第19話 征服?制服の後日談
かつて四天王たちが村の仕立て屋に押しかけて作らせた「伝説の制服」。
最初の頃は、村人たちの視線も熱く、彼女たち四天王の美しさと威厳に拍手を送る声が絶えなかった。
ブラチスが筋肉を誇示しつつポーズを決めれば、村人は「わっ……すごい力強い!」と歓声をあげ、ブリュックが理知的に戦略を語りながら制服を着こなせば、「賢くてかっこいい……!」と口々に褒めた。
ヴァルメは鏡を片手に見惚れるほどの美を見せ、ビジョンは静かに黙々と着こなしても、そのクールさに惚れ惚れとする声が漏れた。
しかし、栄光は長くは続かなかった。
原因はもちろんベルクスである。
彼はある日、ひらめいたように「熟女コスプレ」という概念を村に広めてしまったのだ。
四天王たちが着る制服は、急速に「若者用の衣装を着たお姉さんたち」という残念な目で見られる対象になってしまう。
村人たちは最初は賞賛していたが、徐々に「ああ……ちょっと可哀そう」「元気な人があの格好は……」と遠慮がちに見てしまう。
ブラチスは筋肉を誇示しても「うーん……力任せすぎて可哀そう」との声、ブリュックが戦略を語ろうものなら「制服はいいけど説明はちょっと……」と困惑の目。
ヴァルメが鏡を磨けば「うーん、可愛いけど……ちょっと大人の領域?」
ビジョンが静かに着ても、もはや誰も褒めない。
四天王たちは口には出さないものの、内心「もうやめたい……」と落胆。
そこに現れたのが、小悪魔・レミリア。
レミリアは日替わりで制服を着て、村の広場で歌や踊りのライブを開始。
人々は彼女のパフォーマンスを目当てに集まり、四天王の制服はもはや「レミリア専用」のイメージに変化していった。
しかし、この制服が完全に眠ることはなかった。
ある夜、祖母パナメーラが突如、制服を手に取り、鏡の前で身にまとう。
年齢を重ねた妖艶な姿と、少しコミカルな要素の混ざったその姿は、本人は全力でセクシーを演出。
そこへタイカンが帰宅し、二人の目が合う。
「お、おお……!」言葉にならない歓声を上げるタイカン。
パナメーラはにやりと微笑み、制服姿で迫る。
タイカンは心の奥底で興奮を隠せず、普段は畑仕事に没頭する真面目な顔も、今夜ばかりはまるで少年のように赤面。
二人は夜通し、寝室で興奮の時間を過ごす。
翌朝、案の定、寝坊した二人は慌てて朝食を食べる羽目に。
タイカンの腕にはまだ制服の香りが残り、パナメーラは微笑みつつも満足げ。
だが、この一部始終を目撃した者がいた。
それは、母であるミュレーヌである。
普段は家族の掃除、洗濯、料理をこなす元悪役令嬢な彼女。
その目が怪しく光ったのは、決して不満ではなかった。
ミュレーヌがにやりと笑ったのは、もちろん理由がある。
彼女もまた、夜、同じ制服を着て、夫ティガーに迫ろうと企んでいたのだ。
普段は家事を仕切る母、悪役令嬢としての威厳を保つ彼女だが、夜の寝室では一変、うぶな乙女のごときギャップを演出するつもりだった。
心の中で密かに思う――
「ふふ……これで旦那様を翻弄してやるわ……夜の秘密兵器はこれに決まりね」
ミュレーヌはこの計画を胸に、こっそりと寝室で衣装を準備。
夜のティガーの反応を楽しみに、彼女はにやりと笑い、家族の日常に密かな笑いを仕込むのだった。
こうして、四天王の制服は、最初の熱狂から残念な視線を受け、レミリアのステージ衣装に変わり、祖母パナメーラの夜の道具としても生き、さらに母ミュレーヌの秘密兵器にまで昇華することとなった。
ベルクスは相変わらず「熟女コスプレ」の影響力を誇示し、村のマニアを喜ばせる。
カイエンは絶望しつつも、家計と家族の騒動を天秤にかける毎日。
村の平穏は幻想に過ぎず、家族の寝室や広場では、想像以上の小さな嵐が日々巻き起こっている。
小悪魔レミリア、妖艶パナメーラ、冷静な母ミュレーヌ。
そして呆れつつも付き合わされるカイエンと、策士ベルクス。
村の平穏な日常は、もはや誰も保証できない。
だが、この奇妙で騒がしく、愛と笑いに溢れた日々こそ、彼ら一家の「家族らしい日常」なのだった。