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第23話 四天王の恋バナ

聖女ミトスには、誰にも言えぬ秘密があった。


それは――耳がダ◯ボ、ということだ。いや、、あの映画のことではない。


いや、物理的に大きいわけではない。聖女とパワーにより、どうしても周囲の会話が耳に入ってしまうのである。


特に「恋バナ」とか「異性」とかいう単語には敏感に反応してしまい、聞き流すつもりでも勝手に脳が受信してしまうのだ。


その日もミトスは、家の中庭で花の世話をしていた。


といっても、実際に世話をしているのはミュレーヌで、ミトスはしゃがんで花を眺めていただけである。そこへ、四天王の美女たちが集まってきた。



そして草むしりをはじめる。四天王も年頃の女性だ。自然と話は異性の話になる。


「ねぇ、みんなの理想の人ってどんな人?」


発案したのは美の四天王ヴァルメである。金色の髪をかき上げ、唇を艶やかに濡らしながら妖艶に微笑む。


「恋バナ……」


「いいじゃない、たまには」


「たまには?」


「いえ、常にしてますね」


智の四天王ブリュックが眼鏡を押し上げながら冷静にツッコミを入れ、武の四天王ブラチスは顔を赤らめて腕を組む。闇の四天王ビジョンは影のように物陰に座り込み、無言でうつむいていた。


――やばい。


ミトスは無心を装った。だが心臓はドキドキ。土に刺した花の苗がカタカタ震えるほどである。




「まずは私から」ヴァルメがうっとりと瞳を細める。

「私の理想は……カイエン様」


「えぇっ!? カイエン様!?」


「年下じゃん!」


「まさかあの若造を……」


「ふふ。まだ青い果実ほど、これから熟す楽しみがあるのよ。育てがいがあるっていうのかしらね」


にやりと笑うヴァルメ。


武のブラチスがうめき声を漏らす。


「わ、私は……タイカン様だな」


「魔王様!?」

「うん……強くて、寡黙で、圧倒的な背中……。誰よりも力強いのに、畑仕事に命をかけている……そういうギャップが……」


ブラチスは頬を赤く染め、恍惚とした表情になる。


「私は……ベルクス様………………かな」


眼鏡を直しながら、ブリュックが意外な答えを出した。


「ベルクス!? あの意味不明な行動と奇行のかたまりを!?」


「そう、あの突拍子もない言動と収集癖……論理を超越したあの生き方は、私にないものだからこそ惹かれるのよ。あと、知識量の底が見えないところも」


残りの視線は、ビジョンに集まった。


闇の四天王は意外にも、もじもじし出す。うつむいたまま、声を絞り出すように言った。


「……わ、私は……レミリア様」


「えぇええっ!?」


「な、なんですって!?」


「性別は……関係ない。あの年で既に魔性の女……。彼女の存在は私の心を闇ごと照らす……っ!」


ビジョンは真剣な目をして、拳を震わせていた。




全員が言い終わった後、しばしの沈黙が落ちる。


そして――。


「で……ミトス様は?」


「!?」


ミトスの心臓が止まりかけた。


「な、なななななにを……」


「聞こえてたんでしょう?」


「え、えっと……」


四天王は全員がにやにやと笑みを浮かべ、聖女を包囲する。


観念したミトスは、小さくため息をつき――そして答えた。




「わ、私の理想の人は……その……あそこの大きい人が好きです」


中庭に沈黙が走った。


次の瞬間――。


「ぶっっっっっ!!!!」


全員がお茶を吹き出した。いや、偶然にも全員が同じタイミングで口にお茶を含んでいたのだ。


その飛沫は、聖女パワーにより虹となって弧を描く。


「わー! きれい!」ミトスは無邪気に拍手する。


だが、四天王たちは顔を真っ赤にしながら、聖女の顔と股間を交互に見ていた。


「ミ、ミトス様……」


ブラチスが喉を詰まらせながら聞く。


「ど、どうして……その、大きい方が……」


「だって!」


ミトスは胸を張って答える。


「大きいと、激しく動かすと、すっごく気持ちよさそうだから!」


「!!!!!!!!」


全員が絶句した。


ブリュックは額に手を当て、深い溜息をつく。


「ミトス様って……見かけによらず、…おと………こ……遊び……激しい人……?」


「ま、まさか……聖女様が……っ」


「手練れ……!?」


四天王たちの脳内で、聖女ミトスのイメージが一瞬にして崩壊する。




「え? だって……」


ミトスはきょとんとしながら両手を広げる。


「大きな手で、いっぱい頭を撫でてもらいたいんです!」


一同「…………」


「おっきい手って、それだけで安心するじゃないですか。あたし、子供のころからずっと憧れてて……頭わしゃわしゃって撫でてもらったら、どんなに幸せだろうって……」


四天王は全員、耳まで真っ赤になり――。


「………………」


「………………」


「………………」


一斉に土下座した。


「わ、我々が愚かでしたあああああああああ!!!!」



その後。


「でも、やっぱり……」


ミトスはふとつぶやいた。


「大きな手で、激しく動かしてもらうのって……きっと気持ちいいですよね!」


「「「「もうやめてえええええ!!!!!」」」」


中庭に、四天王たちの悲鳴がこだました。







四天王が赤面しながらのたうち回っているその様子を、影のようにひょっこり覗いていた少女がいた。


――レミリア。


魔性の笑みを浮かべて、指先で顎をつつきながらにやりとする。


「ふ〜ん……。男の人に激しく動かしてもらうと気持ちがいいんだぁ……」


耳年増な彼女の脳内は、すでにあらぬ方向に妄想を膨らませていた。


「へぇ〜。明日、ベルクスに言ってみよっと♪」


軽やかに鼻歌を歌いながら去っていくレミリア。


四天王とミトスは、その背中が何を意味しているのか全く気付いていなかった――。




そして翌朝――。


「レミリアたーーーーーーん!!!」


村中に響き渡るベルクスの絶叫。川の魚も跳ね、村人たちも飛び出すと、広場で手を振り回し絶叫するベルクスの姿があった。


「だ、だってレミリアたんが……『大きい手で激しく動かすと気持ちよさそう』って……!」


四天王は青ざめ、ミトスは顔を真っ赤にして頭を抱える。


レミリアはケロッとした顔で、背中で手を組み小首をかしげていた。


「え? 本当だよ? ミトス姉が言ってたんだもん」


聖女ミトスは必死に弁解。


「ち、違うの!手で頭を撫でてほしいって意味よ!!」


しかし、村に響くベルクスの絶叫は止まらない。こうしてまた、村に新たな伝説が生まれたのであった。








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