第4話 日常2 朝の奇跡
辺境の村の朝。
姉ミトスは教会の鐘より早く目を覚ますと、にこやかに外へ出ていった。
「おはようございます〜。今日もいい天気ですよ〜」
その瞬間、曇り空だったはずがパァッと晴れた。
村人たちが手を合わせて拝む。
「さすが聖女様だ……! 天気まで操るとは」
「いや、ただの偶然だろ」
カイエン(主人公)は冷静に突っ込む。
しかし奇跡は続く。
洗濯物を干せば風がちょうどいい具合に吹き、
転びそうな子供がいれば、必ずミトスの背後にいた村人が受け止める。
「……なんでこう、毎日ラッキーが積み重なるんだ」
「えへへ、みんな助かってるからいいじゃないですか〜」
その日は村祭りだった。
父ティーガーは屋台の設営で張り切り、また柱を折る。
母ミュレーヌは舞踏会用のドレスでまたまた勝手に壇上を占拠。
四天王はそれぞれ「支配」「策略」「美貌」「暗殺」で祭りを盛り上げる(?)。
そんな混沌の中、ミトスは朗らかに祈りを捧げた。
「みなさんが楽しく過ごせますように〜」
……ドンッ!
その瞬間、祭りのくじ引きでありえないはずの村人全員が当たりを引き当て、
屋台の焼き鳥がなぜか焦げずに全品完璧な焼き加減になった。
「おおおお! 聖女様のおかげだ!」
「違う! これはただの偶然!」
カイエンは必死で否定するが、村人たちはすでに信者の目をしていた。
だが問題は料理だった。
ミトスは「今日は特別に、私の手作りを皆さんに!」と宣言してしまった。
「おい、やめろ! 姉ちゃんの料理だけはダメだ!」
カイエンが止めるが、すでに遅い。
鍋に何をどう入れたのか分からないが、
煮込みは紫色に発光し、蒸気から鳩が飛び出し、最後には爆発音が響いた。
「ひぃぃぃぃ!」
村人たちが逃げ惑う。
しかし、なぜか鍋から溢れた液体が村の老馬の傷口にかかり、奇跡的に馬が全快して走り出した。
「聖女様の料理は……治癒薬だったのか!」
「ちがうから!! 人間は食べたら絶対にダメだ」
結局、祭りは「奇跡の聖女ミトス大感謝祭」と化し、本人は「えへへ〜、普通にやっただけです〜」と笑顔で手を振る。
一方で弟カイエンは放心していた。
「俺、絶対この家族のフォローで寿命縮む……まだ10歳なのに……」
その背後で妹レミリアが「お兄ちゃんだけ魅了効かないのずるい!」とすね、兄ベルクスは「姉さんの奇跡は俺が記録する!でもまずは、……レミリアからだな」とカメラを構える。
そんなのどかな?日常だ。
――辺境の村は、今日も奇跡と混沌に包まれていた。