦がれた自由、その自由に二度と手が届かなくなるのだ。


 その後のことは覚えていない。気が付いたらフリードは今朝の物置部屋に戻っていた。

 固い床の上に寝そべりながら今日1日の事を反芻する。理不尽なめにあった、というか理不尽なめにしか遭わなかった。一日に二食出たのは12年ぶりだったがそんなものでは釣り合わない程に理不尽なめにあった。


(あの野郎…て、女だから野郎じゃないか。とにかくアイツ性格悪すぎるだろ、わがままで、独占欲強くて、すぐに叩いてくるし、無茶な命令してくるし、理不尽の塊じゃないか!)


 結論、オウカはSだった。そしてフリードはMではない為、ただただ辛いだけだった。


(あと五日、いや四日か……なんとか首輪を外さないとな)


 いろいろ考えてはみるもののアイディアは浮かばない。あーでもない、こうでもない、と考えている内にいつの間にかフリードは眠りについていた。


 そして三日目の朝をむかえるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ