神と救い難い亡者たち
バッドエンド注意。
神への冒涜シーンあり
※如何なる神々とは無関係な空想の神であることを念頭に置ける方のみ閲覧ください。
天国にゆくべき亡者がひとり、神のもとへとやってきた。彼にはマヒトと言う名があった。親からもらった大事な名だと言う。神は何故彼が天界に来たのかを知っている。
だから、両手を広げて哀れむように言った。
「おお可哀想に。会う者すべてを差別したり贔屓したりせず真っ当に生き、日々親の介護をしていたのにも関わらず、最後は交通事故に巻き込まれたのだな。お前こそは報われるべき人だ。是非天国へおゆき」
神の顔を見てマヒトは首を振って応えた。
「お言葉ですが神様。僕は天国などゆきたくありません」
神は次に出る言葉を予測して言った。
「お前の親も、天国にゆけるはずだ。安心しなさい。ゆきさきは同じ。お前たちは報われるのだ」
マヒトは、苦虫を噛み潰したように、目を細めて神を見た。彼は「神様も分かっていないみたいですね」と口を曲げて言う。
神は少しムッとして「秘め事が有るなら話しなさい。私の前では、すべて赦される」と言った。神はマヒトの脳内を探った。
そこにちらつくのは、
「父のことです」
マヒトの父だ。彼は続けて神に話す。
「僕の父は、ろくでなしのクズです。もし僕が死んだら母が父を殺すと言っていました。その言葉が本当なら僕は、人殺しのゆく地獄へとゆきたいのです」
神は困った。
彼の言う親は『母親』のことで、彼女のゆく先に自分もゆきたいらしい。しかし、人の起こす未来のことは神にも分からなかった。ずっと天界に亡者を引き留めるわけにもいかず。
マヒトが、
「きっと母は地獄にゆきますよ」
そう言った。
神はたくさん地獄の恐ろしさを語った。しかしマヒトの父親は地獄の鬼も震えるほどの拷問をマヒトや妻に行なってきたのである。
(救いようのない亡者だ。しかし……)
神だからと言って情だけで動くわけにもいかない。少なくともマヒトは現世で何も悪いことをしていない。よって、天国ゆきなのは確かだったのだ。
「マヒトや。お前はどうあがいても天国ゆきだ。それがお前の最も救われるべき道なのだ」
マヒトは、目の前の神を見て、
「……それは、僕が悪いことをしないからですか」
そう言いながら神のもとへと歩いてゆく。彼は迷うことなく神に馬乗りになった。彼の行動を予測できなかった神が、
「何をする」
と言うと、マヒトは神の身体を何発も殴った。無表情で、何を考えているか分からない。しかし相手は神だ。マヒトを吹き飛ばすことくらい容易い。
吹き飛んだ彼に、神は言った。
「神を殴るなど、大罪にも程がある。本当は地獄の業火で永遠に焼いてもらいたいほどだ!」
「……焼いてくれるまで、神様を殴ります……」
「なに」
マヒトは立ち上がり、神に近づくと、神の服に掴みかかって言った。
「親は地獄へゆくんだ! だから、僕も地獄へゆく! それが僕らのした世界で一つの約束なんだ!」
「……もし、母親が裏切って天国を選んだら、どうする」
「親は必ず父を殺す。僕が神を殴ったように」
神は、マヒトの決意の目と自分に向けられる殺意が怖かった。だから、地獄への穴をつくり、彼を地獄へとおとした。
「……スッキリしないものだ」
神が顔に付いた血を拭う。しばらくすると、マヒトの父親と母親がほぼ同時に彼の元へと現れた。
「おぉ……」
事情を察した神は、哀れむように地獄への穴を見て、こう述べた。
「金の工面に困った挙句、暴力で妻を殺したお前は地獄へ堕ちろ」
息子の安否を確かめるマヒトの母親に、神は嘘をついた。
「あなたの息子は広大な天国を旅したいと言っていた。いつか会えるはずだ」
それを聞いた母親は涙して天国へと逝った。マヒトの父親は、
「何が地獄だ。要は好き勝手できる場所におとされるだけじゃねぇか。見てろよ、鬼をぶっ倒して従えて、同志集めて天国に攻め込んでやる。その時はマヒトもテメェもボコボコにしてやっからな」
そう言って地獄の穴へと落ちた。
「……人とは、うまくゆかぬものだな」
そう神は思った。
思ったところで、人の業は変わらぬのであるが。
了
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