第一章"戻ってきた日常"5
──漆間 朔月さんへ
いつもあなたのことを見ていました。いきなり恋人にだなんて言いません。
でも、お話だけでも聞いて欲しいので三日後の放課後に体育館裏でお会いできませんか?
「……いや、とりあえずどこの誰か名乗るとかしません?」
手紙の中身はよくあるラブレター風味ではあった。
真横の柊から物凄い視線を受けつつ読んで一息。書いた人がうっかりなのか恥ずかしがり屋なのか、差出人の名前が書いてない。
「ひょいっと」
「あ、ちょっと柊!」
抗議の声をあげるも遅く、柊は手紙を読んでいる。
えらい真剣に読んでいる。どうして?
「……困ったなぁ」
そう、困った。僕は悠斗周りの恋模様を見守るのを楽しみたいだけで僕自身がどうこうっていう意思は今は基本的にない。
なのでそんな僕にラブレターなんて用意されてもどう応えることもできないから返し様がないわけである。
今までの僕であったなら。
「隠してるつもりなのか隠す気がないのか」
この手紙からは感じるんだ。この現代ではそうあるはずのないものが。
手紙に残されているのは仄かな魔力。果たしてこれは僕が普通でないことに気付いて出した手紙なのか、そもそも僕が魔力に気付くわけがなくて何かしらの作用を籠めて作られている手紙なのか、まったく見当がつかない。魔力だけはあってもその運用がほとんどできないので、ある程度感知することはできても解析や分析はできない。なのでどうしたものかと内心頭を抱えているのである。
「漆間くん、私はこれ行かない方がいいと思うな」
「そういうわけにもいかないでしょ、全力で無視はさすがにできないって」
できればそうしたかったけど学校社会的にも、この差出人の意図を知る意味でも、避けるわけにはいかなかった。
「だめ、漆間くんに悪い虫がついちゃうよ」
「柊、素が出てるって」
「いいの今はそんなの。とにかく行っちゃダメ」
「いやいやいや、無視したら僕最低男になっちゃうよ」
「そうしたら私が囲ってあげるから」
怖い怖い。柊ってばなんか言ってることがやばい気がする。顔もずっと真顔だし。
いつでもニコニコ、男子に勘違いさせる笑顔が武器の女の子はどこに行ったんだ。
「僕はそういう趣味はありません。あのね、行っても断るだけだし、そもそもなんでそんなに行かせたくないのさ」
「それは……その……」
顔色が赤くなったり青くなったり忙しそうな柊。
「もしかして、僕がこれ受けちゃうと思ってたり?
ないない。柊ならわかってるでしょ? 僕がこの手のモノにどう思ってるか」
「うん、まぁ……そうだけど……」
まぁ、もし受けるにしても柊に許可を取る必要自体はないわけだけど、なんかこれ言ったらやばい気がするので言わないでおく。
「僕がキミの本性知ってるようにキミも僕の心の内をある程度知ってると思ってるから、わかってくれてると思うんだけど。
曲がりなりにも幼馴染組を除くと学校で付き合い一番長いし」
去年今年と同じクラスなので学校での付き合いは相当に長い。
あの出来事以来柊とはよく話すしこうして柊からも話しかけてくれるし。
「そ、そうなの? わたしが一番付き合い長いんだ……」
「そりゃあね。じゃなきゃ悠斗周りのこととか話してないし」
「そっか、えへへ……」
急に笑顔になる柊。ニコニコ愛想笑いじゃない普通の笑顔だ。
それからはっとしたようにまた真顔になって、
「で、でもやっぱり行くのはオススメできないって言うか……一応、行くときは教えてね」
「まぁ、それくらいなら良いけど。野次馬禁止だよ?」
「わかってるって」
なんとなくいつもの調子に戻って来た気がする。
今まで柊がこんな風にグイグイ詰めてくることなんてなかったから、どうしたんだろう。
この手紙の何が柊の琴線に触れたのか、僕にはよくわからなかった。
Tips
柊 遥
愛想よく笑ったり上手く言葉を選んだりして相手を勘違いさせるような言動を取ることがたまにある。
今は相手を勘違いさせないようにしてるが朔月はそれに気付いていない模様




