第一章"戻ってきた日常"2
「今日も一日終わり、っと」
放課後になってぐっと背伸びをする。久々に授業を受けて思ったけど、結構忘れてる……
近くに迫ってるテストは事故のせいにしてなんとかするにしても、この分を取り戻すにはちょっとちゃんと勉強しないとだなぁ。
「と、そうだった」
スマホで悠斗に放課後用事があることを伝えて、クラスメイト達に挨拶をして僕は教室を後にしたのだった。
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「漆間」
「うん? あれ、真中さん」
目的地に向かう途中に声をかけられて声の方を向けば、黒髪をポニーテールにした目つきの鋭い不良少女がこっちを見ていた。
真中 由香、悠斗に恋する女子の一人で美人さんだけど男子もぶっ飛ばしちゃう系な不良少女だ。
「ごめん、ちょっと用事があって。悠斗なら今日は商店街に行くんじゃないかな」
「そうじゃない。いや、それもいいかもだけど。
事故ったって聞いたけど、大丈夫なの?」
「ああ、うん。おかげさまで無傷でした。
頭打ったらしいけど、精密検査も受けたから一応問題なし」
えへんと胸を張っておく。ちなみに僕なんだけど、目の前の真中さんや梓やらに好かれる悠斗が、でもあまりにも鈍くて気づかないもんだからこの人達に情報提供することを求められていて、悠斗に悪し様にしないこと、他の人にも迷惑をかけないことを条件としてこうやって悠斗の行動先とかを教えてあげたりしている。
これは彼女達の中の暗黙の了解にもなってるらしく、僕に認められないと悠斗にアタック仕掛けるのも難しいみたいな話にすらなってるらしい。
まぁ、僕としても悠斗を取り巻く状況は面白いし、でもなるべく幸せな結末にはなってほしいからそこは平等に接することとしている。悠斗に被害が及んだらそこは絶対に許さないし。
「そっか。なら良かった」
「ご心配ありがとね」
「別に、三崎も柏木も悲しんでたから。私も心配ではあったし」
意外? なことにヒロイン組(僕命名)はバチバチこそしてるものの普通に仲は良い。
相手をするのが誰でも友達! みたいな悠斗だからかもしれないけど、真中さんも不良ではあるけど普通にいい人だし。
「用事あるんだっけ。それじゃね」
「うん、またね。真中さん」
真中さんに手を振って目的地へと向かうことにする。
実に数年ぶりの学校生活は、なんとなく自分がどういう人間だったかを思い出させてくれるいい時間だなぁと思った。
──同時にこの日々を思い出すほどに、自分の今の在り方も忘れない様にさせられてる気もするけど。
─────
「失礼します」
「いらっしゃい。一週間ぶりね、朔月」
僕が呼ばれたのは生徒会室。今日は生徒会は無いのかそこにいたのは一人だけ。
我らが生徒会長にして幼馴染最後の一人、柏木 薙紗さんだ。
「ご心配おかけしました。柏木先輩」
ぺこりと頭を下げると、目の前の薙紗さんは物凄い機嫌の悪そうな表情に変わった。
梓と同じちょっと暗めの赤い髪で、短めの梓に比べて腰くらいまで長いのと前髪も目元で切り揃えてある、日本人形のような美人さんなので、不機嫌になったらとっても怖い。
「先輩禁止、敬語もだめ。今ここにはあなたと私しかいないのよ」
「一応、公私混同は避けてるつもりなんだけど」
「悠斗に聞かせてやりたい言葉だけど、疎外感を感じるからだめよ」
座って。と促されて席に着く。薙紗さんはこの見た目にプラスして頭も良ければ運動もできる、リーダーシップも完璧と生徒から絶大な人気を受けて生徒会長を務めている。
頭の良さ以外はカリスマ性とかも梓はあったりするから、柏木家の姉妹はそういう家系の子なのかもしれない。
「すぐにでも会いに行きたかったのに、いろいろ忙して行けなかったのよ」
「別に大丈夫だよ。梓からも聞いてたから」
入院中梓から薙紗さんがかつてないくらい取り乱してたとは聞いてたので、心配してくれてたのは知っている。
いつでも落ち着いた人だからあまり想像はできないけど。
「あの子は余計なことを……」
「悠斗もそれ聞いてニヤニヤしてたよ」
「……今度お仕置きかしらね……」
怖い怖い。とは言え本当にお仕置きなわけでもなくチクチク小言で詰められるくらいのはず。たぶん……
「可愛げがあるって思われてた方がいいと思うけどね」
「……誰に?」
「悠斗に」
ちなみにこの薙紗さんも悠斗のことが好きな人だったりする。
当人からはっきり聞いたわけじゃないけど、よく情報収集として僕を呼び出しては僕や悠斗のことや悠斗自身も呼び出して二人で話したりとかしてるみたいで、うまーく立ち回っているみたいだ。
「……はぁ、いちいちそういうことを言わなくてもいいのよ。あなたそのうち自分の発言で自分を追い詰めるわよ?」
あちらの世界で賢者に言われたようなことを言われる。
──自分がもう少しどう見られているか考えて発言したほうがいいわよ?
そんなことを言われたっけ。とは言え、僕としてもこちらでは脇役の立場だったし異世界についてからはそんな浮ついた話も出来事もなかったし。
「ところで朔月。入院中は大丈夫だった?」
「入院中? うん、精密検査とかもやって全部無事だって言われたし」
薙紗さんはこちらへ歩いてくると僕の身体をペタペタと触ってきた。肩とか背中とか腕とか一通り触ってから頭に手を置いて、
「朔月って思っていたより筋肉質なのね」
「自分ではよくわからないけど、そうなのかな」
あちらでの僕ならそうだけど、こっちの僕は肉体は当時のままのはずだしそんなに大きな変化とかは無さそうだけど……
「まぁ、本当に何も無さそうだしいいわ。
帰りましょう、朔月。退院祝いに私が夕飯を奢るわ」
「え?」
「ちゃんと朔月のお母様にはもう連絡して了承を得てるから心配はいらないわ。さ、行きましょう?」
相変わらず行動が早いと言うかいつの間にか全部出来上がってると言うか……梓と違って用意周到な人だ、薙紗さんは。
僕の手を引いて立ち上がらせて、薙紗さんはあまり見せない満面の笑みを浮かべたのだった。
Tips
柏木 薙紗
本当に悠斗が好き?
漆間 朔月
身体能力自体は異世界の時とさほど変わっていない、ということは……?
悠斗が好きな人達
ヒロイン組と命名。悠斗絡みで火花を散らすことがあっても基本的に仲は良い。




