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第一章"戻ってきた日常"3

「さて、と」



深夜零時を回ったころ、僕は窓を開けて夜空を見上げていた。

お父さんお母さんごめんね、朔月は少し悪い子になります。



「悟られないようにしないとね」



自分の中にあるあらゆる"気"を絶って、勢い良く窓から飛び出す。その瞬間に部屋の窓を閉めることも忘れない。



「よっと」



手頃な家の屋根に一旦着地。そのまま間髪入れずにまたジャンプして次の手頃な窓に飛び移る。

目指すは隣町にあるまぁまぁな大きさの山。今の僕は車や電車よりも速く動いているから、隣町に行くくらいそんなに時間もかからない。



「なんか、こっちでこんなことしてるのは不思議な感じだ」



もちろん目撃なんてされないように自分の中にある気──気配は絶ってある。更に言えばこういったジャンプでの着地で音を鳴らすこともないから、僕を視認できない限り僕は存在していない。

魔力を身体に回せばもっと速くできるけど、今はとりあえず最低限の魔力を身体に浸透させて走る。



「お、見えてきた」



速度を落とさず山の中に突入する。

深夜の山は本当に真っ暗で、木々の音がまるで魔物の唸り声のよう。

普通の人がこの時間にこんなところにいたら迷子確定だ。



「使う機会がないと思ってたけど、案外そうでもなさそうだからね」



では何故そんなところに僕がいるのか。それは至ってシンプルで、僕の鍛錬のためである。

力を持って帰ってきた以上、腐らせるわけにはいかない。魔王の首すら刎ねたこの(ぼく)も、放っておけばナマクラだ。



「──すぅ」



息を吸うと同時に抑えていた気を放つ。この気だけで触れたものを斬れるように。

僕は刃だ、一振りの刀だ──



「斬るも斬らぬも、僕次第」



風切り音も置いて、いくつもの斬撃を素振りする。

目を閉じたまま気配の感じるままに、ここにある()()()()()()()()()()()



「──銀」



勇者が名付けた僕の斬撃。技というかただ気の向くままに刀を振り抜いてるだけだけど、彼はこれを銀と呼んだ。



「……あれ」



目を開くと、全ての葉っぱを斬らないようにしてたはずなのに幾つか切れ目がついていた。

あれは直接斬撃で狙った場所じゃないから、僕の気の放出によるものだ。



「……参ったなぁ」



技術や肉体的には平気そうだけど、気の抑え方は異世界にいた頃より下手になってそうだ。

いつも通りでやろうとすると鋭すぎる剣気が無差別に斬り裂きかねない。



「仕方ない。鍛錬怠るべからず、だ」



とは言え戦闘になんてほぼならないだろうし、僕が本気で戦う機会もそうないだろう。

一応、こちらにも魔物のようなものはいるからそういうのが出てきたら対処しよう。

とは言え実戦が望めない以上、やれることも少ないから限界はあるか。



「……なーにを言ってるんだか」



実戦が望めない。なんて。まるで戦いたがる人みたいじゃないか。

いいんだ、こっちの僕はあくまで悠斗の周りのドタバタを楽しむ学生で。あの時の──魔王と向き合った時の緊張感はきっともう味わえないんだから。



「……帰ろっか」



一人で振り返っても何も良いことなんてない。

夜も更ける前に帰るべく、来た時と同じようにして家に向かうのだった。



─────



「まただ……」



少し前に魔力が一瞬だけ爆発するように現れて、すぐに消える。

あまりにも不可解な魔力に新手の魔の物かと外に出てみたけど、そういうのではないみたい。

今もまた魔力が一瞬爆発しては消える。この魔力の持ち主は一体何を考えているのだろう……



「先週のアレといい、何が起こってるって言うの……?」



先週、尋常じゃない魔力が観測された。

私たち協会や防人(さきもり)の一族が大慌てで発生源やらを確かめたりしたけど一瞬の出来事だったのもあってか追い切れず、正体不明(アンノウン)として目下捜索中だ。

アレから魔の物があの魔力を求めてなのか夜な夜な現れるせいで私たちも緊急出動するハメになったりしている。



「明日だって学校あるのになぁ。お肌とかに悪いよもう」



小刻みに発生していた魔力が発生しなくなった。

まるで、どこかに移動していたみたいな。もしかして私みたいな感知能力に長けているタイプで、協会の夜狩り(よがり)に気付いて逃げたとか?



「……とりあえず、今はいいか。私は私の担当をちゃんと討伐したし、帰って報告して明日に備えなきゃ」



ふと、今日話した彼の顔がチラつく。

また話がしたくて、早く明日にならないかな。なんて思いながら私は家へと歩き出したのだった。






Tips

漆間 朔月

魔王との初遭遇かつ接敵時に首を刎ねている(倒せてはいない)、以降決着の時まで魔王は接近戦闘を可能な限り避けていた。

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