#1 剣闘士の青年
建国15年の日ノ本勇国が所有する裏闘技場で、今日も剣闘大会が開かれていた。
裏闘技場で行われる闘いは表のそれとは違って、殺しあり、賭博ありと所謂非合法な催しだ。命懸けということで当然参加者の優勝賞金は表とは桁違いの額となっており、金に眼が眩んだ命知らずや無理やり参加させられた剣闘奴隷が命の奪い合いを行うのだ。
『"レディース・エ~ンド・ジェントルメン!!"』
『"いよいよ本日のメインカードです!"』
司会の声に反応して観客が盛り上がる。表では拝めない殺し合いを見物しに来た者や賭博目的で訪れた者達で観客席は満員状態で立見がでる程だ。
『"L国出身の傭兵!邪魔する奴は皆殺し、対戦相手全員を自慢の剛槍で血祭りに上げてきた 赤い槍使い ゴルザァァァァドォォォォォ!!"』
"ワァアアアアアアアアアアアア!!!"
『"対するは、この裏闘技場にて未だ無敗!かつて世界を恐怖のドン底につき落とした魔族の青年!おそらく観客の殆どに死を望まれている 常勝無敗の最凶最悪の剣闘士 フリィィィィィィドォォォ"』
"Buuuuuuuuu~!!"
決勝戦の二人の選手が紹介されるも観客の反応は正反対だった。裏闘技場ではあまり見られないだが、片方が魔族ならば納得だ。
魔族とは人間に近い容姿をしている一族で、特徴として身体のどこかに魔眼と言われる紋様が浮かんでいる。人間にとって魔族は、かつて世界を滅ぼそうと襲いかかってきた悪逆非道の種族で、いわば人類の敵なのだ。
人間と魔族との間に勃発した戦争は魔族側が優勢で、人間社会を壊滅寸前まで追い込んだ。
しかし18年前、Z国が行った勇者召喚によって異世界から勇者が召喚されたことで状況は一変した。召喚された勇者は僅か三ヶ月の訓練でメキメキと実力をつけて、魔族の長の魔王を討伐するために数人の仲間と共に旅立った。勇者パーティーは魔王軍相手に連戦連勝、そして僅か3年で魔王を討伐して戦争に終止符を打ったのだ。余談だが、その後勇者はZ国の王から王位を継ぎ、日ノ本勇国と国名を改めて今でも国の頂点に君臨している。
それから殆どの魔族は打ち取られ壊滅、生き残りは尽く奴隷にされた。噂では今でもどこかに集落を築き上げてひっそりと暮らしているそうだ。以来魔族は人間に虐げられて生きている。剣闘士の青年フリードもその魔族の一人だ。
彼は魔王軍が壊滅した15年前の当時4歳の時に人間に捕まって奴隷となった。しかし7歳の頃、奴隷として従順さに欠ける性格と、生まれ持った強靭な身体と魔力を見込まれたことが原因で、皮肉にも魔族を壊滅させた日ノ本勇国に剣闘奴隷として売り飛ばされたのだ。
最初の1年間は表の剣闘大会に出場していた。その間なんと全戦全勝。しかも闘いのインターバルも通常よりも短く、普段の暮らしも人間の奴隷以上に過酷な環境下でだ。だが表の大会で魔族が活躍するのは国民の士気を下げることになるため、2年目から裏の大会のみに参加させられているのだ。そこにはあわよくばフリードが戦死しないか、という意図があった。基本殺し許可の裏の大会であっても魔族が人間を殺すのはご法度で、勝つためには相手を気絶させるか降参させるしかないのだ。敗北条件は人間も魔族も同じなのだが、毎回魔族が気絶または降参した時に限って審判が偶然余所見をしてそのまま魔族の選手が殺されるという事故が起きるのだ。はっきり言って魔族のフリードにとって不利にも程があるルールだ。
しかしフリードは勝ち続けた。誰一人殺す事無く、不利なルールと劣悪な生活環境という圧倒的なハンデを負いながら11年もの間、裏闘技場で常に勝ち続けていった。
フリードはどれだけ絶望の淵にあっても希望を見失わなかった。何故なら『賞金の合計額が1億Gに達した際、平民になることが認められる。』という法律が存在するのだ。そしてこの法律は魔族にも適用される。12年の剣闘士生活でフリードが貯めた賞金はあと僅かで目標に達する程になったのだ。
そして今、フリードは控室で瞑想をしていた。辛いことがたくさんあった。一日一食しかでないゴミの様な飯を泣きながら食した。ボロボロになった身体を引きずって闘いに挑んだこともあった。優勝賞金をわけのわからないルールで殆どを没収されるのなんて恒例行事だった。いつしか母親似の金髪は白く染まっていた。
そんな地獄のような日々も今日で最後だと思うといつも以上に気合が入った。
やがて何時ものように自分の名前と観客のブーイングが聞こえてきたため、フリードは相棒の刃引きのされてグラディウスを引っ掴んで闘技場へ向かった。
「絶対に、絶対に自由になってやる!」
裏闘技場でのフリードの最後の闘いがついに始まる!!