プロローグ"ひとつめのはじまり"
異世界から帰還した──世間的には事故に遭って目を覚ました僕は病室で暇を持て余していた。
こちらでの時間は事故からほんの数日。でも僕の精神は数年の時間が経過していて、いまいち気持ちが定まらなかった。
……肉体的にはそんなに成長していなかったので、自分の身体のギャップは感じずに済んでるのは喜ぶべきか悲しむべきか。いいもんね、身長別にそこまで高くなくたって。
「瞑想とかしてもいいけど、ここじゃちょっと危ないしなぁ」
瞑想中、僕は自分を人と認識しない。ちょうどそのタイミングで看護師さんが回ってきたら大変だ。
僕の気に当てられて倒れられでもしたら困る。
「あれだ、記憶のすり合わせをしよう」
また学校に通うことになるのだし、自分の身に起きたことを整理する。
うろ覚えになりそうなところは記憶障害のせいにでもしておけばいいか。
言い聞かせて、僕はそっと目を閉じた。
─────
「おーい、朔月! 帰ろうぜ!」
放課後、少し日も暮れてオレンジ色に照らされる教室に大きな声が響く。
声の主は僕の幼馴染で親友である悠斗。そうだった、普通に僕たちは帰宅するはずだったんだ。
「はいよ。すぐ行くから待っててー」
わざわざ迎えに来てくれたのに待たせるのも忍びないと、そそくさと帰り支度を済ませて僕は教室を後にした。
「サツキ、おつかれー!」
「梓もお疲れ様」
廊下に出るともう一人の幼馴染である梓もいて、僕達は三人並んで歩き出した。
これが僕ら幼馴染のいつもの日常。日によってはここに別の人が加わったり、そうでなかったり。
「あー、テストダルいなぁ」
「ねー、ほんとめんどいー」
チラ、チラと二人の視線がこちらに向いてくる。
時期的には中間テストの前だったか、そういえばテスト前になるとこの二人はいつもこうだった。
「あのね、もうちょっと控えめにこっち見てくれない?
いや、もう諦めてるからいいんだけども」
別に成績が上位というわけでもないけど、中の上くらいをいつもキープしてる僕はテストが迫ると幼馴染二人からこうして捨て犬のような視線をぶつけられるのだ。
自業自得極まりないのはそうなんだけど、教えてもらおうというやる気自体はあるのがなんとも、こう……
「てことは……」
「神様仏様サツキ様?」
「僕は人間です。もう、次の休みの日にね」
「やったー! それじゃ、あたしの家でいい?」
「おう! いやーほんと助かるよ朔月!」
結局この二人の笑顔に勝てなくて甘やかしてる僕も大概だとは思うんだけど、そんな日々がきっと僕は好きだったんだ。
それにしても僕は人間です、ね……今同じことが僕に言えるのかな。
「お姉ちゃんも二人に会いたがってたからちょうど良かったし」
「薙紗さんが?」
「確かに、学校じゃなかなか顔を合わせないしね。
とは言え受験生だしあんまり邪魔しても悪いような気もするなぁ」
「だなぁ。俺もそりゃたまには話したいけどさ」
ニコニコ笑顔の梓に対してうーんと僕ら男二人。
薙紗さんて言うのは梓の一つ上のお姉さんで、僕らの幼馴染の最後の一人。学年が違うからか最近はあまり会うことがないのと、我が校の生徒会長だったりするので気軽に会って話すのも目立つからあまり自分から声かけに行けたりとかできてなかったりする。
「大丈夫! ちょっとだけだし、お姉ちゃんの息抜きにもなるから」
「まぁ、それなら……なぁ」
「うん、薙紗さんの無理ない範囲くらいで」
お姉ちゃん子の梓は僕ら二人の返事に満足したのか。良し! と言うと先頭を歩き出したのだった。
─────
「それでさ──」
僕の横では梓が悠斗にいろんな話をしている。
これだけ切り取ると僕を省いているように思われるかもしれないけど、そんな意図はなく──なんなら突然こちらに話しの矛先が飛ぶこともあったりするので油断ならない。
ならないが、そうはならない確信もある。何故なら梓は悠斗が好きだからである。
梓だけじゃない、同級生の不良から先輩風紀委員、僕と同じクラスの図書委員の女の子やらお嬢様学校の元同じ中学の子などなど……悠斗はとにかくモテる。
僕の友人曰く「ギャルゲーの主人公」とのこと。さしずめ僕はその友達役だ。
「朔月はどう思う?」
「僕? うーん……」
実のところその例えは合っていたりする。小さい頃から僕と悠斗はなんとなくそういった女の子関係のトラブルに巻き込まれて、最後を締めるのが悠斗で。っていう流れが大体だ。
──あたしさ、悠斗のこと好きなんだよね。サツキ! 協力してもらえない?
体感数年経った今でも覚えている。僕の初恋は始まることなく終わったわけで、当時悠斗に対抗心を持ったことがあった。けどこんな出来事が何回も続けば諦めもつくもので、それ以降の僕はそんな悠斗を取り巻く状況を平等に、面白おかしく見守らせてもらっていたんだった。
「サツキはあたしの味方だよね!」
「いーや、俺の仲間だよな!」
手のかかる幼馴染達が大好きで、そんな悠斗を好きな人達も真剣で、だからどんな結末になってもみんなか納得できるといいな。なんて思ってた。
──ああ、そうだ。そんな時だった。横から聞こえてくるクラクション。音のした方を見れば二人の少し後ろを歩いていた僕に向かって車が突撃してきたのだった。
Tips
三崎 悠斗
王道系ギャルゲーなりハーレム系なりの主人公気質。シンプルにいい人。
漆間 朔月
異世界召喚が無ければ悠斗の良き理解者であり彼を想う少女達の良き協力者であるはずだった。




