第7話 祖母パナメーラの1日
朝の光が差し込む畑。
祖母パナメーラはぱっと目を開け、庭の花々に向かって微笑んだ。
「おはようございます〜! 本日もパナメーラ、最高の笑顔で皆を癒やします〜!」
その瞬間、猫がひょいと膝に乗り、鳥が肩に止まる。
「ふふっ、皆、今日も私のイベントに参加するのね♡」
まるで恋愛ゲームのヒロインがパーティメンバーを指揮するように、自然と生き物たちが集まってきた。
「本日のミッション:ジャガイモの収穫! 失敗したら村の平和にマイナス100ポイントです〜!」
パナメーラは腰にかけた籠を片手に、カイエンににっこり笑いかける。
「おや、カイエン? あなたのスキル『俊敏な少年』を使う時が来たようですね〜♡」
カイエンは苦笑しながら、祖母の後を追う。
「……またゲームみたいな口調で命令されてるんだけど。そもそも、俊敏な少年って何だよ…」
「えへへ、これはチュートリアルです〜! 成功するとボーナス経験値が入りますよ〜」
実際はボーナスどころか、祖母が手伝ってくれるので収穫が多少は早くなる程度。
ジャガイモを掘るカイエンの手元に、パナメーラがさっと手を添える。
「ふふっ♡ よくできました〜! カイエン、今日のポイント+50です!」
「まぁ、うれしいけど……褒めすぎだろ……」
祖母の眼差しは真剣そのもの。だがどこかゲームの勝利セリフっぽく、可愛らしさ満点だ。
畑仕事の途中、村人の老夫婦が倒れかけていた。
「わっ、大丈夫ですか!?」
パナメーラが颯爽と駆け寄ると、回復薬を差し出し、老人は一息に飲む。するとすっくと立ち上がった。
「ふふっ、これもイベントスキル『聖なる支援』の効果ですね〜」
村人たちは唖然としつつ、カイエンは思わず突っ込む。
「またゲーム口調だ……普通に助けてやれよ! それにあの回復薬、いくらすると思ってんだよ…」
「えへへ〜、このほうが経験値的に楽しいじゃないですか〜♡」
作業の合間、パナメーラは突然カイエンの肩に手を置いた。
「ふふっ、カイエン。あまた、今日も最高に可愛いです〜♡」
「え、おばぁさ……」
「はいはい、イベント『孫溺愛』発動です〜! 今日のミッションは、カイエンを一日中溺愛すること!」
カイエンは赤面しながらも、祖母の手を払うことができない。
「だ、だからそんなスキル要らないって……!」
「ふふふ、それではボーナスポイントが発生しません〜。あ、笑顔も回復アイテムになりますよ〜」
パナメーラはカイエンの頭を軽くなで、猫のようにくるっと巻きつく。
「うふふっ、今日もカイエンは可愛いなぁ〜♡」
カイエンは心臓が爆発しそうだが、祖母の溺愛は止まらない。
昼食時、パナメーラは村人たちに向かって元気に宣言する。
「本日のボーナスイベント! 私の手作りサンドイッチ、誰でも一口どうぞ〜!」
村人たちが集まると、カイエンに向かってウィンク。
「カイエンには特別に2倍サイズです〜♡」
「いや、もう恥ずかしいからやめてくれよ……」
周囲から「なんて孫孝行!」と称賛されるが、カイエンは赤面で固まる。
夕方、村の広場でパナメーラは空を見上げる。
「今日も平和な一日でしたね〜♡」
ふとカイエンの肩に手を置き、ゲームのエンディング風に言う。
「カイエンと過ごせるだけで、この世界のイベントはコンプリートです〜♡」
「え、おばぁさま……その言い方……」
「ふふっ、ボーナスエンディングの時間ですよ〜♡」
カイエンはどうしていいかわからず、ただ祖母の手をそっと握り返すしかなかった。
その夜、パナメーラは日記帳に記録する。
「今日のミッション:孫カイエンを最大限溺愛。結果:ポイント2000獲得。全員笑顔、村の平和維持成功」
寝る前にもう一度、カイエンに向かってウィンク。
「おやすみなさい〜、カイエン♡ 明日もイベント発動です〜!」
カイエンは思う。
「……この家族、いや、おばぁさまだけで、俺の一日がすでにキャパオーバーだよ……」
だが、どこか温かく、安心できる日常でもあった。