第2話 辺境の村の日常その2
村の中心には、もう一人の英雄――ティーガー、そう、伝説の勇者がいた。
かつて邪神を討伐し、世界を救った男。
今の彼の戦場は、村のゴミ拾いと町内会(村内会?)の会合である。
「父さん、また世界を救うのか!?」
「いや、今日はゴミ拾いの日だ!」
邪神をも倒した勇者の剣は、今やゴミ拾い用のトングに姿を変えていた。
それでも胸を張って歩く姿は、元英雄そのもの。
村人たちは微笑みつつ、「また勇者様が張り切っている」と噂する。
周囲には四天王が付き添い、畑仕事や村の雑務を手伝う。
武の四天王・ブラチスは力任せにゴミを運び、智の四天王・ブリュックは整理整頓の計画を立て、美の四天王・ヴァルメは「美しく捨てる」をモットーにゴミを並べ、闇の四天王・ビジョンは静かに不審物を監視する。
……完全に村の平和を守る“伝説の護衛団”である。
そこに、華麗なる悪役令嬢、ミュレーヌが現れる。
「ティーガー様、台所の火加減がこのままでは村、いえ世界が焦げてしまいますわ!」
冷たい声で指摘しつつ、視線はしっかり夫――勇者ティーガーに注がれている。
「ティーガー様!あなたは相も変わらず役立たずですわね!」
言葉だけはきついが、その腕は夫に絡められ、目線には愛がこもる。
村の子供や四天王に向かっても、容赦なく罵詈雑言を浴びせるが、表情の端々には家族への愛情が垣間見える。
今日もミュレーヌは、豪華なドレスにエプロンを合わせて畑に立とうとする。
「オホホホホ! このドレスの汚れは私の名誉の負傷!ではなく、そう!名誉の不浄な穢れ、いや、汚穢ですわ!」
結果、靴は泥まみれ、スカートは破れるが、本人は一応意に介さないようにしている。。
料理は一流なのに、父が持ち上げないと台所には立たないし、高級食材を惜しげもなく使うので、家計は今日も火の車だ。
「年間の食費のエンゲル係数は90%を超えているのではないか」と、兄がブツブツ呟いているのを聞いたことがある。
ティーガーはゴミ拾いの合間にため息をつく。
「……毎日、家も村も戦場だな」
しかしその背中は、勇者の風格を漂わせる。
彼にとって戦闘とは、魔王や邪神ではなく、家族の日常を守ることに変わったのだから。
ミュレーヌは言葉と態度にギャップがある。
「カイエン! 今日も尻拭いに勤しむのですわね! 情けない息子ですこと!」
そう罵りつつ、そっと頭を撫でる。目線や小さな仕草で、愛が伝わる。
誰が見ても、「言葉は冷たいが、本当は愛してる」と分かる演出である。
ブラチスは「魔王様に仕えていた頃と同じだ……」とため息をつく。
ブリュックは「策略は完璧だが、村人には通じない」と困惑。
ヴァルメは「美こそが戦力」と言い張りつつ、妹レミリアに負けて悔しがる。
ビジョンは無言で安全確認。だが、心の中では「家族を守る使命は変わらない」と決意している。
――こうして、元英雄も悪役令嬢も、日常の戦場で全力を尽くす。
村の人々にとって、これはもはや日常風景だ。
そんな中、兄ベルクスも相変わらずである。
「よし、今日も妹の写真を……」
異世界知識を総動員して作ったカメラで、妹レミリアを隠し撮りしようとする。
「お兄ちゃん、また撮ってるの!? やめてってば!」
小悪魔は怒りの罵詈雑言を浴びせる。
「くっ……この罵声も……良き……」
ベルクスの心に電気が走るような、妙なゾクゾク感が生まれる。
顔はかっこいいのに、行動は気持ち悪い――そんな兄である。
それでも彼は妹を愛でるため、今日も撮影に挑む。
そして姉、ミトス。天然聖女である。
「ふわぁ……おはようございます」
笑顔で軽く手を合わせる、それだけで畑の作物が驚くほど伸びる。
村人は「ミトス様の機嫌を損ねるな」と神妙な面持ちで仕事に励む。
料理は壊滅的で、祖父タイカンでさえ「これこそ最終兵器に匹敵する……」と震えたレベル。
しかし、姉の天然の奇跡は、村の平和を支える重要な力なのである。
最後に妹、レミリア。
「お父様、大好き~!」
その笑顔で、父の財布からお小遣いが消え、翌日にはレミリアの洋服が増える。
小悪魔の力は、魔王も勇者すら霞む恐ろしさ。
カイエンは「またか……」とため息。
そのカイエンは今日も、家族の尻拭い係である。
家では農作業や父の暴走を村民に詫びて回り、兄の隠し撮りの現像、四天王の暴走を止め、姉の奇跡を村民を回り内緒にしてと懇願し、妹の小悪魔行動を常に監視下に置く――そして、家の家系のすべてを最終的に解決する。
「……今日も、俺の一日が終わった」
普通の少年はそう思いながらも、魔法に頼れない分、冷静に家族全員のドタバタをまとめる。
だが内心では、この奇妙で忙しい毎日、賑やかな家族に囲まれる日々が、少しだけ楽しいのも事実だった。
一人称・二人称・三人称とか、、最も苦手です。
許してください。。