表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

#1-2

 フリードが舞台に現れると観客のブーイングがよりいっそう激しくなった。

 対戦相手は既に舞台で武器を構えて待っていた。


「ククク、聞こえるかクソ以下の魔族野郎?これが世間様の声だ。貴様ら魔族に存在していい場所なんて何処にも無いんだよ!!」


「ガタガタうっせーな!怖いから黙っていられないってか?デケー武器と図体してる割りにはとんだ臆病者だな!この短小野郎が!!」


 対戦相手からの中傷に対してフリードは一歩も引くことなくやり返した。これはもはや彼が闘う前の恒例行事となっていた。それほどに魔族に対する差別は激しいのだ。だが今回でこれも最後になるんだな、と首に巻かれた<奴隷の首輪>を摩りながらしみじみと思った。


『"両者とも既に火花を散らしております!!

 今日こそフリード選手の命日になるのか!?はたまた無敗伝説が続いてしまうのか!?

 それでは決勝戦!レディィィ、ファイトォ!"』


 試合開始!先に動いたのはフリードの方。リーチの短いグラディウスで槍の相手をしなければならないため、とにかく間合いを詰めなければ話にならない。槍の突きを警戒して斜めに踏み込んで距離を詰める。

 しかし相手は決勝まで勝ち上がってきた熟練の槍使い。直ぐに対応して槍を連続で突いてきた。突きので残像が槍衾ができるほどの速さで槍を突き続ける。


 それをつねに移動しながら右手のグラディウスで弾く!弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く、とにかく弾く!

 時には躱し、時には槍を滑らせるように逸らしてとにかく隙を窺う。


 ゴルザードの方も間合いを詰められないよう細心の注意を払ってフリードに槍を突く。突いては引いて再び突く、ただの繰返し作業が必殺の武器になり得るのは彼が一流の槍使いだからだろう。


 先ほどまで騒がしった観客達も今や固唾を飲んで見守るばかり。武器のぶつかり合う金属音だけが闘技場にひびく。


 そして膠着状態になるが、槍とグラディウスの重量差から両者のスタミナに差が出てくる。結果、徐々にフリードが押していく。フリードが一歩進めばゴルザードが一歩退る。

 このままでは不利と悟り、ゴルザードは一旦距離を離そうと大きく後退する。そこにフリードが打ち合いの最中密かに足の裏に集中していた魔力を爆発させて一瞬で距離を詰め、ついに射程範囲内にゴルザードをとらえた。


 ゴルザードの脳天目掛けてグラディウスを振り下ろす!それをゴルザードは槍を頭上に掲げて受け止める。その瞬間フリードは空いてる左手で槍を掴むと、鉄棒の逆上がりの要領でゴルザードの顎を思い切り蹴りあげた。

 顎を蹴られたゴルザードはグラつくが一瞬で持ち直す。しかしその一瞬の間にフリードは蹴り上げた足をそのまま振り下ろして踵落としを叩き込んだ。そのまま前のめりに倒れるゴルザードの後頭部にグラディウスを叩き込む!

 一瞬鈍い音が響いたと思ったらゴルザードは倒れ、そのまま気絶した。


『"き、決まった~!痛恨の一撃だ!これはゴルザード選手の安否が気になる所です。なお仮にゴルザード選手が死亡した場合、フリード選手は即刻死刑に成ります!

 おっと!?フリード選手、倒れたゴルザード選手に手を翳して何かを呟いています。これはもしや!?"』


 フリードは詠唱が完了した魔法をゴルザードに放つ。


「【癒せヒール】!」


『"出ました~!毎度お馴染みのフリード選手の勝利パフォーマンスだあぁぁ!!"』


"Buuuuuu!"


 魔族の選手は相手を殺してはならない。しかし手加減していては勝てる勝負にも勝てない。そこでフリードは相手を殺す気で攻撃したあと直ぐに魔法で少しだけ治療して死なないようにしているのだ。なお<奴隷の首輪>の影響で、魔力の9割以上を制限されているため一試合につき一度きりしか使えないのだ。


「……ぐっ、お、オレは一体…?」

「お目覚めのところ悪いがまた眠ってもらうぜ」

「グェッ!」


 そして辛うじて意識を取り戻した相手をスリーパーでシメ落とすのだ。

 ゴルザードが今度こそ戦闘不能になったのを確認すると審判は舌打ち混じりにフリードの手を上げた。


『"決まった~!無敗伝説更新だ~!!

 優勝は魔族の剣闘士フリードだぁぁ!!"』


「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 フリードの勝利の雄叫びは観客のブーイングをかき消すほどに大きく力強かった。奴隷になってからの苦渋の15年間が報われた瞬間だった。


 少くともフリードはそう信じていた。











 控室に戻ったフリードは解放の瞬間を心待にしていた。自由、ただそれだけを求めて闘ってきたのだ。何度も夢に見た、何度も焦がれた。

 フリードが望んでいることは昔からただ一つ、自由になって平穏な日常を笑って過ごすこと、ただそれだけなのだ。


 ガチャ、と誰かが控室にやって来た。やって来たのは国有の剣闘奴隷を管理する管理者役の男とその付き人。


「やあやあ、待たせたね化物。優勝おめでとう」


「ハンッ、てめえのキモイ面を拝むのも今日が最後なんだ。少しの遅刻くらいどうでもいい」


「いやはや、まさか本当に一億G貯める剣闘奴隷がいたとはね~。普通は夢半ばで死ぬはずなんだけどね~。とくに魔族はね」


「それでは賞金の授与を行う。優勝賞金1千万G、そこから各種税を--」


「そのわざとらしい説明は要らねえ、とっとた寄越せ」


 フリードに限らず魔族が優勝した場合、税金と称して賞金を引かれる。最終的に授与されるのはたった1%なのだ。


「ま、そういうことだから10万G渡しとくね--」


 たったの1%の賞金を積み重ねてついに今日、フリードは一億Gを貯めるという前人未到の偉業を達成したのだ。

 しかし、次の瞬間にフリードは自分の耳を疑った。


「--君の新しいオーナーに、ね」


「は?」


「新天地での君の活躍を祈ってるよ」


「お前、何を、言って……」


「いや~、実は今朝急~に!君を奴隷として買い取りたいという上客がいらしてね。何分試合前だったからね、剣闘奴隷の君をどこに売り飛ばそうが我々の勝手なのだよ」


「テメエ等!騙したんだな!最初から俺が解放される直前に売り飛ばすつもりだったんだな!」 


「さて、何のことだね?ああ、そう言えば君が今まで貯めた賞金は全て我々の懐に収まることになっているから」


 フリードは頭を鈍器で殴られたようにグラついた。淡い希望は一瞬で絶望に呑み込まれて消え失せた。


「ふざけるな……フザケルナァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


「[ひれ伏せ]」「ガッ!?」


 感情のまま男に飛びかかるが、<奴隷の首輪>の機能で拘束されてしまう。それでもなおフリードは男を睨み付けた。


(コロシテヤル!コイツダケハゼッタイニコロシテヤル!!)


「しかし無敗の剣闘士グラディエーターも無様なものだな。そうそう、新天地にいくんだ。激励の言葉を送ってやろう」


「12年間、無駄な努力をご苦労ザバァ!」


 瞬間、フリードは弾かれるように飛び起きて男の鼻っ柱に拳を叩き込んだ。<奴隷の首輪>の拘束を一瞬だけはね除けたのだ。しかし、所詮動けたのは一瞬。それも殴られた男は鼻血こそ出していたが骨折はしていない。つまりその程度威力しか出せなかった。


「貴様~!!ゴミ以下の魔族の分際でオレの顔を!!殺してやる!!」


 殴られた男は激昂して控室に置いてあった手頃な短剣をフリードに向かって振りおろそうとした。

 そこへ--


「お止めなさい!!それはわたくしが買い上げた奴隷ですわよ!」


 それを止めたのはいつの間にか入口に立っていた少女だった。護衛と思わしき人物を二人つれているのと、身につけた豪華な衣装やアクセサリーから相当の金持ちであることがうかがえた。


「で、殿下!?しかしこの奴隷はこともあろうに--」


「くどい!このわたくしに二度も同じことを言わせる気かしら」


 男は悔しそうに引き下がる他になかった。

 少女はフリードを見下ろして喋りだした。


「ふふん♪ 予想以上に活きのいい奴隷ね。わたくしの名前はオウカ・シンジョウ・ヒノモト!偉大なる勇者王カズマ・シンジョウ・ヒノモトの娘にして貴方の新しいご主人様よ!」


 こうして魔族の青年フリードは奴隷になった。

 これこそが後に歴史に語られる『黄昏の交差』と呼ばれる出来事。ただの二人の出会いの話である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ