受難の日々 6
(ガラガラガラ)
溶室のドアが開いて誰か入ってきたみたいだけど、湯気で良く
見えない。目に入りそうなお湯と格闘し終わったカズ君も、見えて
ないみたい。あ、そうか、カズ君には、いつものメガネがないから、
見えないんだ。
その人が、こっちに来た。
(誰だろう)
と目を凝らしてると、その人が声をかけてきた。
「やっぱり、サクラちゃんだ~。」
(また、コイツ?あちゃー、ツイてないよー。)
入ったばかりだけど、もう出ようかな~。カズ君と一緒だから、
そういう訳にもいかないよな。山田さんは、オレの隣りに入ってき
た。そして、オレの体をじーと見てる。う、ちょっと、キモイかも。
その妙な視線に気がついたカズ君が、オレと山田さんの間に割
り込んできた。山田さんは、カズ君だと、妙な視線は送ってこない。
だが、どうやって湯船から出ようか?悩む必要はなかった。山田
さんは、湯船にずっと入っていられないタイプらしく、さっさと浴室
から出て行ってしまった。
「トモ、ありゃ、すごいな。」
「もう、・・・勘弁して欲しい。」
「風呂は、これから、一緒に入ることにしような。」
和希は、それくらいしか、言ってやれる言葉が見つからなかった。